挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第7章 大転移-楽園編

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

518/660

517

 商国が物資を買いあさっているらしい。
 理由は言わずもがな。

「それって、今後確実に発生する食糧不足に備えてですか?」
「そうみたいね」

 これはヤバい。とにかくヤバい。
 何がヤバいかというと、買い占めなんかしたら他の商人にも連鎖していく。
 ゆくゆくは一般の人々にさえ飛び火してしまう。

 そうすると、だれもが食糧を溜め込むようになり、必要な人に行き渡らない。
 もしくは、あまりに高額すぎる値段で買わざるを得ない。

「まだ大転移は始まって半年。食糧事情は悪化していなかったと記憶していますが」
 今年の収穫もまだだし、先だっての戦争でも多くの人がなくなった。

 魔国は首都が消滅し、住民は帰らぬ人となった。
 陰月の路が北に移動したとはいえ、魔国の穀倉地帯はまだ健在だ。

 今年分は収穫量が落ちるだろうが、ギリギリ収穫できるのではないかと言われている。

 ただし、買い占めがあれば別。
 十分行き渡る食糧があろうが、倉にしまい込んでしまえばないのと一緒だ。

 予想では二年後、がんばれば三年後以降に食糧難がやってくる。
 そうなっていたはずだ。

 だが、いまの時点で買い占めがおきているとすると、遠からず品薄状態になり、今年の冬には餓死者が出るかも知れない。

「今のところ買いあさっているのは商国商会のみね。信用が下がるのを恐れて、他の商会は様子見だけど、商国商会に買われないためには、売りに出さないか、こちらでも買い集めるしかないのだけど」

「そんなことしたら、みんなが真似します」
 最後は暴動か焼き討ちがおきる。

「楽園探しに魔国との和解、そして商国の物資買い占めと、最近面倒なことが多いわね。どうしたらいいかしら」

 そもそも今は大転移の真っ最中。
 各国が協力して乗り切らなければならない年なのだ。

 大転移のたびに国が滅んでいるけど、あれって人災もあるんだろうな。
 人はどんなときでも、争わないでは、いられないらしい。

 女王陛下は扇で口元を隠し、もう一度僕に問いかけた。
「ねえレオン、どうしたらいいかしら?」

「……早急に魔国と和解して、楽園探しに集中すべきかと思います」

 問題が複数あるのならば、解決できそうな所から手を付けていく。

 いちばん簡単そうなのが、魔国との和解だ。
 これは竜国がある程度譲歩すれば何とかなる。
 なにしろ、向こうが和解したがっているのだから。

「そうね。少し考えてみようかしら」

 おそらく女王陛下は、すでに次の策……というか、いま話題に上がったすべてについて、何らかの策があると思う。

 僕に聞いたのはただの気まぐれか、市井の者がどう考えるか確認したかったくらいの意味しかない。

「そういえば、領土宣言ですけれども、商国と同じ事をするかもしれないと聞きましたが……」

「あら、竜国議会でのことね。そうよ。牽制にはなるでしょう。それに楽園が本当にあるのならば、どこかに拠点は必要よね」

 なるほど。商国への嫌がらせだけでなく、その先を見越しているわけか。

「商国と衝突は必至ですね」
「もちろんよ。だって、何を考えているか分からないもの」

 ん? 女王陛下が分からない?
 これまで女王陛下と話してきて、いつも驚くような話を聞いてきた。
 驚く僕に対して、女王陛下はいつも飄々(ひょうひょう)として、余裕綽々(よゆうしゃくしゃく)だった気がするのだけど。

 そんな女王陛下でも分からないのか。
「あの……商国の何が分からないのでしょう」

 女王陛下は、「うーん、そうねえ」と悩み、「どう言ったらいいかしら」と困った様子だ。
「商国の手段や目的じゃなくて……なんていうのかしら、めざす先?」

 その点、魔国は分かりやすいと女王陛下は言った。
 ゆえに対策もたてやすかったし、落としどころも見つかった。

 商国の場合、『楽園』を見つけるという目標は分かる。
 だが見つけてどうしたいのか。

 独り占めすることは不可能だろう。
 なにしろ、商国には武力がない。

 ではどうしたいのか。そこが分からないという。
 そのため、攻めどころも落としどころも分からない。

 理解するため、色々突っついて反応を見ているらしい。

「昔から謎な部分はあったのよね。土地には執着しないし、お金や物資を至上としているわけでもないし。レオンは分かるかしら」

「女王陛下が分からないものでしたら、僕にはさっぱりです」
 これはリンダに聞いても分からないだろう。

 商国が見据えているものとは一体……じっくり考えても、僕には皆目見当もつかなかった。



 女王陛下との会談を終えた翌朝。

 王都にいる間、竜操者の宿泊場所は操竜場となっている。

 あまり勝手に、泊まり歩きもできない。
 休暇のため王都へ来る竜操者もいるので、それほど厳しく言われないが、学院を卒業したばかりのペーペーなんかは、ほぼここに軟禁状態となる。
 いつ出動がかかってもいいようにだ。

 事務所に顔を出した。
「レオン操者の赴任先が決まりました。こちらになります」
 地図を見せてもらったら、かなり北の方だった。

「近くに村と町がひとつずつ。他に宿泊施設が三つあります。どこかを拠点として、月魔獣の討伐を行ってください。編隊ではなく単独任務ですので、報告書の作成はご自身でお願いします」

 赴任先は魔国領から遠い。
 支配種討伐に行くなということだろう。

 単騎で好きに狩れるのはいい。
 シャラザードは他と組むのは苦手だ。

 そして与えられた場所だが、地図で見る限り、かなり広い。
 毎日巡回しながら、月魔獣を見つけては処理する感じか。

「この辺は被害が多いのでしょうか」

「そうですね。とくに大型種がまだ多数残っているという話もあります。町に出没する前に処理していただきたいと思います」
「分かりました。善処します」

 ちなみに、僕の前任は、中型竜の編隊が二つ常駐していたらしい。
 大型種を狩れる中型竜は、どこでも引っ張りだこなので、僅かな休みをとったあとは、別の場所へいくことになるのだとか。

 中型竜が三、四体で大型種を仕留めるため、どこでも不足しているとか。
 シャラザードのように単騎で大型種が狩れればいいのだが、そうそううまくは行かない。

「では頼んだぞ」
「了解しました」

 僕はシャラザードに乗って、北に向かった。
 結局王都には一泊しかしなかったな。


+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