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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第7章 大転移-楽園編

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○商国 天蓋山脈 ドナルマー

 商国が領土宣言したはずの地は、完全に孤立してしまっていた。

「狼煙があがったか……これで何本目じゃ?」
 五会頭のひとり、『宝寿ほうじゅ』ドナルマー・テンナイは、空に立ち上る煙を眺め、そっと目を伏せた。

「本日二本目になります。累計ですと……」
「いやいい」

 あそこには、ドナルマーが派遣した者たちがいる。
 二千名が入植している……ように見せかけて、実際にはもう千五百人ほど多い。

 三千五百人が生活するのに必要な物資。
 それがいま不足して、緊急時用の狼煙が五日前から上がりはじめている。
 すでに五日目。物資が底をついてきたと思える。

 現在、魔国に領土の出口を押さえられており、その裏に竜国の影が見え隠れしている。
 いや……とドナルマーは頭を振った。

 すべて竜国の仕業であると確信している。
 魔国と竜国の和平がなったのは、ドナルマーも知っていた。

「竜国め……楽園への入り口を塞ぐつもりが、反対に閉じ込められてしまったわい」

 今回、最後の最後でドナルマーは情報入手に失敗してしまった。
 金で転ばした者のことごとくが、最後の会談で外されたのである。

 後になって、両国が交わした条約は手に入れた。
 条文は、ドナルマーが入手した情報とほとんど変わってなかった。そこで安心してしまった。

 それこそが竜国の狙いだったようだ。
 和平交渉の席上で、この地の封鎖が話題に上ったのを捉えることができなかったのだ。

「監視の目はまだ解けないか?」
「相変わらずです」

 魔国が天蓋山脈で押さえた地は、人の居住ができるものの、決して住みよい環境ではない。商国が必要無しと考慮すらしなかった場所である。

 そこにいま、竜国のバックアップを受けて、多くの魔国兵が常駐している。

 ドナルマーは東の都でフストラと会談し、すぐに戻ってきた。
 そのときにはもう、事態は最悪の状態を向かえていた。その場に自分がいなかったことが悔やまれた。

 物資を運び入れようとした商会の者たちが追い返されたことで、一部の者たちが実力行使に出てしまったのだ。

 当然両国どうしの諍いになる。
 結果、魔国は態度を硬化させてしまった。
 それだけでなく、天蓋山脈の入り口に設置した補給基地にあからさまな監視がついてしまったのだ。

 物資を運び込むには、天蓋山脈を歩き続けなければならない。
 こちらから先に手を出した以上、運搬途中で襲われる可能性が常に存在している。

 また、強引におし通れば、それだけで武力行使の口実を与えてしまうことになる。

 孤立した地へ、ドナルマーの騎竜で届けることはできる。
 小型の飛竜なのでそれほど多くの物資を運ぶことはできないが、何往復もすれば問題ない。
 だが、それに踏み切れない事情があった。

「この期に乗じて、こちらの戦力を削ぐつもりじゃなかろうか」
 天蓋山脈を往復すれば、航路はほぼ特定される。

 現在、竜国がどこまで本気なのかがドナルマーには分からなかった。
 移動中を狙ってくる可能性がある。

 天蓋山脈に人の目がない場所はいくらでもあった。
 竜国はそれが狙いなのではと思ってさえいる。

「厄介じゃわい。ここで不用意に動いて、商国千年の計に狂いが生じても困る」
 飛ぶに飛べないドナルマーであった。




○竜国 王都 ダイネン

「魔国と竜国が和平しただと!?」

 五会頭のひとり、『銀檻ぎんかん』ダイネン・フォボスは、つい大声を上げてしまった。

 ここは竜国の王都。
 それも王城にほど近い酒場の地下室である。

 商国商会の息がかかった店とこの酒場は、地下で繋がっている。
 十年かけて地下をつなげたのだ。

 掘り出した土は酒樽に入れて運び出すほどの念の入れよう。
 竜国がほこる〈影〉ですら見つけられないと自負している。

「だが、ここも潮時かもな」

 多くの傭兵を売り買いするダイネンにとって、お得意さまである魔国の混乱は、商売に大きな傷痕を残した。
 とくに魔国首都イヴリールに張り巡らせたコネクションがすべて失われたのが痛かった。

 いまは竜国内を渡り歩き、『仕込み』の真っ最中であったりする。
 魔国と竜国の確執は続くと予想していた。その間にすべて済ませる予定であった。

 現在、竜国の衛兵に、息の掛かった傭兵を紛れ込ませている。
 これが一段落したら、王城内に基盤を作る予定もあった。

 だが国外が一段落したら、女王の目は国内に目が向く。

 ダイネンがここにいるのが、バレてしまうかもしれない。
 すると、なぜここにいるのか。ここで何をやっていたのかを推測されることになる。

 そうなっては困るのだ。

「撤退するしかないか」
 すでにダイネンの手駒は少なく、無理ができるレベルを超えている。
 使える人材を確実に使えそうな場所に配置したいのだ。

「だけど、ここで引いたら、商国千年の計がおじゃんになりそうだぜ」

 いま、遠大な計画で動いている最中である。
 このまま撤退するのは良くない。

「最低限……そうだな、城と教会には最低ひとり。送り込んでからバイバイするか」



○竜国 王都 レオン

 女王陛下との会談があった翌朝。

「どう? 報告書作りは進んでいる?」
「まだね」

 ロザーナさんは顔をあげずにずっと手を動かしている。

「何か僕にでも手伝えることがあったら、言って」

 そう伝えたのは、真面目に報告書を書いているロザーナさんの手助けが少しでもできればいいと思ったからだ。

「そう? ではレオンくんが一人でいたときのことを話してくれるかしら。あと、私たちが一緒にいたとき、何か付け加えることがあったら指摘してくれる?」

「う……うん」
 それなりに仕事はあるようだ。

「……えっと、これでいいのかな」
「どれどれ?」
 僕らはしばらく、報告書作成にかかりっきりになった。



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