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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第7章 大転移-楽園編

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 商国が天蓋てんがい山脈で何を行っているのか。
 それはふたつに集約される。

 ひとつは楽園探し、もうひとつは物資の貯蔵だ。

 この貯蔵に関しては、いまだ全貌が掴めていない。
 買い占めた物資をどうするのか調べたところ、それが発覚したにすぎない。

 すべてを知るには、まだまだ時間がかかるのだ。

「商国が物資をどこかに隠しているのは確実なのよね。なんとか見つけられないかしら」
 女王陛下はのほほんとそんなことを言った。

「? 荷を運ぶ商人の跡をつければいいのではないでしょうか」
 天蓋山脈に物資を運び込むためには、多くの作業員が必要だ。

 とくに荷馬車の入れない山の中ならば、すべて人力となる。
 多くの人を使えば、どこかで情報が漏れるのではなかろうか。

「それが無理なのよね。跡をつけると言っても、監視がついているわよ」
 監視に呪国人が使われている場合、よほどのことがないかぎり、こちら側が先に見つかる。

 一度でも見つかれば警戒されるし、監視を倒した場合でも同じ。
 絶対に見つからない場合以外、使えないと女王陛下は言った。

 そもそも天蓋山脈には大小多くの洞窟がある。
 ほとんどの洞窟は行き止まりだが、トンネルのようにどこかに抜けられるものもある。

 洞窟を通過する場合、入り口を監視していればいいのだから簡単だ。

 そしてそのような洞窟のひとつを貯蔵庫に使っていると思われるが、そもそも運び込んでいる者は貯蔵庫の場所を知らないだろうと女王陛下は言った。

「ひとりの人物が、最後まで荷を持っていくわけじゃないと思うのよね」

 五会頭がそれぞれ竜を所有している。
 人員は、五会頭が竜に乗せて運び込んでいるだろうと。

 人員を降ろすのは、天蓋山脈の中。
 本人たちは、そこがどこだか分からない。

 帰り道を知らなければ、逃げ出すこともできない。
 知っているのは次のルートまで。

 そういった感じで、物資をリレー方式で運んでいるだろうと。

「なるほど。最終的な貯蔵庫の場所を知っているのは、五会頭たちだけなんですね」
「そう。だから下の者に聞いても無駄なわけね」

 すでに調べて、ある程度のことまでは掴んでいそうだ。

 商国が相手の情報を掴む場合、多額の金銭を使う。

 たとえば新鮮な情報ならば、その人の年収分をポンッと支払ったりする。
 貴重な情報だと数年分というのもザラだ。

 支払いに関して吝嗇でないことは知られているので、教える方も安心して話せる。
 そういう仕組みが成り立っている。

 竜国の場合も似たようなことをするが、やはり経験が違う。
 もしくは役者が違うというのだろうか。

 竜国が大枚を支払って情報を得たとする。
 情報を与えた者は多額の金銭を得るが、同時に『その情報』を商国に売る。

 そうするとさらに値がつくのである。
 商国は、竜国が何の情報をどこまで知っているのか把握できてしまう。

 こういう所は商国に敵わない。
 ゆえに竜国は、入り込んできた間者を取り込んだり、捕まえたりしない。
 昔から、接触せずに泳がせておく方法を採っている。

 相手が調べているときは偽の情報を流せたりして有用なのだが、こちらから何かを調べようとすると結構大変だったりする。

「僕が潜入しますか?」

 もし竜国が何かを調べようとするならば、それしか手がない。
 今回の場合だと、時間がかかるが最終的にはたどり着けるだろう。

「レオンは他で使うから駄目」
 と思ったら、切って捨てられた。

「ではどうするのでしょう」

「とりあえず魔国に協力してもらって物資を運び込めないようにしたから、しばらくは使いたくても使えないわ。いまはそれで満足するつもり。残念だけどね」

 そのうち、一時置き場が溢れてくるだろうから、適当な時期に通行を解除してやれば、急いで動き出す。

 それまでは気づかないフリで泳がせておくらしい。
 竜国のいつものやり方だ。

「では、僕は楽園探しですか?」
 他で使うと言われれば、それしか思いつかない。

「ええ。近いうちに向かってもらうことになるわね」
「楽園にですか?」

「そうよ」
 もっとも、正確な場所は分からないと、女王陛下は言った。

 そしてこれは秘密裏に行われることであり、国の命運を左右することになるだろうと。
 なかなか大変そうだ。

「分かりました。心しておきます」
 そう言って僕は、深く頭を下げた。




◎竜国 空の上

 レオンが女王陛下と会談する数日前。


 今日は、女王の騎竜『白姫しろひめ』の散歩の日である。
 小型飛竜が二十騎、中型飛竜が四騎、そして青竜を駆るソウラン・デポイが護衛に付き従った。

「あなたたちは、ここで待機ね」

 飛竜といえども、上昇できる高さには限界がある。
 小型飛竜より中型飛竜の方がより高くまで飛ぶことができる。

 だがそれでも特殊竜である氷竜、青竜には敵わない。
 他を置き去りにして、はるか空の高みまで昇ったのは、余人に話を聞かれたくないからである。

「最近、王宮内にも商国の手が伸びているのよ」
「商国の耳はずいぶんと大きいようですね」

 だからこそ、だれも到達できない高さで話をする。

「近頃は内乱もあったし、戦争もあったわ。回天と大転移もね。人の心が不安に揺れているもの」
「心の不安を金銭で埋めますか……」
 ソウランはやれやれという顔をする。

 自分の知っている情報を商国に売り渡す。
 これは反逆というには大袈裟だろう。

 だが、王宮内の情報が外に漏れているのは確かな裏切りである。
 なぜ王宮勤めの者がそんな軽率なことをするのか。

 こういったものは、ほんの些細な情報から始まるらしい。

 たとえば、今日だれそれが城にやってきたとか、城に勤める者ならばだれでも知っている内容を伝えるだけ。
 商国はそれに大金を支払うのである。

 年月を経て、それがだんだんエスカレートしていくのは当然の理。
 だれかが雑談でこんなことを言った、会議でだれそれの怒声が響いた。

 待合室でだれとだれが親しそうに話していた等々。
 情報を漏らしている者は、こんな些細な内容で大金がもらえると、だんだんと感覚が麻痺してくる。

 ついには言っていいことと悪いことに区別が曖昧になってしまう。

「これだけお金をくれるんだから、たまにはサービスしないと」と、余計なことを口走ってしまうのである。

 この場合、本人に罪悪感がないか、あっても些細であるため困ってしまう。

 そして商国が本格的に竜国の内情を調べ始めたとき、息がかかった者をすべて排除していては、仕事が成り立たない。

 それだけ商国は本気なのだ。
 だからこそ、だれにも邪魔されない、こんな空の高みで話をしている。

「それで楽園の報告を聞くわね」
「はい。魔国からの情報と私どもが調査した結果から、楽園がありそうな場所がほぼ特定できました」

「そう。よかったわ」
「ただ……そこへ行くのは不可能です。少なくとも、私では無理でした」

「……では、だれなら可能なのかしら」
「氷竜白姫、黒竜シャラザード、赤竜ターヴェリでも無理でしょう。行けるとすれば……」
「すれば?」

「赤竜ターヴェリの力を使った黒竜シャラザードならば可能かと思います。それで無理ならば、他のどれでも不可能でしょう」

「そう……だったら、レオンと話をしないといけないわね」

 そんな会話が行われていたのである。


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