挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第6章 大転移-竜魔編

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

500/660

499

 天幕の入口に立たせた兵士の死体が一瞬のうちに石に変わる。

 バシリスクの魔眼を警戒して、身代わりに死体を立たせたが、案の定、薄明かりでも十分石化させることができることが分かった。

「顔の判別ができない暗さだったけど……まあそれは想定済み」

 視線だけで人や物を石に変える魔眼はたしかに脅威だが、問題の本質は別にある。

「体術は父さん以上なんだよな」

 魔道使いを倒すには、それが発動できないときを狙えばよい。
 バシリスクならば、真っ暗闇の中とかだ。
 だが、父さんが言うには、その程度のことはすでに対策を取っているという。

 試したらやっぱり駄目でした。
 だから石化されちゃいましたでは目も当てられない。

 発動できないタイミングを狙うというのは諦めた方が良さそうだ。
 できれば、気づかれないうちに倒したい。
 だがバシリスク相手では、それができない。

「いいか、アレを仕留めようと思うな。出会ったら逃げておけ」

 口を酸っぱくするほど言われた父さんの言葉。

 倒せる相手には全力で向かい、無理ならば逃げて情報を持ち帰る。
 それが僕が父さんから教えてもらった〈影〉の生き方だった。

 それからすると、バシリスクは戦ってはいけない種類の相手となる。
「それでもやらない訳にはいかないんだよな」

 攻略の糸口はいまだ見つかっていない。
 つまり、父さんの言いつけを守るならば、まだ(・・)戦ってはならない相手を攻略しなければならないのだ。

「僕の場合、泥臭くあがいて勝ちをもぎ取るしかないよな」

 魔道でも体術でも僕の方が劣っている。
 全力で向かっても勝てない相手に、出し惜しみしても意味はない。

 再戦したときの戦い方はいろいろ考えておいた。
 状況に応じて二十以上の策を考えてある。

 どれだけ効果があるか分からないが、受けに回ったら負けのような気がする。
 ここからずっと僕が攻め続ける。



 天幕を一周し、縫い付けてあるロープを全て切った。
 それだけでは天幕が地に落ちることはない。中で丈夫な柱が支えている。

「だけど、耐えられるかな?」

 ロープを切断され、今まで膨らんでいた天幕が急にしぼんだ。
 大勢が中にいる状況で、視界は極めて悪くなったはずだ。

 しかも、天幕の中はかがり火が多めに設置してあった。バシリスクが魔道をつかやすくしてあるのだろう。
 周囲のロープを全て切ったことで、大変なことになる。

 護衛の動きが制限され、中では火事の危険性も増した。
 逃げ出てくるか、中でじっとしているか。それとも……。

「おっ!?」

 天幕が上に引っ張られていく。それはあたかも、天幕の布が空に落下(・・)しているよう。
「この魔道……チェスターか」

 父さんが教えてくれた、魔国王を守る者たちの情報。
 チェスターは魔国十三階梯第三位。

 上下左右好きな方向へ物体を落下・・させることができる。
 あれを喰らったことがあるから分かる。

 一度やられると挽回が難しい魔道だ。

「父さんに十三階梯の情報を教えてもらっておいて良かった」

 チェスターが天幕の中にいる可能性も考えていた。
 だから対策はしてある。

 切ったロープの先は、周辺にあるかがり火の台座に結びつけてある。
 天幕が上昇すれば、おのずとロープも引っ張られ……。

 この周辺は、夜襲でも被害を受けていなかった。かがり火はそのままだ。
 かがり火の台座がひっくり返り、赤々と燃える薪が何十本と空に舞った。

「消せ!」
「火事になるぞ」

 荷物の上に落ちた薪に、護衛たちが慌てる。
 それもそのはず。一度天幕を燃やされているのだから過敏にもなる。
 しかもここは臨時の天幕で、もともとは荷物が置かれていた場所。

 燃えそうなものがいっぱい積んであるのだ。

 僕は闇に溶けたまま、やってきた兵たちの間に進む。
 兵の会話が耳に入る。

「おい、あの天幕……」
「飛んでいるな」

「チェスター様がやったのか? それと、なぜたいまつがあんなに散乱しているんだ?」
「荷物から火が上がっているけど?」

 不安そうな声が聞こえてきたが、だれも近寄ろうとしない。
 そう言いくるめられているのだ。だから僕は、代わりに声を出した。

「おい、すぐに火を消せ!」と。

「だけど、近寄るなって」
「そういう命令だったよな」

「緊急事態だ。陛下を焼け死なすつもりか!」
 そう叫んでみたが、まだ躊躇している。

「責任は私が取る。全員、消火活動に専念。陛下をお助けせよ!」

 だめ押しとばかりにそう叫ぶと、何人かが駆けだした。
 周囲の兵もそれに続く。

 夜空に浮かんだ天幕は兵の注目を集めたようで、周辺には百名を越える兵士が集まっていた。

 火を消そうとする兵士の数が十人、二十人と増えていく。
 最初護衛たちは兵士を戻そうと声を上げたが、そうなってはもう収拾がつかない。

 消火作業を兵士に任せて、護衛は周辺の警戒に切り替えた。

 天幕の中にいたのは三十人ほど。
 最初より大分増えている。

 魔国王の姿は見えないが、護衛がうまく隠しているのだろう。

「えーっと、魔道使いたちは……あの辺か」

 兵士が入り乱れる中、一般兵や将校と違う姿の者たちを見つけた。
 懐から投擲用のナイフを取り出し、同時に『闇刀』を発動させる。

 魔道使い目がけて、そっとナイフを投げた。
 漆黒のナイフは音も無く飛び、消火作業をしている兵士たちの間を縫って進む。

 誰も視認できていないはず……そう思ったが、魔道使いに当たる直前、どこからともなく現れた老人によって防がれた。

 キィンという甲高い音で、周辺の兵士が初めて気づく。

「どこにいたの分からなかったけど、あれがバシリスクか」

 姿は僕がいま来ている〈影〉の黒衣と似ている。
 色はバシリスクの方が白っぽく、僕と違って顔を出している。

 ずっと気配を消して潜んでいたのだろう。
 僕が投擲した漆黒のナイフを防いだのは、さすがバシリスクといったところだ。だけど……。

「……ぐはっ!」

 僕は魔道使いの真後ろに『闇刀』を展開していた。
 つまり、敵の正面と後方から、同時に攻撃したのである。

 ナイフをバシリスクに弾かれたのは予想外だったが、二カ所同時に守ることはできなかったようだ。

「念の為……」

 小刀を引き抜く前に一捻りして、傷口を広げる。
 すると口から大量に血を吐き出し、魔道使いはくずおれた。

「マバリアッ!」

 そんな声が聞こえた。

+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