挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第6章 大転移-竜魔編

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

505/657

504

「怖く……ないかな」

 聞いてきた意図は分からないが、僕はそう答えた。

 本当は怖い。
 戦ったら勝てる気がしないからだ。
 だけど、そう答えたら負けのような気がする。

「……ほう。死ぬのが怖くないか」

 意外そうな声が聞こえてきた。
 バシリスクはこの時代最強の魔道使い。
 自分が見くびられたと思ったのかもしれない。

「岩を避けるように、陣を移動したよね」
「うむ」

 王を守るために円陣を敷いた。
 だがいま王は円陣の外れの方にいる。

 理由は簡単。大岩が振ってくるからだ。
 少しでも遠くに逃げようと、外へ外へと移動したことでここまで来てしまった。

「ここに来るまでに死体を見たけど、僕を見つけられるかな」

 円陣の中央にあったのは護衛の死体、重装歩兵の死体、そして……魔道使いの死体。
 いま魔国王を守る魔道使いは、バシリスクしかいない。

「岩の直撃を受けてマタミールを失った。じゃが、それだけで勝てると思うたか」
 バシリスクの殺気が膨れあがった。

 マタミールの名前は分からないが、光を出す魔道使いのことかもしれない。

「まあね」
 それで僕とバシリスクの会話は終わった。

 岩の影響を受けないだけ、会話が長引けば僕が有利になる。
 会話をしている間も何人かの護衛が倒れているし。

 ではなぜバシリスクは会話をはじめたのか。

 会話することで、他に敵がいないか探りたかったのだろう。
 何度も闇に溶けて近づいたことで、僕の気配が探られている気がする。

「会話に乗ってしまったことで、影に潜ったときの気配を覚えられたんだろうな」
 そういうことなのだろう。

 大きな塊が降ってきた。
 それが近くで弾け、大盾を構えた兵士が数人吹っ飛んだ。

 僕は闇に溶けたまま、魔国王の後ろに回り込むため、移動した。
(目線が……ついてきているな)

 やはりバシリスクは僕の気配を感じているらしい。
 確証はないだろう。ただ、うっすらと感じている、その程度のはずだ。

(父さんでも僕の気配は感づかないんだけどな、不用意に何度も近づきすぎたか)

 僕の周りでは、感知力に優れているのは父さんくらいだ。
 それでも闇に溶けた僕の気配は感じられないというのに、敵ながら恐ろしい感知力だ。

 チェスター戦と同じく、遠くから『闇刀』を繰り出したところで防がれてしまう。
 少しでも視認されれば一瞬で石化されるので、いい手とはいえない。

 また、『闇鉤爪』のようにある程度近づいてからの技も使えない。
 だから僕は、魔国王の後ろに回り込んだまま、もっと奥……闇の中へ向かった。

 案の定、バシリスクは追ってこない。
 王から一定以上離れないのは相変わらずだ。

「そして機会を待つ」

 十分離れたところで、闇から姿を現す。
 これだけ離れれば、僕の気配は追えないはずだ。

 そしてこの闇夜では視認も難しい。
 真っ暗闇の中で僕はじっと様子を窺った。

 王の近くに落ちる岩をバシリスクが逸らしている。
 それほど力を加えているように見えないが、当たりそうなものを確実に排除している。

 とてつもない技量だ。

 身を潜めて、更に待つ。

「………………きた」

 待ちに待ったその瞬間。
 魔国王の近くに大岩が接近する。
 バシリスクはそれに気づいて剣を構える。

 岩が地面に当たり、複数の小岩に別れて飛び散った。
 王に当たりそうなものを選んでバシリスクが剣を振るう。

 直接バシリスクや魔国王を狙えば、僕の殺気を読まれてしまう。
 間違いなく対処される。

 だが、それ以外ならば?

 僕の『闇刀』は二カ所の闇をつなげる魔道である。
 といっても、視界に届く範囲の二カ所であり、両者はそれほど離れていないことが条件となる。

 ひとつを自分の腕の近くに展開させるのは、それ意外に使い道がないからである。
 このインビジブル・ナイフと呼ばれる元になった魔道『闇刀』。
 実はもっと別の使い方もできる。

「ここだ」

 跳ねた岩の手前にひとつ。
 もうひとつは、魔国王の背後に。

 岩は黒いもやの中に吸い込まれた。
 バシリスクは魔国王を守るべく、いまだ岩の対処に忙しい。

 王の背後に岩が出現した。
 バシリスクが気づく。ありえない感知力だ。
 すぐに対処に向かう……も、そこには魔国王がいる。
 完全に間に合わない。

 バシリスクは魔国王を押し倒……

「陛下!」

 ――バキバキグシャ!

 それは、どちらの骨が折れた音だろうか。

 ともに吹っ飛び、大地に投げ出される。

 岩の欠片は大きく、バシリスクが王を押し倒したとき、王の半身が飛んでくる岩に粉砕され、当のバシリスクもまた、左肩から先、そして左肺の一部を損傷した。

 バシリスクが起き上がろうと、半身を起こした。
 魔国王は仰向けのまま、動かない。

 それを僕は闇に潜ったまま、遠くから見つめる。

 周囲の時間が止まったかのようだ。
 護衛がだれも動けない。

 バシリスクが横向きのまま、魔国王の方へ這っていく。

「……陛下……へ……い……」

 バシリスクの口から、最後は空気だけが漏れた。


+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