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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第6章 大転移-竜魔編

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○竜国 王宮

 ソウランがサヴァーヌ女王から聞いた話は、驚愕に値するものだった。

 魔国王は全ての民を救うことを諦め、また自分さえも犠牲にした政策を執ったのだという。

「で、ですが、戦争がはじまれば双方に多くの被害がでます。……それは、次の世代に恨みを残すことになるかと」

「そうね。魔国王はそれをこっちに丸投げした感はあったわね」
「…………」

 女王は、早くから魔国王の意図に気づき、いくつか対抗策を考えたという。

 ひとつが、秘密裏に企みを阻止したこと。これについての詳細はソウランに語らなかった。
 もうひとつは、魔国を悪者として宣伝し、少しでも反竜国感情を無くそうとしたこと。

「兵が死ねば、その友人、恋人、家族たちの恨みを買うわよね」
「それは当然かと思います」

 どちらが殺されてもおかしくない戦場での出来事とはいえ、その家族に対して恨みを抱くなという方が無理がある。

「だからできるだけ、そうならないようにしたのよ」

 魔国の狙いが両国の兵を消耗させることならば、竜国はそれを阻止……つまり、なるべく兵の命を損なわないよう動けばいい。

 もちろんやりすぎると意図に気づかれ、別の対策を採られるので、程々になるが。

「そんなことがあったのですか」
 ここ一、二年の間に行われた魔国との戦争、その裏にそんな駆け引きがあったのだと、ソウランは驚くばかりであった。

 だが、ソウランは思う。
 その戦後処理を丸投げするのは如何なものなのかと。魔国王は何を考えているのだと。

 ソウランの表情を見て、女王は「そういえば」と言った。

「ソウレルの町の結末は聞いていて?」
「はい。最終的には攻城戦によって雌雄を決したとか」

「ウルスの町の衛星都市だから、多くの竜が投入されたわ。そのおかげで、都市機能そのものはそれほど被害が出なかったようね」

 ただし、多くの人命が失われたと女王は言った。

「あれも魔国王の指示だったのでしょうか」
「そうね。実際に作戦を練ったのはエーラーン将軍のようだけど」

「エーラーン・ハイドン……魔国の重鎮、北方方面の将軍ですね」

「そう。あの頑固なご老体が指揮を執ったから、リトワーンも後手に回らざるを得なかったわけね。けどあの老将軍は、事後のフォローだけはしていたから、まだマシなのかしら」

 ウルスの町の領主リトワーンを長年苦しめてきたエーラーンが執った作戦。

 周辺の村などを先に襲い、知り合いを人質に取ってソウレルの町を陥落させた。
 人道にもとる所行だが、その悪名は作戦を指示したエーラーンのみがかぶることになる。

 従わされた者たちは、人質を取られ仕方なくであった。
 それは竜国の民だけでなかった。

 実はエーラーン将軍の軍には多数の民間人もいた。
 彼らは捨て石にされたりと酷い扱いもあった。

 あの将軍がなぜそのような……というのは置いておくとして、ソウレルの町を奪回したリトワーンを悩ませたもの、それは……。

「解放されたのは竜国の民ばかりではなかったのよ。魔国の各町から避難してきた民間人も多数いたのね」

 本来ならば、他国の民間人に価値はない。
 数日分の食糧を持たせ、国境を越えさせるのが一般的なやり方である。

 だが今回ばかりは違った。
 まず、集められた者たちは、魔国のいろんな町や村の出身であり、もはやどこにも魔国内に居場所は無い。

 そもそも陰月の路が移動したことによって、多くの町が無人となっているのだ。

 そして彼らは将軍によって捨て石同然の扱いを受けていた。
 十分同情する余地があったのだ。

 しかもである。
 彼らもまた、竜国の民と同じように知り合いや仲間、家族を人質に取られ、嫌々行軍させられ、戦いに駆り出されていたのである。

 十分不幸な身の上に加えて、同情する余地もある。さらに戦争の被害者ということで、彼らには魔国へ戻る意志は残っていなかった。

 ここでいくばくかの食糧と水を渡して放逐しても全員が死んでしまう。
 ただ目の前で死なないというだけで、結果は変わらない。

 さすがにリトワーンは魔国の民間人を放出することはできなかった。
 魔国軍に捕まって同様の扱いを受けた周辺の村の住民たちが、彼らにシンパシーを感じていたこともある。

 結局、民間人すべてを引き受ける旨の報告が王都に届いている。

「まさか……そんなことになっていたなんて」
 やはりこの件に関しても、ソウランは裏の思惑について、一切知らなかった。

 命令されたらその通り戦うのが心情の竜国軍人において、個々の兵士が考えて動くことがない。とはいえ、やはりいろいろと考えさせられる出来事である。

「ホーリスの町もそうだけど、魔国王の思惑を外したことで、それほど多くの人は亡くなってないわ。その代わり、来年……いいえ、再来年以降かしら、絶対的に食糧が足らなくなると思うの」

 その場合、僅かな食糧を奪い合って争いが勃発し、戦う力のない者は餓死することになるだろう。そう女王は締めくくった。

「なんとか支配種だけでも倒したいわね。今後のこともあるし」

 月魔獣の支配地域が広がれば広がるほど、人類は生存圏を侵され、追い詰められるのである。
 いつになく女王は真面目な顔で、そう言った。

 ソウランは無言のまま、深く頭を垂れた。


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