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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第7章 大転移-楽園編

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「耳よりな話がありましてな」
 ガイスン本部長の言葉に、僕は首を傾げた。

「耳寄りな話……ですか?」
「はい。一昨日、竜国議会で話題にのぼった内容ですが……」

 竜国議会とは、女王陛下を含めた国の代表たちが集まって様々な決定をする機関のことだ。
 王都だけでなく、地方領主の代表も集まるし、操竜会や竜導教会の代表者も参加する。

「その会議の場で、商国の暴挙に対抗する案がいくつか出ました」

 商国が勝手に領土宣言したのはもちろん許せない。
 だが、他国が「それは認めない」と言ったところで、実効性は甚だ疑わしい。

「どこの国のものなのだ」と聞かれれば困るし、「だれのものでもないのならば、口を出す権利はない」と言われるかもしれない。

 そもそも武力で追い出せるかといえば、そうはいかない。

 時間をかけて交渉していくしかないのだ。
 その間に商国は実効支配を強めていく。

 大転移で忙しいときに、そうそう関わっていられない。

「それでも勝手に領土宣言はまずいですよね」
「その通りです。ですので、商国に抗議は致します。それとは別に、商国に思い知らせる案が持ち上がりました」

 魔国が敗戦したいま、竜国が率先して大陸の調和を考えねばならない。

「天蓋山脈で人が暮らすのは本当に大変です。『霧の民』を見るまでもなく、本当に少数の者たちが分散して暮らす以外の方法はないと考えられます。今回、商国が領土宣言した場所も、人がまとまって住める数少ない場所だからです」

 天蓋山脈に人が住むには、いくつかの条件が重なっていなければならない。
 一つは、高地でないこと。
 二つは、平地があること。
 三つは、水が出ること。
 四つは、それほど奥まっていないこと。

 商国が領土宣言した土地は、そのどれも満たしているようで、山を三つ越えた先にある窪地にあるという。
 そこはかなり標高の低い場所らしく、井戸を掘れば数千人が暮らせるだけの水が確保出来るらしい。

「もともと探索を生業なりわいとする者や、珍しいものを採取する商人たちが利用していた場所のようですね」

 山に入って五日ほど歩くと到着するらしが、それでも比較的楽に行ける場所だそうな。
 飛竜ならばあっという間だろうが、山歩きはかなり大変そうだ。

「そこで耳寄りな話ですが、対抗措置の一環として、途中の場所を竜国が押さえてしまおうということになりました。こちらも領土宣言するわけですな」

 つまり、嫌がらせである。
 商国が領土宣言した理由は、「ここより先に行く者は、商国の指示に従え」と言いたいからのようだ。

 もともとあったものを押さえただけで、それ以降は商国の許可がいる。
 ただ通過するだけでも同じだ。

 結局、そこから奥を探索するには、商国の監視がついてまわる。

 ならば、そこへ至る場所を押さえてしまおうというのが竜国の作戦である。

 至るルートは複数あるが、すべて押さえてしまえと、やや乱暴な発想だ。
 商国に対しては「ここは自分たちの領土だから、勝手は許さん」と言い、同時に商国の領土宣言も認めない立場を取る。

 商国が矛盾を指摘してきたら、「だったらともに止めましょう」と言うつもりらしい。
 なかなかどうして、悪知恵がまわる。この発案は女王陛下ではなかろうか。

「反発はおきそうですが、それすら計算してありそうですね」

「ええ。そこで問題になったのは、だれに任せるかです。口だけでは効果がありません」
 だれも見ていないならば、武力に訴えるということもありそうだ。

 竜国の狙いは、商国が音を上げるまでの通商妨害。

 だとすると、通行を発見するのに飛竜が必要か。
 貴重な竜操者を天蓋山脈に張り付けることになるが、いいのだろうか。

「嫌がらせのために竜操者を常駐させるのは厳しそうですね」
「はい。そこで私は英雄殿を推薦させていただきました」

「……はい?」
 なぜ?

「会議の場で結論は出ておりませんが、英雄殿が新領地の領主となり、商国に睨みを利かせるわけです。対外的な効果は高いですし、身分は領主となりますので、竜国議会にも参加できます。場所は辺境……飛び地になりますが、英雄殿でしたら行き来は簡単でしょう」

「はい?」
 僕が領主?

 ガイスン本部長、なに推薦しちゃってんの!?

 僕の夢は、辺境の小さな町でパン屋をやることで、領主として町を治める予定はない。
 たしかにそこは辺境だけれども……あれ? 自分の領地でパン屋をやればいいのか。

 いやいやいやいや、人が来ないような山の中でパン屋を開いても意味が無い。
 僕がやりたいのは、お客さんに喜んでもらうパンを焼きたいんであって、店だけ出せばいいというものじゃない。

「ガイスン様、それはさすがに……厳しいお話かと」

 よくよく聞いてみれば、領土にしようと考えている場所は、十数人から数十人が暮らせる傾斜地ばかりらしい。

 そのような場所が点在しているだけだが、それをまとめて領地宣言して僕が治める。
 シャラザードならばそう苦労することなく竜国と行き来できるため、負担は少ない。
 そう考えているようだ。

 商国が音を上げると言っても、数年から十数年くらいかかることも考えられる。
 シャラザードならば、生半可な妨害も撥ねのけられる。まあ、僕自身も大丈夫だ。

 忠義の軍団(ロイヤル・レギオン)のバックアップも密かにできる。
 そのことを考えて、ガイスン本部長は、僕が適任ではないかと思ったそうな。

 もちろんすぐ結論が出る話でもないのだが、天蓋山脈に竜国領を作るという案は、悪くないのではないかと議会で受け入れられたようである。


 ――大転移が終わったら、僕は辺境でパン屋を開くんだ


 これが僕の夢であり、目標である。
 あまりそれから大きく逸脱するような役職には……就きたくない。わりとマジで。

 今夜、女王陛下の許へ行く予定である。
 あー、行きたくねえ。

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