挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第6章 大転移-竜魔編

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

504/660

503

 切り立った崖の近くに野営地を作ったのは、戦略上正しいことと言える。
 だれもそこから攻撃なんて、できないのだから。

 ――ドーン

 大地が揺れた。
 高所から降ってくる岩が地面と衝突し、砕け、数を増して散っていく。
 近くにいれば、破片が当たっただけで大怪我をしてしまう。

 それらはすべて、切り立った崖の上から飛んできていた。

 時折、岩は柔らかな地面を凹ましたあとで、転がっていくものもある。
 そんなものにぶつかれば、即死だってありえる。

 ――ゴーン、ドドーン!

 次々と降ってくる岩や石が、大地を小刻みに揺らしている。

「まだ来るぞ!」
「盾を構えろ!」
「間に合わない! 避けろ!」

 野営地は大混乱だった。
 直撃こそ少ないものの、破片を浴びただけで戦闘不能になる。
 抗う術はない。

 つい今し方まで綺麗に整えられていた陣形は、いまは見る影もなかった。

「……踏みとどまっている兵が多いな」

 撤退命令が出ていないからか、右往左往する兵はいるものの、尻尾を巻いて逃げ出す兵は少ない。

 こんな状況になっても兵の心は挫けていなかった。
 だがそれは何の慰めにもならない。

 真っ暗闇の中から岩が飛んでくる。
 見て避けるわけにもいかず、彼らはただ運を天に任せて堪えているだけに過ぎない。

「遠からず撤退命令が出るだろう。どこに向かうか決めかねているのかな」

 月の出ていない夜の山道。
 灯りも無いまま駆け出せば、合流することはできなくなる。

 これが竜国の戦略と考えたら、どこかに罠を張るか、兵を潜ませていることも考えられる。
 撤退させたくても、その決断ができないのかもしれない。

 そんな中を僕は闇に溶けたまま進む。

 兵士たちは、移動する僕に気づかない。
 かがり火は、当初の半分くらいに減っただろうか。

 兵士の一人が、岩の破片を顔に受けて吹っ飛んだ。
 破片はそのまま近くにいた兵をなぎ倒して奥に転がっていく。

「……そういえば、いつまで続ければいいか、伝えてなかったな」

 投げる物がなくなれば自然と収まるだろうか。
 どうだろう。シャラザードの事だから、その辺の岩を破壊してでも続けそうな気がする。

 灯りのないところを縫って進み、ようやく陣の中央に辿りついた。
 しかし、そこには死体が転がるだけ。魔国王の姿は無い。

「……あっちか」
 重装の歩兵が守っている。
 王の姿は見えないが、そこにいるのだろう。

「これもバシリスク対策のひとつなんだよな」

 バシリスクは体術の化け物だと父さんは言う。
 通常の剣や槍、弓矢での攻撃は効かない。

 姿を見せずに確実に殺せる魔道があれば別だが、通常は石化能力があっても対処できないような攻撃で倒すしか方法がない。

 たとえば、至近距離から槍の射出装置で狙うとかだ。
 もっとも機械式の武器すら石化してしまうため、気づかれずに射出する必要があるが。

 もうひとつは、超々遠距離からの攻撃である。
 それでも気づかれれば避けられてしまうが、そうならない場所や状況では有効だと父さんは言っていた。

 視認できない真っ暗闇の中で、石化しても意味が無い岩の塊が降ってくる。
 バシリスクひとりならば避けることも逃げることも可能だが、魔国王を庇ってでは、それも難しい。

 反撃するにも、王を置いて出かけるわけにもいかない。
 そういう意味では理想的な攻撃方法と言える。

「……けど、バシリスクならばこれでもなんとかしちゃいそうなんだよな」

 遠距離からの岩だけで倒せるビジョンが浮かばない。
 ゆえに僕が乗り込んでいるわけだが。

 先ほどから跳ねて来た石や岩の欠片を大盾を構えた歩兵が弾いている。
 耐えきれず倒れ、そこに穴があけば、別の誰かが塞ぐ。
 人の壁で全方位死角なく対処しているのが見える。

「直撃しないかぎり、王に被害は出ないだろうな」
 さすがによく守っている。
 たとえ直撃するコースだとしても、バシリスクが逸らしてしまうかもしれない。

 僕が隙を窺っているうちに、岩の欠片を受けて、何人かの重装歩兵が倒れていった。
 金属の面当てで分からないが、彼らの表情は恐怖に彩られているに違いない。

 どこからくるのか分からない攻撃というのは、それだけで根源的な恐ろしさを感じるものだ。

「暗殺者よ、来ておるのであろう」

 バシリスクから呼びかけがあった。

 これは僕に宛てたもの?
 暗殺者とか言っていたし、理由は分からないが、たぶんそうだろう。

「来ているけど?」
 答えてみる。

 地面が揺れて、遠くで悲鳴が聞こえる。
 いまだ投石は続いている。

 そんな中、バシリスクは涼しい声で続けた。

「応えがあったと思ったら、ずいぶん若い声だな」
「そう?」

「もっと熟練の者を想像しておった」

 魔道使いはどうしたって、経験がものをいう。
 バシリスクがそう思うのも無理はない。

 毎回答える場所を変えているのに、なんとなく目で追われている気がする。
 僕の気配を察知したか?

「この国の暗殺者は層が厚いってことでどうかな」
 どうせ竜国の〈影〉だってバレているだろうし。

「たしかにそうかもしれん。インビジブル・ナイフが王都に現れてより、情報がほとんど入らなくなったしの」

 それは知らなかった。
 たしか、女王陛下が報復のために、地下組織を結構潰したんだった。
 そのせいで、魔国は活動拠点を失って、情報が入らなくなったのか。

「そのインビジブル・ナイフは僕のことでいいのかな」

 その名前はおそらく僕がスルーを倒したときのもの。
 自分で名乗ったりしない限り、だいたい各国で呼び名がつけられるから別にいいのだけど。

 ちなみにあまりに有名なバシリスクだが、竜国では『石眼せきがん』と呼ばれている。

「儂らはおぬしのことを魔道使い殺しのインビジブル・ナイフと呼んでおる。似たような名を知っているが、それと正反対であるな」

 似たような名――父さんだ。

 父さんは竜国では『無色』とか『死神』とか呼ばれている。

〈影〉の中でも、一部の〈左手〉は、『一落いちらく』なんて呼んでいる者もいる。
 あとは、使う魔道そのまま『無色の盾』という呼び名もある、だが魔国では違う。

 魔国で父さんは『インビジブル・ガード』と言われている。
 不可視の盾を自在に出し入れし、あらゆるものを弾くため、そう呼ばれたとも。

 その魔道は完璧な守りを旨としていて、本来……僕がいま暗殺しようとしている魔国王を守る魔道使いになるはずだった。

「僕はどうやら守るのが苦手らしいからね」

 潜入して目標を処理する方が合っている。
 たしかに守りが主体の父さんとは正反対だ。

 親子なのに、どうしてこう違うのだろうか。不思議だ。

「なるほどのう。……して、インビジブル・ナイフよ。儂が怖くないのか?」
 バシリスクはそう問うてきた。


+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