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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第6章 大転移-竜魔編

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 僕は、撤退していく魔国軍を木の上からじっと眺めていた。

 魔国王崩御の事実は、まるで波が広がるかのように、軍全体に伝わっていった。
「動揺した兵士が逃げ出す前に撤退の指令が出たのか。素早い判断だな」

 慌てふためく魔国兵たちであったが、命令が早期に出たことで算を乱して逃げ出すことはなかった。
 整然ととはいかないものの、十分落ちついた撤退に見えた。

「ここでの用は済んだし、飛んでくる岩を止めないと……」
 闇に潜ったまま、シャラザードの所まで戻る。

「シャラザード、もういいよ。敵は撤退した」
『ふむ。もうよいのか?』

 まるで疲れた様子のないシャラザードに僕は苦笑した。
 人が両手で抱える程もある岩ですら、シャラザードにとっては小石ていのでしかない。

 山の頂から飛ばすくらい、怪我をした状態でもなんでもないのだろう。

「下の軍は撤退していった。僕らも帰ろう」
『あい分かった』
 シャラザードに乗って、ソールの町を目指す。

 魔国王は死んだ。
 女王陛下の指令は全うできたわけだが、なぜこの時期に女王陛下があのような指令を出したのか、僕には分からない。

 きっと何か考えがあってのことなのだろうけど。

「問題は後処理だけど」

 今回はイレギュラーなことがいくつかあった。
 ひとつは、軍の野営地に潜入して事に及んだこと。
 本来、敵軍の将を暗殺なんて、褒められたことではない。

「女王陛下の指令だから、それも分かってのことだろうけど……」
 僕が気にすることではないけど、技国あたりはいい顔しないのではなかろうか。

「それと投石を使ったことだよな」

 あとで調査されたとき、竜の存在が取り沙汰されるのは確実だ。
 生き残って動けない兵もいただろうし、暗闇の中では怪我した者を全員収容できたとは思えない。

 明日の朝、竜国軍が捕虜として拘束したとき何があったか分かるだろう。
 撤退した魔国側だって調査するに違いない。

「シャラザードの姿は見られていないからいいけど……」

 あの状態で分かるのは兵もいない、機械もない山頂からの投石。
 超常現象ではないのは明らかだし、竜の関与が疑われるのは当然か。

「首都の公式記録では残らないかもしれないな」
 だれも見ていないならば、憶測を残す必要はないと女王陛下なら言いそうだ。
 つまり有耶無耶うやむや

 竜国軍の夜襲で王が死んで魔国軍が撤退あたりが落としどころか。
 もしくは、崖の崩壊で被害を受けた魔国軍が撤退……そんなところだろうか。

 日の出まではまだ時間があるが、気を抜くわけにはいかな。シャラザードが出歩いたのがバレるのはまずい。
 シャラザードをそっと竜舎に戻し、僕も家に帰ることにする。



 そして翌朝。

「……ん?」

 朝の仕込みの時間になっても父さんが起きてきていない。
 というか見に行ったら、父さんが家にいない。
 出かけたようだ……ということは。

「他に指令があったのかな?」
 僕は聞いていない。

 現役復帰した父さんのことだから、問題無いと思うけど……朝まで戻らないなんて少し心配だ。

 ……と思っていたら、父さんが帰ってきた。

「お帰り、父さん。朝の仕込みはやっておいたよ」
「おう。助かる」

「疲れているみたいだけど……何かあったの?」
「こんな時勢だしな、夜の巡回に出たんだが、壁の外で不審な連中を見つけてな」

 父さんがプロの戦闘集団を町の外で見つけてしまったらしい。

「戦闘集団? なんだってそんなのが?」

「町に潜入して、魔国軍が来たら内部から門を開けようとしたんだろうな。いま町の出入りを監視しているだろ。だから夜中にこっそり潜入……だな」

 ソールの町への出入りについては、不審者にだけ目を光らせている。
 町の住人や知り合いが町にいる場合を除いて、こんな戦乱が間近におこっている町に近づく者はいない。

