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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第7章 大転移-楽園編

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『潮の民』が住んでいるこの島を、俺は火乃粉ひのこ島と名付けた。
 島の住民は古代語で呼んでいるため、発音しづらい。
 というか、正式名称はその十倍くらい長い。

 住民はおよそ三百人。比較的若い人が多いのは、過酷な環境だからだろうか。
 火山灰に覆われた大地で、細々と暮らしている。

 島の代表者はタイランと名乗る老人で、前回来たときも俺たちの相手をしてくれた。

 ロザーナさんとタイラン老の話が済んだようで、若い者だけが村へ戻っていった。

「レオンくん。シャラザードのことなのだけど、村には小さな子供もいるから、村の中に入るのは止めた方がいいみたいね」

「なるほど、分かりました。載せてきた荷物はどうします?」
「若い人たちを呼んだので、その人たちが運んでくれるわ」

「分かりました……ん?」
 運んでくれる? もしかして降ろすのは僕の仕事だろうか。

「若い人たちもシャラザードの近くには寄りたがらないだろうって」
 僕の心情を理解したのか、そう付け加えてくれた。


 しばらく待っていると三十人くらいの男女がやってきた。
 だが、シャラザードの大きさに驚いて、一定以上近寄ってこない。

「えーっと、どうしようか」
 これでは指示も出せない。

 精神的な重圧というのだろうか。
 恐怖心で、襲ってこないと分かっているものの、足が竦んでしまうようだ。

 これは高所が苦手な人と同じ心境なのかもしれない。
 あれも、絶対に落ちないと分かっていても足が動かないらしいし。

「仕方ない。荷物を下ろすか」
 何も言わなくてもやってくれるだろう。

 シャラザードに飛び乗り、固定してあった鎖を外していく。
 シャラザードも慣れたもので、翼を器用に使って、木箱くらいなら滑らせて地面においてくれるのだ。

 載せて固定するのは大変だが、これなら僕一人でもやれそうだ。

 といっても荷物の量は結構ある。
 すべて地上に降ろし終わるには、半日以上の時間が経っていた。うん、眠い。

 作業を終えた僕とロザーナさんは、村で一泊することになった。
 詳しい話は明日ということで、僕らはすぐに就寝した。

 一昼夜通して移動した後で作業をしたため、そろそろ眠さが限界に来ていたのだ。


 翌朝、ロザーナさんは早くから精力的に動きはじめ、何人かの人と村内の散策に出かけていった。
「やることは決まっているみたいだけど、何か目的があるのかな」

 昨日、とくに打ち合わせをしていなかったので、ロザーナさんが出て行ったのがちょっと意外だった。

 僕はというと、外に出て小さな子供たちが遊ぶのをじっと眺めている。
 大人たちはみな仕事をしており、ある程度の年齢に達した子供たちもまた、大人に交じって働いている。

 村内で遊んでいるのは、本当に小さな子供たちだけだ。

「持ってきた食糧はすごい量だよな」

 昨日降ろした食糧について考えてみた。
 大転移で食糧はいくらあっても足らないくらいだ。

 荷馬車五台分くらい持ってきていた。
 みな長期保存できる穀物が入っていたが、数万食、ことによったら、十数万食分にもなる。

 この島にそれだけのリターンが見込めるとは思えないのだが。

 昼過ぎになってロザーナさんが戻ってきた。
「おかえり。結構時間がかかったね」

「村を一通り見てきたわ。それと、周辺の畑も全部」
「そりゃすごい。何を見てきたの?」

 小さな村とは言え、家が密集しているわけではない。
 一つ一つの家がまばらに建っているため、歩こうと思ったらかなりの距離になる。
 午前中いっぱいかかるのも頷ける。

