挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第6章 大転移-竜魔編

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

513/655

512

 僕はいま、ソールの町でパン屋を続けている。
 自分に向いているのはこれだったのだ! と叫んでいたら、リンダに後頭部を叩かれた。

「もうちょっと英雄らしいこと言いなさい!」
「分かったよ。……えっと、我が天職見つけたり!」

 二回目は避けた。
 空振りしたリンダはたたらを踏んだ後、僕のすねを蹴っ飛ばした。

 ちなみにシャラザードの怪我は治りかけている。順調だ。

 あと数日したら退屈の虫が騒ぎ出し、暴れ出す頃だろう。
 そろそろこの町を去る準備をしなければと思っていたところで、リンダがやってきたのだ。

「ねえ聞いた?」
「何を?」

 ゆっくりとした時間が流れる僕の生活では、大きな変化はなにも起きていない。
 政治や軍事にまつわる情報だって、パン屋にいる間は一切入ってこない。

 僕が本当に何も知らないと分かったら、リンダは「やっぱりね」という顔で教えてくれた。

 竜国と魔国の間でいま、停戦協定が結ばれようとしているらしい。
 月魔獣の脅威が現実である以上、いつまでも両国がいがみ合っていても良いことはない。

 ともにそれが分かっているらしく、和睦に向けた話し合いは粛々と進んでいるらしい。

「ただし、戦後補償については難航しているみたいね」

 国は体面を重んじる――というか、体面にこだわる面倒くさい部分が存在している。
 今回の場合、敗戦国は魔国となるので、魔国から何らかの補償を引き出さなければならない。

 金や食糧を出せと言ったら、また戦争になりかねない。
 かといって、土地や人は要らない。もらったところで、喰わせるのは大変なのだから。

 何か良い案はないかと、王都では連日、政治家や文官、果ては商会の代表などが集まって話し合いがもたれているらしい。御苦労なことだ。

「いますごい勢いで使者が両国の間を行き来しているから、そろそろ決着すると思うんだけど……」

 和睦内容や条約如何によっては、商売にも関わってくるかもしれない。
 リンダはそれなりに興味があるようだ。

「でも、無いものは無いわけでしょ?」

 金にしろ、物資にしろ、食糧にしろ、払えないものは払えない。
 魔国は首都が落ちて、穀倉地帯が全滅するのだから、あとは何で補填すればいいのか。

 武力を放棄させるのは愚の骨頂だ。
 魔国の戦力がなくなれば、最終的に月魔獣の脅威は増すばかりになる。
 竜国がどこかで妥協した方が、後々のためであるのは明らかなはずだ。

「ほんと。そんなに体面が大事なのかしらね」

 聞くところによると、魔国の新王は穏やかな性格らしい。
 暴発しないでうまくまとまってくれるのではないか、というのがリンダの見立てである。
 僕もそうなって欲しいと思っている。

「それとね、竜国の調査で分かったことなのだけど」
 そう前置きしてリンダは、北嶺地帯ギリギリの所で生活している魔国民の話をしてくれた。

 なんでもソウレルの町を攻め落とした魔国軍が、行動を起こす前に軍を二つに分けていたらしい。
 分けたのは反対派を分離したかったというのが噂として残っているらしいが、真実は分からない。

 彼らもまた軍人と民間人の集団で、魔国領内の北に居を構えたという。

 北嶺地帯にまで進むと永久凍土が待っている。
 そこは人が生きていくのに厳しい環境となる。

 ただしそこまで行かなければ、一応生活することは可能である。
 竜国でも多くの人々が同じような環境の中で暮らしている。

 別れた魔国民たちは、それほど多くないらしく、開発の手が入っていない広い北の大地で生活しているらしい。

「竜国の場合、陰月の路の関係で北方はほぼ全滅でしょ」
「そうだね。もう避難は始まっているし」

 大転移が終わって、通常の降下に戻ったとしても、あの辺りはもう人が戻ることはなさそうだ。

「北でしか育たない作物もあるし、その辺の需要があるみたいね。それを見越したわけじゃないでしょうけど、北方に魔国の民がいれば、竜国が魔国と手を結ぶ理由のひとつができたみたいね」
「ふうん」

 新王の政策がどうなるか分からないが、今後魔国民は国内に広く薄く散ることになるため、互いの町への行き来が難しくなるらしい。

「町というより村といった規模になるところが結構出てくるわね」
「なんで? 一箇所に集まった方が便利でしょ?」

「食糧事情じゃないかしら? 村や町でも、自分たちが住んでいる町の中やその周辺に畑を作るでしょ」
「そうだね。ソールの町でもそんな感じかな」

 町中でも野菜を育てたり、麦を栽培したりしている。
 もちろん壁の外にも畑はある。ただしこの町は交易と交通の町なので、畑はそれほど多くない。

 住む人々全員の胃袋を満たすほどは作れていないだろう。

「これからの魔国はなるべく自給自足できる町を目指すんでしょうね。偶然なのかわからないけど、軍役や労役などで事前に多くの人々が地元を離れたりしていたから」
「へー、そうなんだ。自給自足ねえ……」

