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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第1章 魔国蠢動編

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 七月に入った。

 ロザーナ先輩の謹慎期間は半年。
 一月の頭からだったから、六月の末日までなので、もう解けているはずだ。
 だけど、授業を抜け出したことで伸ばされているかもしれない。

 学院生に直接接触できないから、謹慎があけたら花でも送ってくるのではないかと思っている。

 その兆候がないことから、謹慎が伸びたことが予想できる。
 こっちから聞いて確かめるようなことはしないけど。

 さて、七月の後半から長期休みになる。
 その前に一回生と二回生合同の、『実地研修』が入っている。

 陰月の路付近での演習だ。
 ここで実際にフォーメーションを組んで月魔獣を狩るらしい。
 現役の竜操者に守られて、二回生の初狩りになるわけだ。

 僕ら一回生はその様子を見学しつつ、二回生の世話をする。
 それで来年なにをするか理解し、行事が引き継がれていくらしい。

 いつもの通り、購買で義兄さんと話をしていると、急に真面目な声で警告してくれた。

「どうやら、魔国が動き出したらしい」
 義兄さんがこの前言っていたやつだ。

「それを聞いてから調べてみたけど、結構ここの結界は強力だよ」

 竜の学院に張られている防護結界は、感知結界などと違って、物理的に侵入者を阻むものも導入されている。

 これを突破する方法はふたつ。
 ひとつは文字通り力技。力で結界をこじ開ける方法である。

 時間はかかるが、だれでもできる。
 ただし、感知されてすぐに人が飛んでくる。

 すぐ南にある操竜場からも竜操者が飛んでくるだろう。
 侵入を果たす前に排除されると思う。

 もうひとつは魔道によって、結界をすり抜ける方法。
 これができる魔道使いはそれなりにいると僕は思っている。

 魔道は、より強力な魔道ならば無効化できる。
 熟練の魔道使いが長い時間をかければ侵入を果たせると思う。

 ただし、大勢で侵入することはできない。
 あくまですり抜けるだけなので、防護結界を壊そうとすれば、力技でやるのと変わらなくなってくる。

 つまり、どちらの方法も一長一短がある。
 重要な施設はこのように守りが堅いため、滅多なことは起きないと思っている。

 魔国からやってくる魔道使いが、初見でここの結界をどうにかできるのだろうか。
 別のアプローチをしてくるのではなかろうか。

「おれは今度の演習先で襲撃される危険があると思っている」
「……やっぱり?」

 もし学院の生徒を襲うなら、僕でもそうする。
 竜の学院のカリキュラムは、知れ渡っていると言っていい。

 この時期に演習に出かけるのは、魔国なら当然掴んでいるはずだ。

「でも、学院の生徒を襲う意図はなに?」
 実は、それはよく分かっていない。

「大転移の事は知っているな」
 僕は頷いた。というか、義兄さんも知らされたんだ。
 夜、眠れているかな?

 予想では四年後に大転移が起こり、陰月の路が北にずれる。
 そのせいで魔国は首都の壊滅と、穀倉地帯が一気になくなる被害が起こる。

 首都移転にどのくらいの期間が必要か分からないが、大混乱が予想される。

「学院の生徒を狙うのは、来るべき衝突に備えて少しでも竜操者を減らしたいのがひとつ。ヒヨッコならば、歴戦の勇士を狙うよりも成功率が高いからな。それともうひとつは、竜との戦闘経験だな。実際に経験を積まねば、どう竜と戦っていいか分からない。対策を立てるためにも早めに知っておきたいのさ」

 なかなかどうして、強かなことを考える。

「それでも竜操者が操る竜は、魔道使いに負けないと思うけど」
 竜は強い。
 魔道使いと一対一で戦えば、必ず竜が勝つと僕は思っている。

「絡め手を考えているか、直接竜操者を狙う方法を模索しているのか。どちらにしろ、外へ出たヒヨッコたちが狙われるのは確定だ」

「それでどうするの?」
「〈影〉を出して外は固める。兵も出すだろう。表と裏でガチガチに守ることになる。だが、万全じゃない。なので、おまえにも指令がくだるはずだ」

「僕は学院生だし、中から守ればいいのかな」

「おそらくはそうなる。女王陛下はこの度の襲撃は総力戦になると言っていた。その意味は分からないが、これまでにない戦いになるだろう。ちなみに俺も参加するからな」

 義兄さんは、出張購買部ということで、演習先でも店を開くらしい。
 演習が長期になるので、そういう補助的な人員もかなり派遣されるようだ。

「そういえば、おまえは警戒任務をしたことがないだろ」
「ないよ。もちろん」

 やってくるか分からない敵をひたすら待ちつづけるなんて、〈右手〉の任務に入ってない。

「どうする? まだ日があるから、訓練できるよう、取り計らっておこうか?」
「必要かな」

「今回は敵の襲撃を予想して守るからな。自分がどう潜入するかはよく分かっているだろ? 敵がそれをやってくればいいと思えば、すぐに理解できると思うぞ」

「なるほど。潜入にも使えるね。一度、訓練しておこうかな」
 守る方の気持ちが分かれば、潜入の訓練にもなるのか。さすが義兄さんだ。

「なら、手配しておく。あと遠征はおまえたちよりも早く出発するから、そこだけは覚えておいてくれ」
「分かった」

 購買部を切り盛りしている義兄さんは、商品を積んだ馬車でゆっくりと向かうらしい。
 僕たちは竜に便乗させてもらうから、その日のうちに到着するけど、荷馬車の移動だと四、五日はかかる。

 それに準備する人たちが先に到着していないと、いろいろ困ることになる。
 早めの出発は理解できる。

 だけど、義兄さんは自分の足で行きたいだろうな。〈右足〉なんだし。
 せっかちだから、荷馬車と一緒じゃ耐えられないだろう。

「訓練の方はシルルから連絡がいくと思う。オレは王都の訓練場など知らないからな」
 なるほど、たしかにそうだ。

「了解。僕はいつでもいいって伝えておいて」



 なんてにこやかに別れたら、その日の夜に、寮の外で気配がした。
 寮の庭に降りていくと、黒衣のお姉さんが立っていた。

「……早いですね」
「そう? 早いほうがいいかと思って、急いで手配したのよ」

「その方が僕も助かりますけど。……今夜からやるんですか?」

「今からでいいわよね。だって、夜の襲撃を想定した方がいいと思うのよ。だって、狙いは竜操者なんでしょ? 起きている時は他の竜操者に守られているでしょうし」

 そりゃそうか。
 寝ているならば、居場所は簡単に特定できるし、護衛もいない。

「分かりました。どこでやるんですか?」
「ついてきてね」

 お姉さんの後をついていったら、王城の外郭に連れていかれた。

「紹介するわね。城の庭を守る〈左手〉のみなさんよ」
「……どうも」
「………………」

 なぜか、鋭い殺気を僕に向けてくる。
 王都の〈影〉と会うと、いつもこんな感じだ。

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