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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第1章 魔国蠢動編

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 初めての顔合わせ会。
 僕は途中で抜け出したが、アークに聞いたところ、会場の中は結構ギスギスしていたらしい。

「先日、正式に竜操者ファンドの廃止が発表されて、今年から選出されるパトロンは一名のみと決まったんだ」
「竜操者ファンド……みんなでお金を出し合ってひとりの竜操者を支援しましょうってやつだっけか」

「そう。発表では、竜迎えの儀で選ばれるバトロンは一名のみ。ファンドとはいかなくても、五人や十人でひとりの竜操者を囲おうとする人たちのアテが外れてしまったようだね」

 この発表は顔合わせ会の直前にあったという。
 急に競争率があがったことで、参加者どうしが牽制しあったらしい。

「抜けだして正解だったかな」
 そんなギスギスした場に、正直いたくない。

「今回はじめての運用だろ? 実際にやってみて駄目ならば。来年は少しゆるやかになる気がするだけどね」

「結構いいかげんだね」
「現場の意見を取り入れて、臨機応変に運用しようということだよ」

「なるほど。どちらにしろ、僕には関係ない話だな」
「ファンドは邪道に近いやり方だから、おおむね好意的に受け取られているようだったよ」

 ファンドはパトロンの価値を下げるような制度であり、各方面からの反発もあったらしい。

「僕らに直接関係することはあるかな」

「特にない……と言いたいところだけど、パトロンが一人だけしか選べない。これはしっかりと覚えておいたほうがいい。変な口約束をすると大変なことになるしね」

「それは……僕は何人も選ぼうと思ってないから大丈夫かな」

「あとは、一回生の争奪戦になるかもしれない。すでにパトロンが決まっている人もいるから、選ばれるのは二十人ちょっとだと思っている」

「二十人か……多いのかな? いや、少ないのか」

「少ないね。生徒数千五百人の中から二十人だよ。早くパトロンを決めるか、なるべく騒動に巻き込まれないよう、しっかり意思表示をするかだね」

「騒動には絶対に巻き込まれないようにするよ」
「うん。その方がいい」

「ありがとう。今の話で、方針が固まったよ」
 なるべく目立たないようにして、王立学校の生徒から距離を取ろう。

 まだ初回の顔合わせ会が終わったばかりで、残りはあと四回。
 面倒な騒動はゴメンだ。


 僕はこのときそう思っていた。

               ○

 顔合わせ会から数日後、僕宛にリンダから花束が届いた。
 この前と同じだ。僕が連絡をしないので、じれて花束を送ってよこしたのだ。

 なにか忘れていることがあっただろうか?
 思い返してみたが、それらしい約束をした記憶はない。

 それでも無視すると後が怖そうなので、リンダに手紙を出しておいた。

「……前回と同じレストランか」

 返事はすぐにやってきて、次の休みの日に会いたい旨が書いてあった。
 何となくだが、文面がそっけない。

「……怒っているのかな」

 だが思い返してみても、心当たりがまったくない。
 リンダに会えば分かるだろうか。



「……というわけで、どういうことなのかしら?」

 リンダは怒っていた。ロザーナ先輩にだ。
 いや、半分は僕に対してか? まあ、それはいい。

「けど、リンダ」
「……なに?」

「それ……ロザーナ先輩にハメられただけだと思うよ」
「えっ?」

 虚を突かれたのか、リンダは固まった。
 ことの起こりはこう。


 顔合わせ会が終わった翌日。
 なぜか謹慎を言い渡されていたロザーナ先輩の機嫌が良かった。

 はたで見ていて分かるほどに上機嫌なのだ。
 鼻歌を口ずさみ、スキップして、ときどき思い出したようにうふふっと笑う。

 周囲の生徒がいぶかしがり、なにがあったのだと遠目で見守る中、クラスメイトのひとりが意を決して尋ねたという。「どうしてそんなに機嫌が良いのか」と。

「レオンくんがね。私のために会を抜けだして、会いに来てくれたのよ」

