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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第7章 大転移-楽園編

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 シャラザードが見つけた赤い……何かを見て吠えた。
『うぉおおお!』

 僕が知る限り、山の間を自由に飛び回る赤いものは、ひとつしか……いや、一体しか知らない。

「あれはターヴェリ?」
『あやつしかおらんわ!』

 シャラザードが速度を増して追いかける。
 しかし縦に横に延びる山の稜線が、幾重にも視界を遮る。

『うぬぬぬ、どこへ行きおった? ……あそこか!』
 山の中腹に平らな部分が複数あり、そのひとつへ降り立っていった。

『くぉらぁあああ……待てい』
 シャラザードも続いて降りる。

『なんだい、まったくうるさいね、坊やは』
 ターヴェリは尻尾で黙らせた。

『お主、我に負けたくせに、なんだこの仕打ちは!』
『負けたって……この前の戦いのことかい? たった一度勝ったくらいで自分が強いと思い上がっているんじゃないだろうね』

『ぬわんだと!?』

 前回、シャラザードとターヴェリが戦い、一応の決着が付いた。
 結果は僅差でシャラザードの勝ち。

 地力ではターヴェリに分があったが、互いの属性技の応酬で、かすかにシャラザードが上回った感じだ。

 その後、月魔獣の支配種が出現するというとんでもないハプニングがあった。
 ボロボロの状態で戦うことになり、結局シャラザードは大怪我を負ってしまったという経緯がある。

「レオン先輩、お久しぶりです」
「やあ、アンネラ。元気そうだね」

 ターヴェリの背にいるのは、後輩のアンネラ・ディーバ。
 いまだ学院の二回生ながら、一般の竜操者と同じく、大転移のために働いている。

『主よ、なぜきゃつの主人と仲良く話をするのだ』

「僕はシャラザードとターヴェリの確執とは関係ないし」

『いま我が上下関係をだな、きゃつに教えている最中であるのだぞ』

 シャラザードとしては、長年の因縁に白黒つけたいらしい。自分が上だとはっきり分からせたいのだ。
 一方、ターヴェリは何戦もした上で、負けたのはただ一度だけ。

 しかもほぼ僅差での出来事とあって、「シャラザードも成長したな」とは思うものの、シャラザードのいうような、完全な上下関係は無縁と考えているようだ。

 僕もそんな感じだ。
 僕とアンネラはまだ竜を経てからそれほど経っていない。

 シャラザードの言うことが真実ならば、もっと互いの魂が混じり合い、さらに強くなれる余地が残っている。

 一度の戦いで、強いとか弱いとか決める意味はないと考えている。

『ぐぬぬ……主よ。裏切るのか』

「いや、本気で戦ったんだから、これからは仲良くやれよ」
 あのときは、そのために場を設けたようなものだし。
 ということで、シャラザードの戯れ言は無視することにした。

「それで先輩。後ろの方はどなたですか?」
「ロザーナさんね。後で紹介するよ。一言でいうと古代語の研究者かな」

「古代語? それはすごいですね」
「アンネラもここへ派遣されたの?」
 属性竜が二体って、尋常じゃないんだけど。

 それといま気づいた。ここが竜国の根拠地こんきょちのようだ。
 山の中腹とはいえ、すでに植生限界を超えている。

 木ひとつ生えていない岩ばかりの場所だ。

「はい。ここにあるのは技国の皆さんがいろいろ設置してくれたものばかりです」
「さすが技国の技術だな。とても天蓋山脈の中とは思えないよ」

 しっかりした骨組みの建物が並んでいる。

「そうですよね。これみんなターヴェリさんが運んだんです。といっても部品だけですけど」
「なるほど。ここは天蓋山脈の奥まった場所だし、下に道がなかったからもしかしてと思ったけど……竜前提の場所なのか」

 建物はみな、技術競技会で見た、組み立て式の家のようだ。

「本当はもっと山の上の方に作りたかったんですけど、そこだと倒れる人が出るらしくて」
 アンネラは、両手で自分の首を絞めるマネをした。

「そっか。高いところへ行くと、慣れない人は息が苦しくなって倒れるって聞いたことがある」

「そうなんです。その代わり、落石の心配がない場所を選びました」
 山頂まで結構あるものの、平地が段々になっていたりして、たしかに落石の心配は少なそうだ。
 あれは斜面を転がりながらやってくるのだから。

