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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第6章 大転移-竜魔編

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 僕は、チェスターの喉笛を斬り裂いた。
 その感触はまだ手に残っている。

 魔道が解除されなかったのか、チェスターはそのまま進み、木にぶつかってから落下した。
 死んだか、致命傷を負っていると思う。

 良かった。僕は安堵した。
 戦闘もできる魔道使いはとにかく戦いにくい。

 今回だって、勝てたと言っても罠にはめてギリギリだった。

「残りはバシリスクと光を出す魔道使い……」

 他にいるかもしれないが、僕がいま確認できているのはその二人。

「……っと!」

 下から矢が飛んできた。声もする。
 僕がチェスターと戦ったことで、居場所がバレたらしい。

「長槍を捨てるか」

 目立つ長槍を手元に置いているのがいけなかったのか。
 三本ほど長槍を掴んで『闇刀』で魔国王のいる天幕の上空から落とす。
 それを二回繰り返したあと、僕は闇に溶けた。結果は確認していない。

 闇に溶けたまま、木の下までいくと兵が集まって、上空にたいまつを掲げている。
 まだまだ集まりそうなので、急いでその場を離れる。

 チェスターがやられたことで、野営地が騒がしくなった。
 すでに起きていた者だけでなく、全ての兵士が起きて武装しはじめた。

「天幕も畳みはじめているな」

 まだ深夜だというのに、完全な戦闘態勢をとっている。
 王が狙われたのだから、最大限の警戒網を敷いているのかもしれない。

「ここからは近づくのも苦労しそうだ」

 兵が整列しはじめた。点呼を取っている。
 点呼が終わった者から周囲に散っているが、どうしたんだ?

 しばらく様子を見ていたら、状況が分かった。
「ああ……陣を作ったのか」

 魔国王を中心にいくつかの円を作り、多くの兵を配置している。これは円形防御陣だ。
 外周には大盾を構えた大型の兵士が揃っている。

 中の方は軽装な兵士たちが多いが、その分手練れを揃えているのだろう。
十重二十重とえはたえに守られるとは、こういうことを言うんだろうな」

 これはヤバい。呑気に見ていなければ良かった。
 魔国王は天幕から出て、全体の指揮を執る位置にいる。

「ここからだと、四百メートルくらいか。ちょうどいい大木がもっと近くにあればいいんだけど……」

 僕は陣から離れた木の上にいる。ここからだと何をするにも遠い。
 あまり近いと、気づかれたときに逃げられないのだが、離れた場所からだと、ちょっと攻め手が思いつかない。

「試しにやってみるか」

『闇刀』で魔国王の頭上からガラス片を投擲する。

 距離があるため、狙いは正確ではない。
 バシリスクがいるので、ゆっくりと狙いを付けていられないのも大きい。

 ガラス片は近くの護衛の足下に落ちた。当たらなかった。
 見たところ、バシリスクは動いていない。当たらないと確信していたのかもしれない。

「失敗したな。天幕に入ったままだったら、外から『闇鉤爪』で一掃したんだけど」

 それでも成功確率は半々くらい。
 天幕の外からだと、『闇鉤爪』は当たらないか、避けられるか、防がれる可能性があった。

 今では近づくことすら敵わなくなってしまった。

「できればシャラザードを関与させたくないんだけどな」

 一部だけでも石化されたら大変だ。
 父さんからバシリスクの魔眼は、月魔獣程度ならば一度に石化できるくらいの能力はあると聞いている。

 シャラザードの身体で、半分でも石化されたら大変なことになる。
 また、どの程度の距離が安全か分からない。

「できれば千メートルくらい離れた方が安全だな」

 と、父さんからとんでもないことを言われている。
 まさかそこまでとは思うが、大陸最強の魔道使いは、常識では量れないのだ。

「このままじゃ僕の力だけであの囲みを突破できないし、シャラザードの力を借りるか」

 悔しいけれど、しょうがない。
 僕は闇に溶けた。




「シャラザード、聞いてくれ」
『主よ、戻ったようだな。終わったのか?』

「いや、撤退してきた。そこで相談がある。怪我しているところ悪いけど、少し手伝ってくれないか」
『ふむ。我は問題ないぞ。そのかわり、あとで月魔獣狩りに行かせてくれるのだろうな』

「おまえ、つい最近、支配種と戦っただろ」
『うむ』
「うむじゃねーよ! 怪我しているんだぞ。まだ戦うつもりかよ!」

『なあに、別腹じゃ』
「別腹の使い方を間違っているよ!」

 静かに傷を治していると思っていたら、まだそんなことを考えているのか。

『……で、我は何を手伝えばいいのだ?』
「そうだな……説明する。来てくれ」

 僕はシャラザードに乗って、夜空に舞い上がった。

 シャラザードに手伝ってもらうにあたって、注意するのは二つ。

 ひとつはもちろん敵に姿を見せないこと。あくまでも暗殺が主目的であるから、必要以上にシャラザードの力は使わない。

 もうひとつは、どんなことがあっても、野営地からシャラザードを一キロメートル以上離すこと。
 この巨体だ。近づいたら目立ってしまう。バシリスクに石化をかけられたくはない。

 幸い、敵の野営地は襲撃を警戒して山の近くにある。

 山は木が密集して人が容易に上れるような感じではない。まして、灯りひとつ無い真夜中で登山はできそうにない。

 短時間でシャラザードのもとに敵がやってくるのは不可能だろう。
 チェスターを排除しておいてよかった。

「シャラザード、あの山の頂上に下りるぞ」
『あい分かった』

 敵野営地のやや前方に、高い山がある。
 しかも頂上付近は樹木も生えていない。ゴロゴロとした岩が数多く転がっている。
 麓は崖になっていて、人が上るのは不可能。

「だいたい頂上から野営地まで千メートルくらいかな」

 山の高さがかなりあるため、距離は近いように見えるが、実際にはそのくらいありそうだ。

『我はここで何をすればいいのだ?』
「あの光が集まっている場所があるだろ?」
『うむ』

 ここからだと野営地が一望できる。
 丸い円陣を組んでいるのが、たいまつのあかりでよく見える。

「あそこに、ここにある石を拾って投げ込んでもらいたいんだ」

 僕が考えた作戦はこう。
 シャラザードに山頂から石や岩をどんどん投げ込んでもらうだけ。

 手で投げてもいいし、尾で払ってもいい。
 飛んだ石は放物線を描いて野営地に落下する。

 下は大混乱になるだろう。
 僕はその隙を狙う。

『また訳の分からんことを考えるな。主はその中に向かうのか?』

「僕にだって石が飛んでくると思うけど、がんばって避けるよ。あの陣形を壊して、兵士たちを慌てさせたいんだ」

『……ふむ。分かった。やってみよう』
「頼むよ。……じゃ、僕は下に行っているからね」

 闇夜に煌々と照らされる灯り。
 それを目がけて、シャラザードが石を投げる。

 距離は直線にして千メートルくらい。
 数百メートルもあるシャラザードの巨体からすれば、それほど力を込めなくても届く距離だ。

 僕は闇に潜ったまま、野営地に急いだ。

 僕が到着する前に、シャラザードの投石が始まった。


最近ずっとマイページが重いので、投稿画面(5ページ目)に直リンしていました。
500話を越えて6ページ目に入ったので、リンクを入れ替え……もうそんなになるんですね。

あと5日で拙作の書籍版が発売されます。何卒、よろしくお願いします。
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