 お花畑もかくやとばかりに満面の笑みを浮かべたその姿に、周囲の生徒たちは色めきだった。
「レオンってだれ?」「いつ? どこで会ったの?」「ふたりの関係は?」

 噂はまたたくまに広がり、午前中のうちに他の学年にまで届いたというのだからすごい。

「なんですってー!?」

 聞き捨てならない話を聞いたリンダは激昂し、昼休みに直談判に出かけていった。

「そのような戯れ言! どの口が言ったのかしら!」
「あら、あなたはどちらのどなたさん?」

「わたしはレオンの幼なじみのリンダ・ルッケナよ!」
「ああ、あの口うるさい……おっと」

「ぬわんですってぇ!?」

 わざとらしく口を抑えたロザーナ先輩にリンダは食ってかかり、そこから口喧嘩がはじまった。

 ああ言えばこう言う。
 ふたりの言い合いはエスカレートし、声もだんだんと大きくなる。
 見物人で市が立つのではと思えるほど集まったという。

 ふたりの言い争いは、昼休みの終了とともに時間切れ。

 その後も、ロザーナ先輩がある事ない事吹聴するので、そのたびにリンダが文句を言いに出かけ、このことは多くの人が知ることとなる。



「それでわたしがハメられたって……どういう意味?」
「僕はリンダの名前を出さなかったからね」

 ロザーナ先輩はリンダの名前を知らない。

 あの日テラスには、一回生の僕ら三人とロザーナ先輩しかいなかった。

 つまりロザーナ先輩が何を喋っても、それが嘘だと言える者はいない。

 僕の態度からいろいろ察したロザーナ先輩は、リンダをあぶり出すために嘘の情報をばらまいた。
 リンダはそれにまんまと乗ってしまったのだ。

 それだけではない。
 ロザーナ先輩は、リンダを同じ土俵に引っ張りだしたのだ。

「昼休みに言い合いしたんでしょ? それでロザーナ先輩とリンダが同レベルだって宣伝したことになるし、パトロンとしても対等なライバル? よく分からないけど、そういう存在だと周囲に認識されたよね」

「……そ、そんな」

 悪名高きロザーナ先輩と同レベルと評されたのがショックだったのか、リンダの口が丸く開いたままになっている。

「僕に近づく生徒はこの輪の中に入るんだぞと脅す効果もあったのかな。なんにしろリンダは、ロザーナ先輩と僕を強く印象付けるダシに使われたんだろうね」

 しばらく思考を続け、リンダはガックリと肩を落とした。
「やっと分かったわ……迂闊っ!」

「情報戦を制したと言うのかな、今回はロザーナ先輩の方が一枚上手だったようだね」
「違うのよ」

「えっ?」

「年末の大立ち回りの件は、わたしだって王都出身よ。知っているわ」
「そういえば、同級生も知っていたっけ。有名なんだよね」

 竜操者をめぐり、恋の鞘当ての果ての大立ち回り。
 しかも領主に連なる高貴な家どうしの話である。
 格好の娯楽だったのだろう。

「入学してすぐに見たの……あのひと、前を向いていた。虚勢や、やせ我慢には見えなかった。好奇な目、悪評を受けても、平然と前を向いていたの」
「へえ」

 強いな。でもなんとなく分かった。
 ロザーナ先輩は謹慎すら歯牙にかけていなかった。
 他人の貶める言葉くらいでは、動じないのだろう。

「あれだけの悪評でも、曇りのない瞳をしていたのよ」

 普通は学校から逃げ出す。
 たとえ踏みとどまっても、下を向いて歩くか、目が濁ってもおかしくない。

 入学直後に見たロザーナ先輩の姿をリンダはよく覚えているという。

「強い人だよね。僕もそう思う」
 短い時間だったが、それには同意できた。

「だからね。……もし他の人がレオンくんとの仲を吹聴しても、どうせ後で恥をかくのにってせせら笑えたと思う。だけど、あの人だけは駄目。頭に血がのぼって、気がついたら問い詰めていたわ」

 リンダは自分の身体をかき抱いて、ブルっと震えた。

「強敵だと思ったってこと?」
「あのひとには、強かさと行動力、それに折れない心があるもの」

 僕の質問に直接答えず、リンダは長い息を吐き出した。

 それ以上話す気もなれず、なんとなく時間だけが過ぎていった。

「もう遅いから、そろそろ戻るよ」
「ええ……今日はありがとう」

 帰り間際、それまで無口だったリンダが「くっきー」と悔しがっていたのが妙に印象的だった。


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