挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第6章 大転移-竜魔編

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

507/656

506

○魔国軍の野営地 バシリスク

 そこにいると確信があった。
 本当にかすかにしか捉えられなかった気配だが、それは何度か感じたものあった。

 果たして応えはあった。
 そして驚いた。

 声が意外にも若かったからである。
 バシリスクは知っていた。
 熟練の魔道使いになるには、多くの時間と気の遠くなる修練が必要であると。

 ゆえに自分を脅かそうとしている竜国の〈影〉が、そんなに若い者であったことに、驚きを禁じ得なかった。

 と同時に、その者につけられたふたつ名を思い出す。

 ――竜国の魔道使い『インビジブル・ナイフ』

 敵を認識するのに一番確かな方法は、その者を現すような名を付けることである。

 木っ端な暗殺者であればどうでもよい。
 そうでなければ、他者と明確に区別した方がよい。

 なぜならば、情報を共有し、対策を取ることで被害を減らせるから。
 その意味では、インビジブル・ナイフは一流の魔道使いとして認識されていた。

 それがこのような若者であろうとは、魔国のだれが理解し得たであろうか。
 まだ十五、六歳くらいだろう。それで魔国を脅かす者のひとりとして認識されているのだ。

 バシリスクは警戒度をあげた。
 すると、いままで感じ取れなかった気配の移動もなんとなくだが、分かるようになった。

 闇の中に溶けているのは分かっている。
 こちらの攻撃が効かないことも。

 マタミールが生きていればまた違ったであろうが、バシリスクにこの〈影〉を闇の中から引っ張り出す力は無い。

 ゆえに問答を続けている間になるべく気配に慣れておくしかない。

 そして僅かな邂逅が終わりを迎え、気配が濃い闇の中へと移動していく。
 バシリスクはもちろん追わない。

 闇は敵のともがら
 自分が追っても不利は否めない。

 ただし交戦すれば別。
 いかに闇の中に溶けようとも、攻撃を仕掛けるならば、現実に干渉しなければならない。

 そこを狙う準備はすでに出来ている。

 そしてバシリスクは時を待った。
 レオンもまた、同じく時がくるのを待っているとも知らずに……。



 軍の混乱はいまも続いている。
 軍全体の指揮は将軍を頂点として、配下の隊長たちに任せてある。

 魔国王は全軍の総帥権を持つものの、徒に口を出して現場を混乱させることを好まない。

 同時に、王に仕える魔道使いたちも王の言葉を将軍に伝えることはあっても、その行動をいちいち指示したりしない。
 軍は将軍が動かしているのだ。

 大きな岩が飛んできた。
 バシリスクの近くで岩が大地と衝突し、その破片が大小いくつにも別れて飛ぶ。

 王に危害が加えられそうなものだけを払う。
 それは超人的な身体能力を持つバシリスクには十分可能なことであった。

 だがその刹那、変な違和感がバシリスクの脳裏をかすめる。

 岩の一つが消失したのだ。
 注意していたからそれはすぐに分かった。

 どこへ? そう思うよりも早く、バシリスクは振り向いていた。
 ある意味、条件反射である。

 ちょうど王のすぐ横から岩が姿を現すところだった。

「――陛下!」

 バシリスクは最速で動き、王を突き飛ばした。
 だが、巨大質量を持つ岩の欠片は、突き飛ばしたくらいではその範囲から逃れることはできなかった。

 ――バキバキバキ

 そんな音がバシリスクの耳を打った。
 王が口から血を吐き、半身が骨がすべて失われたと思えるほど、グニャグニャとなって王が地に倒れた。

 同時にバシリスクの身体もまた、王を突き飛ばした以降、左腕の感触がない。
 息を吸ったとき、激痛が走った。

 肋骨が折れたとバシリスクは思った。
 それだけでなく、肺が損傷している。

 口から血が溢れた。

「陛下……へいか……」

 足に力が入らず、立ち上がれない。
 バシリスクは這って王のもとへ向かった。

「すまぬ……どうやら、私は……駄目のようだ」

 荒い息をする王。
 バシリスクは王の頭を右手で掻き抱いた。

「へ……い……か」

「志半ばだ……不甲斐ない私を……許して……くれ」
「なにを……おっしゃいます……か」

「種はまいた……あとは……息子に……たくそう」
「……は……い」

「先に……逝くぞ」
「おと……も、しま……す……へい……か」
「…………」

 王が息を引き取るとともに、バシリスクもまた、その生涯を閉じた。

 若き頃より、ともに苦楽を共にしたふたり。
 嬉しいこと、悔しいことでもすべて真っ先に相談し、自ら半身と言って憚らなかった魔国王とバシリスクは、その日、戦場で散った。




 ――魔国王、崩御す

 バシリスクの死とともにその事実は、野営地全体へと伝わっていった。

「撤退する」

 報告を受けた将軍は、厳しい顔でそれだけを告げた。

 全軍はすべてを投げ捨てて、撤退した。

 たいまつを掲げ、先頭を進む一団の中にララはいた。

「陛下、陛下ぁ!」

 回収できたのは、バシリスクと王の死体だけ。
 そのまま特攻しようとするララを止めたのは、魔国十三階梯としての使命。

 王の亡骸を持ち帰るという任務を自分に課し、くずおれそうになる自分を叱咤し、撤退の先頭を勤めた。

「陛下……ああ、陛下!」

 ララは何度も何度も王に呼びかけ続けた。
 もちろん、ただの一度も返答はなかった。

 夜明けは……まだ、遠い。


気がついたら、ポイントが4万を超えていました。(いつからだ……)
いつも応援ありがとうございます。


明日、拙作『竜操者は静かに暮らしたい』の書籍版が発売されます。

特典SSですが、5本用意させていただきました。

配布書店様は、以下の通りになります。


1.アニメイト様
タイトル:『新歓パーティ』

2.とらのあな様
タイトル:『華の会』

3.メロンブックス様
タイトル:『姉の忠告』

4.ゲーマーズ様
タイトル:『奉仕活動』

5.その他、希望書店様
タイトル:『操竜場の見学』

中身の詳しい情報あらすじは本日の『活動報告』にて。

※サイン本についての情報はレッドライジングブックス様の公式Twitterをご覧くださいませ。
発売日以降に更新されると思います。

竜操者公式webページ
http://www.redrisingbooks.net/blank-15
レッドライジングブックス様Twitter
https://twitter.com/redrisingbooks
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