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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第7章 大転移-楽園編

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 巡回中に月魔獣を狩るのは当然だが、各町や村の様子を見るのも、竜操者の仕事に含まれている。
 何か異変があれば、すぐさま大きな町へ知らせることができるからだ。

 また、竜操者が立ち寄ることで、周辺の安全は確保されたことを住民に知らしめる効果がある。
 とくに最近は月魔獣の被害が多いので、積極的に寄っていきたい。

「大変助かりました。ありがとうございます」
 町に降り立ち、領主の館へ行く。

 すると領主が直々にやってきて、お礼を言われた。

 最近、月魔獣の被害が頻発してかなり難儀していたようだ。

「前に担当していた人たちもちゃんとやっていたと思いますけど」
 それほどひどいことにはなっていなかったはずだが。

「はい。それはもう。……ただ、町の周辺は安全でも、その道中はなかなか。隣の町へ行く途中に襲われることもありましたので、住民は不安がっておりました」

 さすがに町から見える範囲の月魔獣は全て狩っていたらしい。
 だが、町と町の間は難しい。

 巡回といっても、複数の町や村を担当しているため、その全域をカバーすることはできなかったようだ。

 優先順位をつけて、安全を確保していたのは素晴らしい手腕だが、後回しになっていた地域がずっとそのままになっていたという。

 それは竜操者の数に対して、守るべき範囲が広すぎることが原因だろう。

「これだけの範囲を僕に任せるわけだ」

 みなで分担して、必要な場所に広く薄く派遣してすら、竜国全域を網羅できていない。

「今日はここで休ませてもらいます」
「分かりました。専用の宿舎がございますので、そちらをお使いください」

 そう言われて向かった建物は、とても立派なものだった。

「普通は編隊を組んで巡回するし、町ならば二部隊くらい常駐してもおかしくないから、この規模でもいいのかな」

 二、三十人が泊まれそうな建物だ。
 それを僕一人で使うのだから、こんな贅沢なことはない。

「夕食がてら、町の様子を見てくるか」
 大きな厨房に火を入れさせるのも申し訳ないので、食事は外で摂ることにした。

 町の領主としか話していないので、住民の生の声を聞いておきたいというのもある。

 服を着替えて、左手の竜紋も隠す。
「これなら商会の若旦那くらいには見えるかな。貫禄がないから無理か」

 商人風の出で立ちで町を散策してみた。

 少し歩いて、目に付いた雑貨屋に入る。

「こんにちは。品物を見てもいいですか」
「いらっしゃい。最近は似たようなものしかないんだが、それでいいなら自由に見てってくれ」

 姉さんの嫁ぎ先は雑貨屋なので、僕もそれなりに売り物には詳しい。
 たしかに品数が少ない。クリスタン義兄さんだったら、この倍は仕入れている。

「それほど小さな町でもないですけど……見たところ、嗜好品が少ないですね」

 ちょっとお高いけどあると便利なものとか、実用的ではないけど棚に並べておくだけで価値が出そうなものみたいな、一見すると「だれが買うの?」というようなものがあまり置いてなかった。

「分かるか? ここんとこ商人があまり来やがらねえんだよ。だから必要最低限のものしかここ数ヶ月、仕入れられてねえんだ」

「それって、月魔獣の影響ですか?」
「まあそうだな。荷は食料品が優先されるんで、どうしてもな」

 交易商人にあらかじめ品物を頼んでおくのだそうだが、月に数回あった来訪も三分の一か四分の一に減ってしまったという。

 必然、その行商人が持ってくる中身を吟味することになり、食料品が多くなってくるという。

「向こうも危険を承知で来てくれているからな。それは分かってるんだよ。だから文句も言えねえ。ただ、厳しいな」

 販売品目が日を追うごとに減っているという。
 もちろん収入も同じだ。

 相手は来たくないから数を減らしているのではない。
 危険が去るまではどうしても出発できないのだ。

「竜操者の巡回が終わるまでは、街道も安心できませんからね」

「そうなんだよ。大転移ってやつのせいで、月魔獣がボンボン落ちて来やがる。街道は危険だって、通行禁止の日数が徐々に増えてきやがった。やってられねえな」

 大転移の影響がこんなところにもあった。
 王都付近では、商国商会の買い占めが問題になってきていたが、地方はまた別の問題で、住民が苦労していた。

 そんなとき、パンパンパンと破裂音が鳴った。領主の屋敷がある方角だ。

「おっ、街道が通行許可になったか!」
「あの音はなんです?」

「竜操者が来たんだな。街道を含めた周辺の安全が確認された知らせだ。これから荷を積んだ馬車が町を出て行くぞ」

「他へ行商へいくんですね」

「その通りよ。それと早馬が出ているはずだ。それが村や町に着けば、そっちにいる商人もここに向かってくるって寸法だ。しばらくしたら、物資が入ってくるぞ」
 店主は大喜びだ。

「なるほど、これで少しは物が増えますね」
「ああ、竜操者さまさまだな」
 店主は上機嫌で言った。

 他の店も回ったが、どこも同じようなものだった。

 中には、荷を台車にくくりつけて、これから次の町を目指す商人の姿もあった。
 どうやらこの町に来て足止めを食っていたらしい。

 一通り町中を見て歩いたあと、食事を済ませ、もう一度領主の屋敷に行ってみた。

「これはこれは、どうしました?」
 何がご不満な点でも……と領主の方が不安顔だ。

「いえ、少し聞きたいことがありまして」
「そうでしたか。わたくしが答えられることでしたら、何でも聞いてください」

「店をいくつか回ったのですが、かなり品物の流入が滞っているのを感じました」

「はい。仰るとおりです。いまですと、月に十日は通行を禁止させてもらっております。そうすると町を行き来する馬車の数は三分の一程度に減ってしまいます」

「それは店でも聞きました。街道の安全が確保できないからと」

「その通りです。みすみす死なせるわけには参りませんので」
「どうにかならないんですか?」

「難しいですね。なにしろ、我が町には専属の竜操者がいないのです」

 なるほどと僕は考えた。
 竜操者の中で、領主がパトロンになっているのは千人もいない。

 軍属や商人のパトロンと奪い合う形となるが、領主専属という肩書きはそれなりに価値がある。

 だが、竜国には数百の町や村がある。村を含めれば数えるのが面倒と思うほどには存在している。

 ソールの町のように複数の竜操者を抱えている町もあるため、町に専属がいる確率は七割くらいだろうか。

 これはその町の力関係を現しているので、「みんな平等に」というわけにもいかない。
 この町は残りの三割の方に入っているらしい。

「そのため、町独自で安全の確保ができないわけですね」
「恥ずかしながら、その通りです」

 巡回する竜操者は、必要な地域をしらみつぶしに回っていく。
 決して効率の良いやり方ではないが、漏れをなくすにはちょうどいい。

 そのため、付近の安全が確保されるのは、数日か、数十日に一度となっている。

「大変ですね」
 事情を聞いて、僕はそう答えるしかなかった。
 根本的な解決は、領主の一族を王立学校に入れて……しかないのかもしれない。


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