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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第6章 大転移-竜魔編

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○竜国 王宮

 この日珍しく、サヴァーヌ女王は、竜操者のソウラン・デポイと会談をしていた。

 ともに属性竜を持つ竜操者として、女王とソウランが会談するのは、ときおり見られる光景である。
 だが、この日の話題はいつもと少し違っていた。

「そう……レオンから手紙が来たのね」
 女王は扇を弄びながら、思案する顔で言った。

「はい。支配種討伐について話し合いたいとのことです」
「妾の所には来なかったわ。どういうことかしら、あの子」
「…………」

 ソウランの元にレオン・フェナードから手紙が届いたのは、操竜会を通してであった。
 操竜会ならば、竜操者どうしのやりとりを仲介してくれる。

 だがいかにレオンが若くして優秀な竜操者だからといって、直接女王に手紙を出すことはできない。
 それが分かっているからこそ、ソウランは黙っていた。

 もっとも、レオンが竜国の〈影〉であることを知らないソウランがそう思っているだけで、女王としては「直接会いにくればいいではないか」と考えていたりする。

「黒竜シャラザードの怪我が治るのは早くて一ヶ月後。その間に、方針だけでも立てておきたいと手紙には書いてありました」

「支配種の近くまで行って、生きて帰ってきたのがシャラザードだけみたいね」

「操竜会でも、調査は断念しておりますから」
 様子を見に行くだけで命がけ。

 飛竜を含めて、近づいた者たちはみな未帰還となっている。
 被害があまりに多すぎて、支配酒の調査は打ち切られている。

 そこでシャラザードが持ち帰った情報である。
 支配種の警戒度合いや攻撃方法などが判明しただけでも成果である。

 また、射程距離もある程度分かった。
 それをもとに決死隊を結成するもよし、裏をかいて密かに潜入するもよし、たしかにレオンが手紙に書いてきたとおり、作戦を立てるための話し合いは必要であろう。

 そうソウランは思ったからこそ、わざわざ王都に戻り、女王に知らせたのだ。
 女王は、自分のところに手紙が来なかったと拗ねているが、竜国のトップを支配種討伐に向かわせることはできない。

 たとえレオンが女王に手紙を出す手段があったとして、やはりそれはあり得ないことだとソウランは思っている。

「まあいいわ。……ではあなたの職務について自由采配権を与えます。陰月の路の一部で劣勢のようだけど、支配種討伐につながると思ったら、優先的に動いていいでしょう。もちろんレオンとの話し合いもね」

「特別な配慮、痛み入ります」
 実際、月魔獣の大量降下がそこかしこで確認され、竜操者の被害が増えている。

 魔国のように人里離れた場所に落ちた月魔獣は放置しているが、そのうちのいくつかは、支配種のいる場所、つまり月魔獣の支配地域・・・・へ向かっている。

 支配地域に入られると、月晶石を消費して活動することがなくなるため、ずっとそこに居続けられる。
 そのような個体は討伐しなくてはならなくなるため、今まで通り見つけ次第狩るのが一番よい。

「魔国が落ちついてきたし、あなたが抜けてもおそらく大丈夫でしょう」
 女王の言葉に、ソウランは「ああ、そうでした」と頷いた。

 軍人でもあるソウランは、魔国軍との戦いの顛末について、ある程度情報を得ていた。

「しかし、魔国王は息子をあそこに避難させていたとは、初めから妾たちのことをアテにしていたようね」
「…………?」

 ソウランは女王の言葉の意味が分からなかった。

 魔国に新王が立ったことは知っている。
 それが一人息子であり、なぜかあまり名前の知らない町での即位宣言だったことまでは聞いている。

 だがその理由……というか、先代魔国王の思惑については、一切分からない。
 不思議そうな顔をするソウランに、女王は笑って説明した。

「魔国王が自分の政策に反対した者を首都から追い出したのは知っているでしょう?」
「はい。そのせいで魔国は急速に軍事政策に傾倒していきました」

「あれは国民を生き残らせるためにわざとやったのよ」
「……はい?」

 竜国を悩ませた魔国の軍事政策。
 それはわざとやっていたというのだ。ソウランにとってそれは、想像の埒外の出来事であった。

「借金が増えてしまった商会があるとするでしょ。生き残るためにはどうすればいいと思うかしら」

 そう問われてソウランは考えた。借金を返せばいいのだが、手元に現金はないのだろう。
 だったらどうするか。

「新たに商売をするのが本道でしょうが、先立つものがないとなれば、売れる資産を売り払うしか思いつきません」

「そうよね。何を残し、何を売るのか。全部売ってしまえば商売はできなくなるものね。売るものを商人自身が選別しなければならないわ。……栄養のなくなった土地に大木があるとするでしょう? 庭師がそれを生き長らえさせようとするにはどうすると思う?」

 また変な話を振られたとソウランは思った。
 今度は庭師の話である。しかも枯れた土地で大木を生き長らえさせるのだという。

「枝を落とすしかないかと思います」

 派の隅々まで栄養を行き渡らせられないのならば、枝葉を切り落とせばいい。
 根と幹が無事ならば、翌年生えてくる。

「それと同じね。大国を存続させるには食糧が足らない。このままでは全員が餓死してしまう。だからあなたは生きて、あなたは死んで……とは言えないわよね」
「当然だと思います」

 それで納得できる町民はいないだろう。だれだって生きたいのだ。

「だから王が選別したの。他国のものを奪ってでも生きたいという人たちだけを集めて生存競争をさせたのね。他国を蹂躙するのだから、自分たちが蹂躙されても文句は言えないわ。それの旗頭になったのが先代の魔国王ね」

「…………」
 ソウランには衝撃的な話だった。

 つまり、食糧難を解決させるために、あえて急進的ラディカルな者たちを集めて政治を行ったということになる。

「魔国は、技国、商国、竜国すべてに攻め込んだでしょ。自分たちの兵を減らし、相手国の兵も減らして、生き残った者たちだけで食糧を分け合えばいい、そう考えたのでしょう。だから、その前に息子を放逐した」

 たしかに戦争に反対する者たちは、早々に首都から追い出されたと聞いている。
 いま魔国で生き残った重鎮たちは、国家存続の危機に際しても、他国へ攻め入ることを良しとしなかった者たちなのだ。

「その旗頭が……先王の息子……ですか?」

「そうね。王も側近も生まれ変わらせて、国を新しく作り直す。その役目を与えられたのでしょうね」

 軍人でもあるソウランは思った。
 たしかに戦争開始以前から反対していた者たちならば、戦後交渉もやりやすくなる。

 過去のしがらみは残るだろうが、もともと融和政策を唱えていた者たちだ。
 双方とも穏やかに話し合えるだろう。

「まさか、そこまで考えて……?」
 ソウランの問いかけに、女王は「もちろんよ」と答えた。


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