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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第7章 大転移-楽園編

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新章になります。「大転移-楽園編」
 商国が天蓋てんがい山脈の一部を領土宣言してから五日が経過した。
 ソールの町はいまだその話題で持ちきりだった。

「町の噂を集めてみたけど、住民の意見は真っ二つに分かれているわ」
 商国の領土として認められるか、認められないか。

 そもそも天蓋山脈はだれのものでもない。
 ゆえに責任をもって管理し、使用するならば別段問題ないという意見がある。

 逆に、自国領土に組み込んだ後で排他的に活動する声を懸念する者もいる。
 とくに利に聡い商人などは、資源を独占するのは許せないという立場だ。

「結局のところ、どうなの?」
 僕はリンダに聞いてみた。

「いいか悪いかよりも、他国が認めるかどうかよね。それで言うならば、認めない……とわたしは思うわ」

 単純に国益に反するだけでなく、商国だからこそ認められないという意見が強いのではないかとリンダは言った。

「竜国と技国が同盟を結んでいるから?」
「そうね。商国が擦り寄ってくればよし、自分で立場を確立していくつもりならば掣肘してやろうと考えるものよ」

「だからこそ領土宣言したのかな」
「……にしては微妙な場所よね。唯一の救いは、月魔獣がいないことくらかしら」

 ごく少人数ならば自給自足できるだろうが、物資を交易に頼るならば、天蓋山脈はまったく適さない。

「少しでも人が住める地域を増やそうと頑張ったとか?」
「まさか。あの国が、あそこの商人たちが、そんな殊勝なわけないでしょ。きっと裏があるわよ」
 商人としてのリンダは容赦ない。完全に商国商人たちを敵扱いだ。

「ここで商国の意図を考えても分からないね。……それでシャラザードの怪我も治ったし、僕は王都の操竜場に行くことになったんだ。たぶんその後は、陰月の路に派遣されるかな」

 シャラザードがそろそろ戦線復帰できる。
 次はどこに配属されるか分からないが、できるだけ多くの月魔獣を倒しておきたい。

 それと別件だが、僕はすでに一度、支配種討伐のための意見書を操竜会そうりゅうかいに出している。
 簡単にいうと、支配種にたどり着くまでの段取りを書いて提出したのだ。

 シャラザードの意見を参考にして、僕が作ったものだ。
 それはまだ草案段階だが、操竜会がそれをもとに、きっとちゃんとした計画書を作ってくれるんじゃないかと期待している。

「わたしはこのまま技国を回るわ。ソールの町に寄ったのだって、その中継地点だったからだし」

 リンダはいま、商人ネットワークの構築に励んでいる。
 商国に対抗して作った、竜国商会りゅうこくしょうかいに人が集まり、規模が大きくなってきた。好印象らしい。

 今が攻め時だとか。
 そのため、父親のヨシュアさんを助けるべく、リンダが技国の商人たちに接触して、両国で大きな輪を作ろうと画策しているのである。

 僕もさわり(・・・)だけ聞いたが、かなり壮大な計画のようだ。
 活き活きと活動しているリンダが、ひどくまぶしくみえる。

「大役だね。頑張って」
 そういうと、リンダは笑った。

「あなたの名前が使えるのが大きいのよ」

 他の商会と交渉するとき、ルッケナ商会の看板だけだと、かなりインパクトが弱いらしい。
 だが、いま話題の『黒竜のパトロン』というだけで、かなりのネームバリューが効果を発揮しているのだとか。

「それならよかった」

 他の竜操者もそうだが、大転移の間は個人の活動よりも全体――つまり、国家の使命を果たすことに重点が置かれている。

 僕の場合、本当に今は名前くらいしか貸すものがない。

「ああ、それとね。王都には商国の情報も入ってくるだろうし、もし手に入ったら教えてちょうだい」
「分かった。竜操者たちはいろんな所に派遣されている。いろいろ聞いてみるよ」

