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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第7章 大転移-楽園編

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 翌朝町を出ると、別の場所に移動して月魔獣狩りをはじめる。

「なあ、シャラザード。昨日の話だけどさあ」

 昨晩僕はよく考えてみた。
 人と竜のありかたについて。

 魂が繋がることによって両方に恩恵がある。
 だがそれはなぜ? その行き着く先は何なのか。

『詳しいことは考えたこともないわ。だがな、我とて最初から主がいたわけではない』

 そしてシャラザードは昔を思い出すように語った。



 ――竜が人を求めるには訳がある


 シャラザードが生まれたときは、まだ獣に似た思考が大半を占めていた。
 より高度な考えよりも自分の欲求を満たすことが多かったという。

 たとえば食事。
 腹が減れば獲物を狩って食べる。ときには同じ竜どうしで奪い合う。

 満腹になればゴロゴロし、腹が減るまでの間はとくにすることはない。
 シャラザードいわく、「考える余地」はあるものの、とりたててそうした事はなかったという。

 つまりずっと、本能に飽かせて生きてきたことになる。

 成長するにつれて複雑な思考ができるようになる。
 そこではじめて他の竜のことを知る。

 なるほどと、納得するらしい。
 自分が気に入った人間と契約すれば、何か楽しいことがある。そう感じたようだ。

 それはシャラザードが住んでいた「竜の繁殖地」にやってくる、主人持ちの竜から学ぶことらしい。

 だがその時はまだ巡り会う方法も分からず、その機会も訪れない。
 幼竜だったシャラザードはまだ、さして重要なこととは考えていなかった。

 さらに成長し、若竜になってはじめて契約という概念を知る。
 ちょっと面倒だけど、契約すると何か楽しそうだ。そう思い始めたようだ。

 シャラザードの場合、やたらとよくやってくる赤い奴(恐らくターヴェリのこと)が鬱陶しくて、その頃は絶対人と契約してやるものかと思っていたらしい。

 そしてある日、気弱な青年と出会い、契約をした。
 突如、シャラザードの思考はクリアになり、今までとは違う世界を見て、まったく違う世の中に自分がいるような感覚を得たという。

 これが人と契約することかと。

 これが他の竜が語っていたことなのか。

 その日シャラザードは、はじめて体験できたという。

 竜は人とともにあって幸せを感じ、より強くなり、より弱くなった。
 弱くなったというのは、守るべきものが増えたからである。

 人は竜とともにあり、竜の見たものを感じ、竜が感じたものを見る。
 人が竜の力を引き出し、竜が人をより高みへと押し上げる。

 それを『形』としてなし得たのが、人竜一体の技。

 かつてシャラザードが生きていた時代、人はもっと自由に竜の力を引き出し、自由に竜の力を使っていたという。

 それが僕の疑問について、シャラザードが答えてくれた内容だった。

『これ以上難しいことは、我も分からん。だが主ならできる。我はそう思っておるよ』
 なにしろ主であるしな。

 それは、いにしえの竜操者がなし得ていたこと。

「シャラザードの目や耳を僕の目や耳として使うことだよね」
『うむ』

 後ろからやってきた飛行種を僕が感じ取れたのは、シャラザードの大きな耳で聞き分けたからだ。

 チラッとみただけで月魔獣の数が分かったり、隠れている存在が理解できたのもシャラザードの目や耳を通してらしい。

 僕が強くなればシャラザードも強くなり、逆もまたしかり。
 こうやって月魔獣を倒しているうちに、どうやら自然と僕に備わっていたらしい。

「よし、シャラザード。次は向こうに行くぞ!」
『心得た!』

 その日の狩りは、僕がなるべく意識して、シャラザードの感覚が掴めるよう、ずっと集中していた。

 そのうち「これって、魔道によって闇に溶けたときに感じるような感覚では?」と思うようになり、そこからは早かった。

 今までは見たり聞いたりしていても、それを認識していなかったらしい。
 意識することで鮮明になると、今まで分からなかったことが分かるようになってきた。

 といっても「手に取るように分かる」とか「使いこなせている」と呼ぶには甚だ心許ない。

 今のところは「こんな感じで理解が広がった」というに過ぎない。

「だけどこれを繰り返していけば、凄いことになりそうだ」
『期待しておるぞ』

 古の時代、一流の竜操者が体験した世界に、僕が足を踏み入れた瞬間だった。



「レオン操者。王都に向かってください。招集がかかっています」

 陰月の路近くにある宿泊施設。
 竜操者だけが利用できるこの施設で一夜を明かそうとしたら、伝令がやってきた。

「よくここが分かりましたね」
 すでにこの地域で狩りをして、十日以上経っている。

 本来ならば休みがあってしかるべきだが、シャラザードは文句をいうわけでもなく、僕も別段問題がなかったので、そのまま狩りを続けていた。

「町で聞き込みをしましたので、予想して来ました。合っていて良かったです」
「なるほど」

 僕はかなり念入りに月魔獣を倒しながら移動しているので、軌跡をたどれば、ある程度の予測は立つのか。

「それにしても王都ですか。この地はどうなりますか?」
「すでに小型竜と中型竜の編隊が向かっております。明日には到着することでしょう」

「ということは交代ですか」
「はい。次の指示は操竜場で受けるようにと仰せつかっています」
「分かりました。おつとめご苦労様です」

 使者は帰っていった。
 泊まっていけばいいのにと思ったが、まだまだ仕事があるらしい。大変だ。

 僕もシャラザードとの狩りを続けて、ようやく新しい感覚に慣れてきた。
 もう少しここで経験を積みたいところだが、招集ということなので、行かねばならない。

「操竜場か。ということは、次は陰月の路じゃないかもしれないな」

 巡回の場所を移動するだけなら、わざわざ王都に戻る必要は無い。
 数日間の休みをくれる場合でも、王都に戻るかどうかは本人たちが決めるのだ。

 王都に招集ということは、別の命令があるのだろう。
 シャラザードという特異な個体ゆえの任務といったところだろうか。


 翌朝早く、僕は王都に向かって出発した。

 ちなみにシャラザードは盛大にゴネた。
 だだっ子のようにゴネた。

 なだめすかすのに時間がかかった。出発が少々遅れたほどだ。
 まあ、気持ちも分かる。このところ、シャラザードは乗りに乗っていたのだから。

 どうやら僕もシャラザードの気分高揚がうつったようで、幾分残念に感じたほどだ。


 王都までの旅路は順調で、出発したその日の夜には、操竜場に到着した。

 さて、何が待っているのやら。


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