「おもしろい発見があったわよ。いろいろと。ふふっ」
「そうなんだ。やっぱり、何か調査をしにきたんだね」

 竜国が物を送って御機嫌取りするだけとは思えない。
 ただ、こんな数百人ぽっちの寒村に、国の目に留まるものがあるとは思えないのだけど。

「そうね目的はいくつもあるのよ。そのうちひとつはたったいまこの目で確認してきたわ」

 意外な言葉が返ってきた。
 こんな辺鄙な村に何かがあるようだ。

「それは僕が聞いていいこと?」
「もちろんよ。……と言っても、私も言われただけなので、確信しているわけじゃないわよ」

 ロザーナさんの話はこうだ。
 前回の報告書……というか、ロザーナさんの体験記を国に提出した。

 そのさい、書く必要がある必要なもの、必要ないものをロザーナさん自身が判断せず、なるべく客観的に、会話は覚えている限りそのまま書いて渡したらしい。

 ロザーナさんが気づかなくても、専門家が気づいてくれるかもしれない。
 それを願ってのことだという。

 聞いただけで唸ってしまった。かなり根気のいる作業だったのではなかろうか。

「それで、何かあったみたいだね」
「ええ。私としては取るに足らない記述だったの。それが古代研究者の目に留まったのよ」

「ん? なにが?」
「村の人の食事と言ったら驚く?」

 古代の文献の中でときどき『いも』とだけ出てくる記述がある。
 それは乾燥地帯や砂地でも容易に栽培でき、適度な水さえ与えておけば、栄養の少ない土地でもよく収穫できるものであったという。

「その芋の記述が嘘くさくてね。種芋から芽が十から十五くらい出るらしいの」

 その芽を切り取り、土に差しておくらしい。
 茎はグングンと伸び、やがて成長し、二十本ほどの芋を生らせることができるという。
 単純計算で、一本の芋から二百から三百近い芋が収穫できるらしい。

 しかも年に二回収穫できるというのだからすごい。

「そんな芋があるんですか」
「古代芋と呼ばれているのだけど、実物はないわ。とうの昔に栽培されなくなったの」

「それはまたどうして?」
「不味いから……と言われているわ。私が訳した文献にも味を揶揄する言葉がいくつも登場するの。『貧乏人の芋』と書かれていることもあったわ」

「貧乏人の芋……」
 つまり他にあればそっちを食べるわけだ。

「豊かになる過程で淘汰されたんでしょうね」
 ロザーナさんが記した報告書にあった食べ物。

 それがもしかしたら『貧乏人の芋』ではないかと思ったそうな。

「ということは、その『貧乏人の芋』を食べたんでしょ? どうだったの?」

「まさにそれよ。不味かったわ。だから聞いてみたの。収穫の時期や収穫量、栽培の仕方をね。そしたらまさに文献の通り。それに少しだけど収穫量が上がっているわね。きっと長い間に進化したんでしょうね」

 栽培時期は少しだけ長くなるが、収穫量はもっと増えるらしい。

「なんていうか、食糧不足事情を一気に解決できそうな芋だね」
「というわけで、いまある分をすべてもらうことにしたの。次の収穫があるから全部もらっても構わないらしいし」

 なんとも剛毅な。
 もしかして、あれだけ多くの食糧をもってきたのも、そのため?

 予想していたとは言っても、それなりに確証があったのではないだろうか。

「いま各家庭にお願いして集めてもらっている最中なのだけど、だいたいひと家族で三十本から五十本くらい保存しているそうなの」

「この村の戸数はいくつくらいなの?」
「八十戸を少し越えたくらいかしら」

「三千本くらい?」
「そうね。荷馬車一台分といったところかしら。でも十分な量よね」

 何に対して十分か? それは今後起こりえる食糧不足に対してだ。
 年に二回収穫できるのだ。

 三千本の芋があったとしよう。
 それから十から十五本の芽が出る。

 収穫時期には、一本の茎から二十以上採れると計算すると……十万本以上の芋になる。
 しかも残しておいた芋から出た芽を使えばいいのだから、次の栽培も容易である。

 数年後には本格的に食糧難がやってくる。
 その前に量産体制ができあがれば、餓死者をゼロにできるかもしれない。

 もちろん開墾をしなければならないし、本来畑を作るというのは五年、いい畑と呼べるようになるには十年の時間が必要になる。

「これって、痩せた土地でも栽培できるって言っていたよね」
「そうね。反対に肥沃な畑だと地上の茎が伸びすぎて収量が落ちるらしいわね。噴火して、火山灰ばかりになったこの土地に合っている作物らしいわ」
「…………」

 何というか……何と言えばいいのか……結局僕は、何も言えなかった。


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