「それじゃ、詳しい話も聞きたいし、シャラザードの荷物を下ろしたら、少し話そうか」
「はい。荷物を下ろすのを手伝いますね」

 いまだウダウダと文句を垂れているシャラザードを促して、背中に積んだ荷物を地面に降ろす。
 この根拠地にはすでに五十人以上の竜国人がいて、技国人も二十人ほどいるらしい。

「総勢七十名か……ここにいるの、少なくない?」
「みなさん、地図作りに出ていますので」

 拠点の確保が終わったので、周囲の安全を確認しに出かけているらしい。

「そういえば、大型の獣もいるんだよね」

 野生動物は、かなり早い時代で乱獲したか、絶滅させてしまったらしい。
 天蓋山脈にいる獣はいまだ手つかずだと聞いたことがある。

 人を脅かす大型の肉食獣もいるため注意が必要だが、棲息するのはもっと下の方。
 この辺りまで昇ってくる獣は皆無だろう。

 荷物も無事降ろし終わり、僕らは建物の一室に向かった。
 内装は施されてなく、簡素な木があるだけである。

 椅子とテーブルがあったので、三人で座る。

「はじめまして、アンネラさん。私はロザーナ・へディンよ。王立学校を卒業して、いまは古代語を研究しているの。レオンくんとは学院の一年生のときに出会ったの」

「そうだったんですか。わたしはアンネラ・ディーバといいます。父のディーバ商会を継いで会頭をしていますけど、いまはターヴェリさんと一緒に竜操者のお仕事をしています」

「赤竜の噂は聞いているわ。竜迎えの儀でシャラザードとやりあったこともね」
「あはは……ターヴェリさんは普段は全然そんなことないんですけど」

 シャラザードとターヴェリ。竜迎えの儀で大暴れしたのは記憶に新しい。
 両方とも暴れん坊の竜というイメージが定着しつつある。

 とりあえず自己紹介も済んだので、本来の話を聞くことにした。

「……じゃ、アンネラ。先にここに来ているんだし、今回の任務について知っていることを教えてくれるかな」

 ちなみに、僕はよく分かっていない。
 ここまでの道中でロザーナさんに確認したが、ロザーナさんも詳しいことは聞かされてないようだった。

「はい。今回の任務は、シャラザードさんとターヴェリさんが協力して楽園を見つけることです」
 いきなりの話だった。

「協力して楽園を見つけるって……そういえば場所の目処が立ったとは聞いたけど」

「天蓋山脈では竜でも越えられない山が存在しているのは知っていますか?」
「ごく一部にそういうのがあるのは知っている」

 竜でも越えられない……というよりも、人が越えられないと言い換えてもいいかもしれない。

 空気が薄く、そこまで行く前に気絶してしまうのだ。

「私も実際に行ってみましたけど、途中からまったく息を吸い込むことができなくなりました。それでもまだ六合目か七合目くらいのようでした。ターヴェリさんに聞いたら、飛行で一気に越えるはどうも無理そうだとも」

「ターヴェリでも越えられないの?」

「はい。ゆっくりと……たとえば、限界まで空を飛んで、そこから山を歩いて越えれば可能だとは言っています。ただし、そんな時間をかけていたら、背中に乗っている人は無事ではすみません」

「そうだよね。……でも山なんだし、回り込むとかは?」

「山が連なっているので、難しそうです。それとどうも山と山の間にスペースがありそうなんです。楽園はそこなのかということで、わたしたちが呼ばれました」

「そんな所に楽園が?」

「はい。以前、ターヴェリさんとシャラザードさんの戦いで使った技なら、越えられるのではと、女王陛下が仰ったとかで」

「あー、あのグルグルするやつか」

 ……って、もしかして、シャラザードを属性技で打ち出すのか?
 あれ、結構キツいんだけど。


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