挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第7章 大転移-楽園編

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

528/656

527

 火乃粉ひのこ島の住民で僕が知っているのは、村の代表らしいタイランさんと、巫女のセーレさんだけだ。

 セーレさんはロザーナさんから少しだけ大陸の言葉を教えてもらっている。
 といっても、簡単な挨拶と物の呼び名くらいらしいけど。

「こんちわ」
「こ・ん・に・ち・は」

「こんちには?」
「あー、おしい」
 僕がそれを引き継いでいる。

 今日もロザーナさんは村の若者たちと一緒だ。
 島を出て、竜国に来てくれる人を探している。

 その間、手持ち無沙汰になった僕はセーレさんと会話の練習中。

「てもちぶたさ?」
「うーん、ちょっと違う」
 前途は多難かもしれない。



「レオンくん、ちょっといいかしら」
「なんですか、ロザーナさん」

 若者に囲まれても臆せず話すロザーナさんは、なんというか、凜々しかった。
 僕の場合、大勢の初対面に囲まれると、どうしても相手の顔色を窺ってしまう。
 なぜか。おそらく自分に自信がないんだろう。

「子供たちをシャラザードに乗せてあげてほしいのよ」
「あれっ? 竜が怖いんじゃないですか?」

「何か根源的な恐怖を感じる」とロザーナさんが通訳してくれたけど。

「そうなのだけど、どうやらこの島の宗教観というか、生きていく上での知恵というのかしらね。敵わない存在には近寄らない――まあ、これには火山の火口なんかも入るのだけど、そういうものに絶対近づいてはいけないって、小さい頃からすり込まれているのよね」

 だから大人たちはシャラザードに近寄れないのだという。
 その点、子供たちはまだそういった忌避感が少なく、空を飛んできた存在ということで、興味を持ってくれたらしい。

「なるほど。いい機会だから、子供たちから懐柔しましょうか」
「できるかしら」

「任せてください」
「お願いね」

 島の子供たちはそう多くない。
 十人くらいだろうか。

「そういうわけでシャラザード、子供を乗せていいかな」
『構わんよ』

 集まった子供たちをシャラザードのところへ連れて行ったら、最初は近づくこともできない。
 そんなとき、セーレが率先してシャラザードに近づき、ポンッとその身体に触れる。

 子供たちに向けて何か話し、子供たちも相談し合う。
 僕は会話が分からないので、見守っているだけだ。

 ひとりが意を決して、それこを恐る恐る近づいていって……シャラザードの足に触った。

 その子はまるでヒーローのように持てはやされ、二番目、三番目と続く者が出る。
 ようやく全員が触れるようになってからは早かった。

 子供たちを背中に乗せて飛び立つ。
 引率役はセーレ。

 小さい子供ばかりでは危険だろうとの配慮だと思う。
 それと、僕では子供と意思疎通ができないことを考えてのことか。

「シャラザード、最初は海の上を泳ぐか」
『うむ』

 シャラザードの身体は鳥と同じなのか、沈むことはない。
 着水して進み始めると、子供たちはきゃあきゃあ言って喜んだ。

 ちなみに言葉は分からないので、年上の子が年下の子に何か言っているのをただ聞いているだけだ。
「暴れると落ちるぞ」「大丈夫だよ」とか言い合っているのかもしれない。

 ひとしきり海の上で楽しんだあとは、空中へ飛び立つ。
 空を滑空しはじめると、途端に静かになる。

 子供たちの顔が引きつっている。
 これはなにも風圧のせいばかりではない。
 やはり空は怖いようだ。

「シャラザード、ゆっくりな」
『それはあれか。速く飛べと言っているのか』

「言ってないよ! 裏を読まなくていいんだよ。そのままゆっくりで頼むぞ」

 あとで子供たちが戻ったら、大人に「楽しかった」と報告させるのが目的なんだから。
 みんな気絶して分からなかったとなったら、いろいろ台無しだ。

『では我の得意な宙返りを……』
「するなって!」

 すんでの所で中止させ、その後は雲の上まで上昇したり、火山の周囲を回ったりした。

「セーレ、どう?」
 セーレは微笑んで頷いてくれた。

 袂を別ったとはいえ、もとは同じ大陸の人どうし。
 共通のジェスチャーはある。

 身振り手振りだけど、とても満足してもらえたことが分かった。
 子供たちもみんな笑顔だし、これは懐柔作戦は成功だろうか。

「帰る?」
 ほぼ単語しか分からないセーレ相手だと、会話は難しい。
 そう聞いたところ、セーレは子供たちを見てから僕に向き直った。

「島、行け」
「…………」
 会話は本当に難しい。



「ごくろうさま、どうだった?」
 ロザーナさんが出迎えてくれた。

「子供たちはいいね。最初はおっかなびっくりだったけど、すぐに慣れたかな」
「やっぱりそうなんだ。……なら、克服は可能そうね。駄目な子はいたかしら」

「今日集まった子供たちは全員大丈夫だったかな」

「それは良かったわ。……私の方だと、空に行ったら死んじゃうんじゃないかって思う人がいたわね」

 びっくりし過ぎて死ぬとか?
「ショック死? そんなのあるわけないじゃ……ないよね?」

 突然目の前に月魔獣が現れてポックリ……なんて話は聞いたことがある。
 シャラザードに近寄って、あり得るのか? あり得ない話じゃないのか。

「でも光明は見えたわ。大人たちも子供たちの話を聞きたいだろうし、明日が勝負ね」

 シャラザードの背に乗っても怖くなかった、それどころかすごく楽しかった……そう言って回ってくれれば、大人たちの恐怖は取り除かれるかもしれない。

 そして翌日。
 ロザーナさんは三度出て行って、夕方になる前に戻ってきた。

「レオンくん。成功よ。竜国に来てもいいって人が五人も出たの」
「それは良かったですね」

 思ったより多かった。最初の様子だと、一人か二人くらいかなと思ったのだけど。

「その代わり、竜国からも人を派遣して、新しいものを広めて欲しいんですって」
 こんな田舎の島に誰が来たがるかと思ったら、古代語を研究している人がくるだろうと。

 なんでも、昔の生活のままというのが魅力らしい。
 彼らの中に入って色々調査したいとか。
 なるほどと思ってしまった。



 次の朝、僕らは竜国に帰ることになった。
 行きとは違って、帰りの荷物は少ない。

 そのかわり、五人の島民が一緒だ。

「よろしく」
「はい。よろしくお願いします、セーレさん」

 その中には、巫女であるセーレさんの姿もあった。
 セーレさんも大陸の言葉をぜひとも覚えたいらしい。

 ちなみに巫女の仕事は先代が引き継ぐそうな。
 火を崇めるため、本当に必要になるのは火山が活動をはじめたときらしい。
 普段は、祭壇で祈りをするのだとか。

「じゃ、行きますね」
 大人たちは子供より時間をかけて、シャラザードに慣れてもらった。

 そこからは……もう、しょうがない。

「帰るぞ、シャラザード!」
『心得た!』

 陸地まで距離があるので、ゆっくり飛んでいては、到着がいつになるか分からない。


 帰りの道中は順調だったとだけ言っておこう。
 なにしろ、五人ともほとんど気絶していたので、ちっともうるさくなかったし。


+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