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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第6章 大転移-竜魔編

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 魔国王の移動先は、中のものをすべて移動させた天幕だった。
 すでに天幕の周辺は、一般の兵たちによって守られている。

 その他にも、多くの兵が僕を探して徘徊している。
 一方僕はと言うと、闇に溶けた状態で、木の上にいる。

 かなり高い位置なので、火を掲げても見つからないと思う。

 いまから決着をつけたい。
 ただ、これだけ厳重だと天幕に近づくことさえ難しい。
 なので、出てきてもらおう。

 僕は投擲用の細いナイフを取り出し、『闇刀』で天幕の上部に切り込みを入れた。

 開けるのは、ナイフが通過できるだけでいい。
 小指の長さくらいだろうか。切り込みをそっと入れた。

「これでいい」

 僕は『闇刀』を発動させたまま、切り込み目がけてナイフを投擲した。
 ナイフは音も無く、天幕の中に消えていった。

 敵は驚いただろう。
 天幕を突き破ってナイフが飛んできたのだから。

 すぐに中が慌ただしくなり、数人の護衛と、ひとりの魔道使いが出てきた。
 魔道使いはチェスターだった。

 チェスターは『極位きょくい』と呼ばれ、あらゆる方向に人や物を落下させる魔道を使う。
 バシリスク同様、姿を見られると危険な相手だ。

 中にどれだけの魔道使いがいるか分からないが、ここでチェスターが出てきたのは都合が良い。
 なぜこんな大物が出てきたのか。
 被害ばかりが増えて、一向に僕の姿すら見つけられないことに焦れたのだろう。

「西の都での借りを返すか」

 あのときは、いいように僕を弄んでくれた。
 今日こそ殺す。

 漆黒に塗ったナイフを投擲する。
 チェスターの後ろから投げたが、ナイフはあらぬ方向へ落ちていった。
 それではじめて、チェスターはナイフの存在に気づいたようだ。

「……さすがに対処されるか」

 父さんからの情報は古い。
 以前は対象を指定していたらしいが、僕がいま見た感じだと、一定範囲ならば自動的に向きを変えられる魔道を使っている。

 先ほどの礫もそうだけど、チェスターの『極位』は、かなり柔軟な使い方が可能になっている。

(……礫も、すべて視認していたわけじゃないだろうしな。ひとつを指定して、似たものをすべて対象にしたんじゃないかな)

 熟練の魔道使いは、自分の魔道を鍛錬によってより精密に、より使いやすくさせる。
 チェスターはまさにそんな感じに魔道を進化させている。

「遠距離からの攻撃ではチェスターに届かないな」

 チェスターが出てきたのは、僕を視界に入れさえすれば好きな方向に飛ばせるからだろう。
 いまも、闇の中を見通すようにあちこちに注意を払っている。

 反対に僕は出て行ったら負けである。
 姿を見られた瞬間、チェスターの魔道に掴まってしまう。

 ではどうすればいいか。
 背後から『闇刀』を使えばいいのだが、もの凄く嫌な予感がする。

「……天幕の入口が開いているんだよなぁ」

 チェスターの背中を狙うには、天幕の入口周辺から腕を出さなければならない。
 敵にはバシリスクの魔眼がある。そしてバシリスクは天幕の中にいる。
 なんか誘われている気がする。

 かといって、チェスターの目の届くところからの攻撃は意味がないだろう。
 序列三位までは化け物だと父さんは言っていた。

 チェスターは序列第二位。
 足を狙って腕を出しても、腕ごと斬られる未来しか見えない。

 そもそも背中への攻撃が有効かすらも分からない。
 背中は無防備だが、これは誘いに乗らない方がいい。

「だけど、天幕から出てきたこの好機を逃したくない」

『闇刀』と『闇纏やみまとい』を合わせれば、不可視の斬撃が可能となる。
 チェスターといえども、それは躱せまい。
 だが実際には、複数の魔道が使えないので、それは無理だ。

 すでに礫はすべて使用してしまった。
 投擲用のナイフも残り二本。
 あと持ち込んだものと言えば……ガラス片。

 父さんが不可視の盾を使うことから、目に見えない攻撃法法が無いかと考えたときに練習したものだ。
 バシリスク用に小さい物から大きな物まで複数持ってきておいた。
 チェスターはこれを使って倒す。

