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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第7章 大転移-楽園編

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○商国 東の都 承前

 商国五会頭とは、どのような存在なのか。
 竜国や魔国、そして技国の認識は間違っている。

 商国には王に相当する人物はいない。
 氏族長のように地域の長というわけでもない。

 五会頭は一種独特な制度。
 商人たちの代表者というのが一番近い。

 よって、商国を運営する者たちの集まりと考えられている。
 西と東、あわせて十人の五会頭が商国の運営者なのだと。

 もう一度言う。その認識は間違っている。
 そのことを知るのは商国の中でも、かなり少ない。

 商国商会に加入している商人たちですら、間違った認識のもとで五会頭を判断していることになる。

「竜国を何とかしないと駄目でしょうね」
「そう思ったからこそ、飛んできたのじゃ」

 東の五会頭の『麦野ばくや』と『宝寿ほうじゅ』。
 二人は、いつになく真面目な顔をしている。

「竜国が援助したところで、魔国の崩壊は避けられません。そのはずです」

 フストラの手元には、竜国の食糧収穫高が記されている。
 魔国に援助を続ければ、数年先には破綻する数字だ。

「竜国が座して死を待つとは思っておらんのであろう?」
「ええ……ここ一、二年の間で手を打ってくると思います」

 何の打開策も考えずに行動しているとは、フストラは思っていない。
 自分たちの知らないところで手段を講じてくるはずである。

 数年間も猶予があれば、竜国ならば必ずやる。
 それだけの力がある。

「動くなら早いほうがよいじゃろうな」
「そうですね。ちなみに『宝寿』……は、どのような手でくると思いますか?」

「さて……複数の策を持っておるような気がするが、『楽園』お当てにしているというのはどうじゃ?」
「大穴ですね」

 フストラは笑った。ドナルマーは本気で言ったからこそおかしかったのだ。

「まだ見たこともない楽園に期待ですか」
「わしらもじゃろ? 不思議なことではない」

「そうですね、そうでした」
 今度は苦笑した。


 魔国が始まる……つまり、魔国の崩壊・・が始まれば、魔国は国として死に体となる。
 政治が意味をなさなくなり、通貨の価値が下がる。

 金があっても物が買えなくなる。
 わずかな食糧をめぐって、大金を投じるか、力で奪い取るしかなくなる。

 それを取り締まる国自体が機能しなくなるのだから、だれも止める者はいない。
 国の崩壊である。

 商国はかねてから各国の流通を掌握し、物資を供給する立場にずっと立ってきた。
 それが商国の目的と考える者も多かった。だが実際は違う。

 流通の掌握など、ただの手段に過ぎない。

 商国は――商国五会頭の目的は、王政もしくは氏族政治の上に経済を持ってくる考え方である。

 国というものは為政者しだいで、良くも悪くも変化していく。
 そのたびに一般の民は振り回される。

 国家間の衝突や軍事的行動もまた、政治的判断によってなされる。
 現状、政治が国の行動を決定し、それに軍部も民も一様に従う社会が形作られている。
 王政である。

 五会頭はそれを崩そうとしている。
 戦争をしたくても物資が供給されなければ、戦うことすらできない。
 貴族や王族が何かをしようとも、金の流れを止められれば、それは実現不可能となる。

 行動するにはなによりまず金が必要であり、物資がなけれな何もできない。
 そんな社会を商国は作ろうとしている。


 発端は、とある商人の憤りからだった。
 商人は技国のある技術者に長年投資しつづけ、多くの失敗と引き替えに、研究は少しずつ前進していった。

 代が変わってもそれは続いた。
 そしてついに日の目を見た。これで今までの苦労は報われる。

 そう思った矢先、氏族の者が「国家的事業」として、その研究結果を接収してしまった。

 駆動くどう歩兵の基礎理論である。

 もちろん対価は支払われたが、親子二代にわたって援助し、開発をずっと見守ってきた商人にとって、それは許されない出来事であった。

 志を同じくしていた商人たちも同じ思いである。
 為政者は当てにならない。そう見切りを付けて、技国を飛び出した。


 紆余曲折を経て彼らは技国の北に町を作ることになる。
 そこは深い森に囲まれ、資源も無く、利便性の悪い土地。

 だれにも必要とされない場所に町を作り、独立都市として活動していくことになる。
 商国の前身である。

 のちに都市をもうひとつ増やし、国となるのだが、それはまだ先の話。
 当時、最初に心を等しくした十人の商人たちが五会頭のはしりである。

 その頃から五会頭の座につく者には二つの義務が課せられていた。
 ひとつは私財をなげうってでも、商国商人たちのために尽くすこと。

 そしてもうひとつは。

 ――商人の活動を為政者たちの上に持ってくること

 その理念は代々引き継がれ、事情を知らぬ者から悪し様に言われようとも、ずっと守ってきた。

 このたび魔国崩壊が現実味を帯びてきた。
 流通は握っている。物資も溜め込んである。

 魔国が崩壊したら資金を貸し付け、物資を売りつける。
 返せると思わせるギリギリを見極めつつ、国を利子で雁字搦めにする。

 為政者は商人の顔色を窺いつつ、政治をしなければならなくなる。
 もし約束を反故にしたり、強引な手段に出ようと感じたならば、物資の流入を制限し、必要な物も金も引き上げる。

 流通を握っていれば、それは可能だ。
 いまの竜国のように商国商会の影響力を排除しようと動くならば、逆に排除されるのは国の方である。

 流通を握るとはそういうこと。
 一度完全に握られたらもう抜け出せない。

 そうやって国をコントロール下に置く予定であった。

 だかその計画も、竜国の援助によって暗礁に乗り上げそうになっている。
 各国の食糧自給率は正確に把握している。

 魔国の穀倉地、いわゆる食糧供給場所がなくなった場合、この大陸全体での食糧自給率はおよそ八十パーセントにまで下がる。
 節制をまったくしなければ五人に一人は餓死する計算だ。

 実際には、供給量が減ったところで節制に動き、九十パーセントくらいに落ちつくのではないかと予想している。
 それでも十人に一人の割合である。

 フストラは、買い占めをすることによって崩壊を早めるとともに、後の交渉に役立つ備蓄を心がけている。

「すぐに国を探ります。どんな対策を考えているのか把握した上で、順番に潰していきます」
「うむ。それで頼む。わしは山の方に戻るからの」

「これは私たちの悲願ですからね。ともにがんばりましょう。情報ありがとうございました」

 フストラとドナルマーは握手をして分かれた。


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