 情報を握っているのは、商人ばかりではない。
 とくに竜操者の持つ情報は早くて正確だ。何しろ、自分が見聞きして、その足で他の町までひとっ飛びするのだから。

 リンダは話すだけ話すと、「あー、忙し、忙し」と言いながら荷物を準備して、技国に向けて旅立っていった。

 僕も家族と近所の人に挨拶を済ませると、竜舎に向かった。
 そこには傷も塞がり、ヒマだヒマだと地団駄を踏み始めたシャラザードがいる。

「よし、一旦王都にいくぞ。それから月魔獣狩りだ」
『うむ、待ちわびたぞ』

「でも今回の怪我は、勝手に支配種に喧嘩を売りにいったシャラザードの自業自得だからね」
『……ぐぬぬ』

「それも今日で終わりだ。さあ、王都に行こう」
『あい分かった!』

 僕はシャラザードとともに飛翔した。



○魔国 新首都レイヴォス

「予想よりも上手く行っているほうだな」
 魔国の王に即位したバルトゥリオス・フロストは、連日、組織の再編に忙しかった。

 かなり早い段階で旧首都イヴリールから移っていたおかげで、この町での基盤はできている。
 知己も多いし、人材も揃っている。

 なにより、苦楽をともにしてきた者たちである。
 どう指示を出せばどのような結果がもたらされるか、大体把握できるのが大きい。

 これまで魔国は、極端な中央集権体勢を敷いていた。
 バルトゥリオスはその考えに反対であった。

「首都が落ちただけで、国全体が機能不全になるのは避けたい」
 バルトゥリオスは考える。

 竜国で王都が消滅しても、他の七大都市が健在ならば、混乱こそするだろうが、国としてどうこうなることはない。
 それだけ地方領主の権限が強いのだ。

 魔国も同じような道を歩み、できるだけ強靱かつ柔軟性を持った国家に生まれ変わらせたいと考えていた。

「その分竜国は、地方の手綱を握るのに苦労しているようですが」
「それは当然のことだな。押さえつければ反発もしよう」

 バルトゥリオスは組織改編の一環で自分の下に政務を統括する『主宰しゅさい』という役職を作った。
 主宰に任命されたのは、かつての守役もりやくだったクライス・カワントである。

 バルトゥリオスが成人し、守役を外されたあとクライスは、「」という、他の政治家や有力者との仲介役、もしくは面倒な案件などが持ち込まれたときの仲裁役の仕事をしていた。

 人脈が広く、広い視野で物事を見定め、さらに実務能力に優れたカワントが主宰になるのに、どこからも反対意見どころか、文句すらも出なかった。

「竜国では地方の長を領主として土地を任せ、運営に対して責任を負わせていましたが、魔国は建前上、すべて王の持ち物ということになっていますが」

 竜国と魔国の違い。
 それは土地の所有、もしくは最終的に土地がどこに帰属するのかということになる。

 竜国の場合、領主が民から税金を集め、その一部を首都に贈る。
 魔国は違う。町の代表が魔国王に変わって税金を集めて首都に送るのである。

 一旦首都に集められた税金は、町の規模、発展度合い、月魔獣対策に掛かる費用などもろもろを考慮された上で、再分配される。

 支配種の降下によって首都が消滅したあと、魔国が全土に渡って混乱したのはその辺が原因でもあった。

「だから私は権利の一部を譲渡するつもりだ。土地は……与えてしまうと国内で諍いが生じそうだからやらないが」
「そうですね、土地を割譲したら、割譲や売買なども行われるかもしれません」

「うん。そのため、今までのように町の代表とか町長のような立場だった者の権限を強化することにする。そして徐々に移していこうと思う」

 権利と義務を少しずつ地方に移す。バルトゥリオスはそう語った。

「かしこまりました。わたくしめが、そのような形で草案を作ってみます」
「頼む。名前は……そうだな。藩主はんしゅでどうかな」

「土地なしで、ある程度の権限を持つ存在で藩主。……よろしいかと存じます」

「ではそれで進めてくれ」
「かしこまりました」

 魔国は新たな主を迎えて、少しずつ動き出していく。


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