 まず、ここの野営地にある長槍を持ってくる。
 長槍は武器庫や、そこら中に立てかけてあるので、いくらでも手に入る。

 問題は攻撃法法だが、チェスターの周りには、自分を守るための魔道が常時展開されている。

 ナイフを投擲しようが、上から小石や大岩を落とそうが、チェスターの身体に届く前に向きを曲げられてしまう。

 ならば、自分で槍の柄を持っていればいい。

 チェスターの頭上に『闇刀』を開き、強く握り込んだ槍で突き刺す。
 音を立てず、さらに予兆すらなかったにもかかわらず、チェスターはそれに対応した。

 槍の穂先を剣で弾き、手首を返して柄を切断した。
 一瞬の早業である。

(なるほど、父さんが化け物というわけだ。一流の剣士のような動きだな)
 いまのを見て分かった。
 剣技だけでも勝てそうにない。そんな相手だ。

 切られた槍を捨てて、別のものを使う。

「その手はもう喰わんぞ」
 チェスターの声が聞こえた。隠れている僕に向けたものだ。

 もちろん答えるつもりはない。
 二本目の槍を足下に出す。それもすぐに柄を切られた。
 続けて三本目……四本目と出していくうちに、埒があかないと考えたのか、チェスターが空中に逃れた。

 高所から僕を探すためだ。
 僕はチェスターが見えているが、チェスターからは僕が見えていない。
 ではどこにいるのか。そう考えて空中に上がったのだろう。

 落ちる方向をコロコロ変えて、自由に空中移動しているように見える。
 かなり訓練したのだろう、なめらかに空中移動している。

「そこか!」

 大木の枝に隠れていた僕をチェスターが見つけた。
 というよりも、集めた槍が見つかったのだろう。

 長槍を完全に隠せるとは思っていなかった。
 木の上に槍があるのは明らかにおかしい。それで感づいたのだと思う。

 僕は『闇刀』でチェスターを狙っていたわけで、その間は闇に溶けるわけにはいかなかった。

 チェスターがやってくる。
 木の枝と葉に隠れて見えない僕を探しにだ。

 僕が槍を構えたところでチェスターがやってきた。見つかった。
 すぐに僕を魔道でどこかに落下させようとしたいだろうが、できない。

 なぜならば、同時に複数の魔道は使えないからだ。

 僕が『闇刀』と『闇纏い』を使えないように、チェスターは自分を移動させている間は僕に魔道をかけることができない。

 自身を左に、僕を右に落下させるなどという芸当は不可能なのだ。
「同時に複数のものに魔道をかけることはできるんだけどね」

 つまりいま、チェスターは魔道なしで僕と戦わなければならない。
 それでも強敵だ。彼の剣の腕は超一流。

 だけどいまは夜。
 夜の闇は僕の領域だ。

 なにしろ僕は木の上で、いまは魔道を使ってないのだから。
 槍を構えた僕に、チェスターは殺気を放つ。

 僕に向かって落下をはじめた。すれ違いざまに斬るつもりだ。
 そのくらいは確実にできる技量を持っている。だが……。

 ――シャッ!

 チェスターは見えていただろうか。
 おそらくは見えていないに違いない。

 片手で僕は槍を構えていた。残りの手にはガラス片が握られていた。
 薄くて透明なガラス片は、手のひらくらいの大きさ。
 闇夜で見えなかったに違いない。

 そして僕は『闇刀』を発動していた。
 僕の手の前に。

 僕がチェスターに何かを投擲したら、たとえ見えなくても避けるか、弾かれただろう。
 そのくらいの技量はある。

 だけどいま、チェスターは僕に向かって自身に魔道をかけている最中であり、視線は僕が持つ槍に注がれている。
 すぐにすれ違う距離にいて、チェスターは攻撃する気満々だった。

 手に透明なガラス片が握られているとは思ってないだろうし、ましてはそれを『闇刀』で展開した場所へ投擲したとも思わなかっただろう。

 回転して飛んだガラス片は、チェスターの首もとに出現し、のど笛を一気に切り裂いた。

 鮮血が吹き上がり、脈動するたびに噴水ののように血潮があふれ出す。

「……っ!?」

 驚愕の表情を張り付けたままチェスターは僕とすれ違った。
 そして闇夜の中を一直線に飛んでいく。

 しばらくして、木に当たって地上に落下する音が聞こえてきた。

「…………ふう」

 僕は大きく息を吐き出した。



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