「だからこそ、そういう発想になったのかもしれないけど、魔国はそういう小さな地方単位で完結する社会ができあがりそうよ」
「なかなか面白いね。新王の考えなのかな」

「さあ、どうかしら。偶然じゃないの?」
「そんなものか」

「そうよ。北方の件だって、戦争を起こす前から分離したみたいだし、偶然よ、偶然」
「そうかなあ。……そういえば、魔国は南方に首都を置くの? なんて名前だっけ?」

「レイヴォスの町ね。新王も丁度良いところに追放されたものね。首都にぴったしだわ」
「そうなんだ」

「魔国でも南方に位置しているけど、陰月の路で区切った場合、あそこは魔国の真ん中なのよ。交通の便もいいし、国境から程よく離れているし、守りやすいから戦争には便利だし、なによりこれから大きく町を広げる余地が残っているわね」

 近くにまったく開発していない平地があるらしく、町として今後の発展が見込めるらしい。

「あそこに反魔国王派の人たちが集まっていたんだよね」

「それもかなり頭の切れる人たちが多いそうよ。もうすでに新体制が決まって動き出しているってだけでも非凡な人たちじゃないことが分かるわ」

「へえ、偶然優秀な人たちが残ったのかな」

「優秀だからこそ、魔国王の政策に反対したんでしょ。戦争推進派たちは軍に同行したか、首都に残って、支配種の降下とともに亡くなっているはずだもの」

「なるほど。そう考えると、残った人たちが優秀なのも必然なのかな」
 戦争による無益さを理解し、王の政策に反対するくらいの気概も持っている。

 彼らが新王を盛り立てていけば、今度こそ魔国は舵取りを誤らないかもしれない。

「それにレイヴォスの町は天蓋てんがい山脈に近いしね」
「……ん? 天蓋山脈に近いと、何かいいことがあるの?」

「天蓋山脈はこの大陸に残された最後の秘境でしょ。かつて『霧の民』が住んでいたように、人がまったく住めない土地ではないもの。ほとんど人跡未踏の地ではあるのだけど、それは調査が進んでいないからとも言えるわね」

「今でも鉱物はあそこから採取しているんだっけか」

「それだけじゃないわ。独自の進化を遂げた新種の植物も近年になって見つかったり、野生化した獣が多いから、家畜化の準備が進められていると聞いているわ。商人たちにとっては、新しい商売の種が眠っているかもしれないのよ」

 リンダの話を聞くといいことだらけに思えるが、今まで開発が進まなかったのには理由がある。

 天蓋山脈はとにかく険しいのだ。
 そのような場所に行くために、山をいくつか越えるなんてのはザラにあり、費用対効果はよろしくない。
 よほど希少なものでない限り、採算が合わなかったのである。

「そういえば、商国の『魔探またん』はそうやって、天蓋山脈から貴重なものを持ち帰っていたんだっけか」

 商国五会頭のひとりだった、『魔探』デュラル・ディーバ。
 いまは亡き、アンネラの父である。

 楽園探しも、『魔探』の残した暗号文章が発端だったはずだ。
 それによってアンネラが狙われたりした。
 あれも遠い昔の話かと思ったが、まだ一年しか経っていない。

「そういえば、天蓋山脈の開発に向かった魔国の人たちが、商国の人たちとかち合って、戦いになったみたいなのよね」

「へー、商国が? なんだろ、希少鉱物でも探しに行っていたのかな」

「魔国のせいで西の都がなくなったでしょ。両国が険悪なのはその辺が関係しているんじゃないの?」
「あー、そういうことがあったね」

 忘れていたけど、あそこには僕が潜入したんだった。
 強烈な光を当てられて、シャラザードがかなりの建物を壊したんだよな。
 うん、忘れよう。

「この大陸でいま一番危険なのか天蓋山脈かもね」
「ははっ、そりゃ大変だね」

 僕は笑った……が、それが現実となる出来事がおこった。



 商国が、なんと天蓋山脈の一部を領土宣言したのだ。


これにて6章『大転移-竜魔編』は終了です。

お読みいただき、ありがとうございました。

ここまで連載前に作ったプロット通りに進んでいます。
改めて考えると凄いなと。
理由は、毎日投稿しているため、シナリオを作り直すヒマがないからだと思います。台無しな理由ですが。

いま同時に投稿中の「世紀末ヒャッハー」ですが、あれはかなりプロットが緩やかに作っていて、いくらでも伸ばしたり、縮めたりできるようになっています。

さて、ようやく魔国の諸々が終わりました。
次の章では「楽園」に関する諸々が出てきます。

徐々に話を畳む方向に進んでいますが、完結まではまだもう少しかかりそうです。
連載を開始して10ヶ月あまり。全体の四分の三が終わりました。

書籍版も発売されましたが、いかがだったでしょうか。
連載を読んでいる方でしたら、書き下ろしの閑話もニヤリとできたのではないでしょうか。
特典SSを含めて、連載にはない部分を補完できたのではないかと思っています。
もし興味ありましたら、書籍版を手に取っていただけたらと思います。

では明日より、7章『大転移-楽園編』が始まります。
引き続きよろしくお願いします。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