 不審者の発見は意外と簡単なのかもしれない。
 その分、密かに潜入するのは難易度が高い。

 そこで忍び込もうと考えたわけか。

「どのくらいいたの?」
「百人はいなかったな。魔道を使うのが数人だ。呪国人が二十人ほど。残りの半分は兵士のようだった。あとは傭兵か、暗殺組織の人間か」

 つまりその百人を町中に入れてしまえば、内部が混乱して、領主の館が襲われたり、家に火を付けられたり、門を開け放たれたりするのだろう。

「潜入といったって、随分と人数が多いね」
「地方都市は、俺たち〈影〉が守っているからな。十人や二十人程度じゃ無理だと思ったんだろう」

 それで百人か。でも多いな。
 魔国は本気でこの町を落とそうとしたのだろう。
 父さんがいたから未然に防げたからよかったものの、結構危なかったようだ。

「それで、そっちはどうだったんだ?」
「うん。成功したよ」

「……そうか」
「魔道使いが王のまわりを守っていたんで、一人ずつはがしていって、最後はバシリスクだけが残ったんだ」

「戦ったのか?」
「どうだろう。あれは戦ったと言えるのかな」

 僕が姿を見せられないため、難儀した。
 兵士たちが円陣を作り始めたので、シャラザードの投石で混乱させたと話した。

「なるほどな。いい手だ。魔国はこれから混乱するだろう」
「うん。王が死んだわけだし、かなり混乱するだろうね」

「新しい指導者がそれを収める。そして新しい魔国としてスタートすることだろうさ」
「そうなの?」
 父さんがまるで見てきたように言うのに、少し引っかかった。

「そうなる。どの国でも後継者がいるさ。暗殺によって国が混乱したならば、それを収める者が出てくるのは自明だ」
 古い者たちが消えて、新しい者たちが造りあげていくのだという。

 なるほど、女王陛下はそれを狙ったのかな。

「でもそううまく行くかな」
「さて、そこまで考えているだろうさ」

「考えているって、誰が?」
「もちろん、魔国王……いや、元魔国王か」
「……?」

 その後は、店を開ける準備をするからと、僕と父さんはパンの成形と焼きをはじめた。



 そして『ふっくらフェナード』は今日も開店する。

 まるで戦場のような朝の忙しさが消えて、ようやく店が落ち着きを取り戻した頃、町の人々の噂話が飛び込んできた。

 昨日は善戦するも一旦陣を引き、ソールの町側に戻りつつ陣を敷き直した竜国軍だったが、その夜に有志による夜襲を決行したらしい。

 兵数のおよそ半分を投入した夜襲は、魔国軍を混乱に陥れることに成功したという。
 月の出ていない夜、それも山道での戦いである。

 本来ならば蛮勇と誹られる行為だが、敵の意表をつくことに成功し、強かな打撃を与えて撤収したという。

 翌朝、士気の高い竜国軍は、決戦のため軍を展開させたところ、魔国軍が野営した跡地はもぬけの殻。
 すでに撤退した後だったという。

「さすがは竜国の地方軍だ」
「やってくれると思っていたぜ」

 住民は我が事のように勝利を喜んでいる。
 王都からもうすぐやってくる中央軍と合流し、魔国軍を国境の外へ追い返す準備をこれから調えるのだという。

「……という噂らしいけど」
 僕はお客さんから仕入れた情報を父さんに伝えた。

「うまい具合にお前の動きは隠れたな」
「父さんの活動もね」

 僕ら〈影〉は町の住民の噂にはならない。
 噂になってはならない。

 噂にならないからこそ、安心して活動することができる。

「よし、午後の仕込みは俺がやっておくから、お前は女王陛下に届ける報告書を書いておけよ」

「あーそうだね。……苦手なんだよなぁ」

「それだからお前は脳筋と呼ばれるんだ。しっかり書くんだぞ」
「はーい」

 僕はエプロンを外して、部屋に戻った。

 さてなんて書こうか。

本日発売の拙作『竜操者は静かに暮らしたい』ですが、書店ツタヤにたったいま確認しに行ってきました。

けれど、売ってません。。。。(T_T)

みなさんのところは売ってましたか? 売ってましたよね? (不安)

感想などいただけたら、嬉しいです。
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