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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第7章 大転移-楽園編

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 ソールの町から王都までの飛行は順調だった。
 怪我をしていたときには三分の一ほどしか出なかった速度も、いまは回復している。

 ずっとシャラザードの様子を見ていたが、どこかおかしいところもなかった。
 竜の回復力は相変わらず凄い。

 一晩中飛び続けて、翌朝早くに操竜場に着いた。
 夜間の飛行は目的地を見失いやすいのだが、シャラザードは慣れたものだ。

 人よりも暗闇を見ることができ、さらに何度も往復しているため、道を覚えているらしい。
 僕が指示しなくても、ちゃんと飛んでくれる。ありがたいことだ。

「おはよう、レオン操者。いま着いたのかな?」
「おはようございます、リブロン操者。たったいまですね」

 リブロン操者はまだ二十代半ばの若い竜操者だ。
 僕が学院にいた頃、よく指導に来てくれた。

 リブロン操者は軍服を着ていない。
 今日は非番か、まだ起きたばかりなのだろう。

「俺も昨日王都に来たとろこだ。前はずっと北に張り付いていたから、ようやく羽を伸ばせるよ」
 どうやら、休暇中のようだ。

 竜操者の場合、長い任務を終えたあとは、数日間の休みがもらえる。
 好きにしていいと言うことなので、大概の人は羽を伸ばす。

 とくにリブロン操者の竜は飛竜なので、文字通り羽を伸ばしてどこへでも飛んでいける。

「北は寒かったですか?」

「寒かったね。だけどそれより人恋しかったかな。単独任務でずっと出ていたからね」
 リブロン操者は偵察や哨戒を得意としている。

 よほど目が良いのか、月魔獣の痕跡を見つけるのが得意で、リブロン操者が見つけたことで、未然に防げた被害もたくさんあると聞いている。

 そして人恋しい……どこかで待っている人がいるのだろう。

「陰月の路が北に移動していますけど、実際のところどんな感じですか?」

「月魔獣が広範囲に散っている感じかな。普通に哨戒していたら見逃すような場所にもいたりするから、北から南へ縦断するのはかなり危険になっていると思う」

 以前は、足の速い馬を使って陰月の路を移動した商人はいたが、大転移に入ってからはそれも少なくなった。

 降下が増え、さらに範囲が広がって、だれも挑戦しなくなったと聞いている。

「竜国はしばらく月魔獣の対応に追われそうですね」

 最近は大きな被害も報告されていない。
 だがそれは、事前に町や村の住民を移動させたからで、根本的な解決にはなっていない。

 小さな被害はそれこそ毎日起きている。
 僕もしばらくは陰月の路に張り付くことになると思っている。

「月魔獣については想定されていたことだから、動揺は少ないんだが……」
 リブロン操者の口調がどうも歯切れ悪い。

「何かあったんですか?」
「俺が急遽呼び戻されたのは、どうやら天蓋山脈へ移動ではないかと思っている」
「天蓋山脈……商国の領土宣言ですか?」

「ああ。これまで天蓋山脈はどこの国の領土でもなかったからな。一番近い魔国が、管理できる部分はしていただろ?」
「そうですね。でも出入りは自由でしたよね」

 竜国の場合、飛竜を使って地図の作製をしたこともある。
 もちろん魔国に許可など取っていない。

 この大陸だと、西の天蓋山脈と北の北嶺地帯はどこの国にも属さず、自由に調査でき、資源は採取した者のものとなっていた。

「魔国の力が弱まったことも一因ということで、竜国は大々的に天蓋山脈の調査をすることにしたらしいんだ」
「調査ですか。……と言っても上空から飛竜で眺めるだけじゃないですか?」

 天蓋山脈の調査……あんな金も人も時間もかかるようなことに労力を費やす意味はないと思うのだけど。

「その通りだな。密かにではなくて、国策として大っぴらにするわけだ。いま、飛竜に余裕があるわけではないが、これは商国への牽制だと思っている。もう王都の住民は知っているぞ」

 すでに天蓋山脈の調査は発表されているらしい。
 というか、リブロン操者が急遽王都に戻されたところ、その噂を耳にしたと。

 それで上官に確認を取ったら、予感的中。
 このあと編成される天蓋山脈調査隊のメンバーに選ばれるのではないかと。

「……なかなか大変ですね」
 天蓋山脈の調査……というのがただの名目であるのは明らかだ。
 本当の目的は、商国の牽制。

 もしかすると、先に手を出させて「反撃」という大義名分を得る作戦かもしれない。
 いま竜国の仮想敵国は商国だけなので、最悪の事態を想定すれば、そのくらいまで考えているかもしれない。

「大変だよな」

 リブロン操者がため息を吐いた。
 なんとなく学院生時代にいろいろ指導してくれた若くやる気のある青年というイメージが崩れて、生活に疲れた中高年のように見えてきた。

「えっと頑張ってください?」
「なんで疑問系なんだ?」

 戦いになるかもですと、さすがに言えなかった。



 リブロン操者と別れて、僕は竜導りゅうどう教会へ向かった。
 ガイスン本部長から最新の情報を仕入れようと考えたからだ。

 操竜会と竜導教会には、それぞれ多くの情報が集まってくる。
 城に集まる情報に比べれば精度は下がると思うが、僕の情報源が女王陛下だけというのは非常に拙い。

 女王陛下には驚かされてばかりなので、主に僕の精神によろしくない。

「ただいま呼んで参りますので、こちらでお待ちくださいませ」

 ガイスン本部長は、国政にも参加できるくらい偉い。
 そのため多忙を極めているが、僕が会いにいくと、何だかんだで時間を作ってくれる。

「英雄殿。お久しぶりでございます」
 やや厳つい顔をほころばせながらガイスン本部長がやってきた。

「ご無沙汰しております、本部長」
「卒業式以来ですかな。英雄殿も名を挙げられましたこと、お礼申し上げますぞ」

「いえ……その呼び名はあまり……今まで通りレオンとお呼びください」
 黒歴史的な呼び名は正直止めて欲しい。

「いいではありませんか、英雄殿。いつの時代も人は崇めるものを求めてやみません」
 急に宗教家らしいことを言い出した。

 そういえば、本部長とか呼んでいるけど、竜導教会のお偉いさんだから宗教家でいいのか。
 だがこの呼称は正直困る。いろいろと。

 僕がどうやって説得しようか悩んでいると、ガイスン本部長が「そういえば耳寄りな情報がありましてな」と言ってきた。

 なんだろう。耳寄りな情報って。

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