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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第1章 魔国蠢動編

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 気配を消して、なるべく人の流れに逆らわないように歩く。

 入れ替えの間にトイレに向かう人の流れができたので、それにくっつくように講堂の外へ出た。

「さて、どうしようか。このまま帰るのはマズイよな」
 出入り口は一箇所しかない。

 ということは、どこかで時間を潰さねばならないのだが、王立学校の敷地内で時間を潰すといえば……。

 僕は以前リンダと出会った屋上のテラスへ急いだ。



「そうしたら、どうしてこうなるかね」

 階段に向かったところで、二名の同級生とばったり出会ってしまった。
 彼らもまた、顔合わせ会から逃げ出してきたのだ。

「レオンくんはどこへ?」
「ここの屋上にテラスがあるんだ。そこで時間まで休憩をしようと思ってね」

「そうなんだ。知らなかった。……僕たちも一緒に行っていいかな」
 ひとりでいる方が好きだが、ここで断るのも大人げない。

「いいよ。この上で休憩するだけなんだけど」
 とくに決めてないらしいので、僕はふたりを引き連れて屋上にあがった。

 僕に付いてきたのは、バラン・ホーランとスニ・イーブル。

 バランは王都出身で、知り合いの商人がパトロンになることがすでに決まっている。
 この顔合わせ会に出席する意味はほとんどないと言っていい。

 もうひとりのスニだが。
「卒業後は実家の町に戻って、貴族の家に嫁ぐことが決まっているの」
 スニは、伏し目がちにそう言った。

「そうか。もう結婚が決まっているんだな」
「小さな町だから」

 竜紋が出たという噂は町中に広がったのだろう。
 学院に行く前に結婚の話がトントン拍子に決まったという。

 竜紋が現れた者に勝手な接触をしないよう、領主から厳しい通達が出ている。
 学院に通う前の竜操者の意思を尊重するためである。

 だが、最低限のことを学ぶためにも、領主の館へは通う必要がある。
 そのときにたまたま出会い、ロマンスが芽生えても、それは自然の流れだろう。……たぶん。

 バランとスニにはもうパトロン候補がいる。
 一方僕はまだ決まってないし、探そうともしていない。

 顔合わせ会から抜けてはいけない人間のはずだ。
 リンダの言葉を免罪符に、逃げただけだ。

 三人で屋上にあがった。
 そこは開放感あふれる空間だった。

「だれもいないのね」
 スニがほっとした声を出す。

「たしか、他の生徒は授業中のはずだよ。毎年覗きにくる生徒が多くてそうなったとか」

 なるほど。さすが王都出身、詳しいな。
 今日は休みではないので、授業があってもおかしくない。

「ここでゆっくりしようか」
 たまにはクラスメイトどうしの親睦を深めるのもいいかもしれない。

 椅子に座り、学院のことや竜紋、竜操者について思っていたことを話す。
 アークと違って、一般的なこと以外の知識をみな持ちあわせていないので、疑問が出るとそこで話が堂々巡りする。

 それもまた同級生の他愛もない話なのだろう。こういう時間もいいものだ。
 まったく関係ない話で過ごしたが、そんな時間も予期せぬ来訪者によって破られた。

「ご一緒してよろしいかしら」
「……どうぞ」
 女生徒がやってきた。

 講堂の参加者だろうと思って相席を同意したが、バランの様子が変だ。

「みなさんは講堂にはいかれないのですか?」

 落ち着いた声で尋ねてくる。上品な感じの女性だ。僕より年上っぽい。
 これで男性と女性ふたりずつかなどと思っていると、バランが少し困った顔をした。

「失礼ですが、今回の顔合わせ会の参加者ではないですよね」
「あら、どうしてそう思うのかしら」

 僕もそう思った。
 てっきりそうだと思っていたのだが、違うのか?

「僕は王都出身ですので」
「………………」

 なんだろう。
 バランが含みのある言い方をしたが、何があるのか?

「ロザーナ嬢ですよね」
 バランの追求に、彼女は白旗をあげた。

「そうよ。まさか私の顔を知っている人がいるとは思わなかったわ」

「どういうこと? ここの生徒じゃないのか?」
 セキュリティはかなりしっかりしているはずだけど。

「ここの三年生よ。いろいろあって謹慎中だけど」

 先ほどの穏やかそうな声音こわねとは違っている。
 こちらが地だろうか。

「謹慎中……」
 どういうことかと、視線がバランに集中した。

「年末に行われた最後の顔合わせ会でね、彼女はひどい醜態しゅうたいをさらして、学校側から謹慎を言い渡されたんだ。この醜聞は王都の耳ざとい人なら誰でも知っている」

 バランの言葉に、ロザーナはぺろっと舌を出した。
 どうやら、本人はかなり活発な性格らしい。

「まあ、バレちゃったんならしょうがないわね。ロザーナ・ヘディンよ。親は北部の小さな町の領主で、一応貴族になるんだけど、町は竜紋限界から外れているので、人の数は少ないわね」

 後頭部をポリポリと掻いたロザーナは、自然体だ。
 無断侵入者ではなかったが、授業は抜けだしているようだ。

「謹慎中なのに、授業を抜け出したらマズイんじゃないですか?」
「マズイわね。たぶん、謹慎期間が延ばされるわ」

 悪びれずにロザーナは続ける。

「謹慎中だから入学式の茶話会に参加できなかったのよ、この顔合わせ会もね。でも、謹慎が明けたらみんなと同じかしら」
「というと?」

「私が話しかけたら、周囲が寄ってたかって私の悪口を言うでしょうね。あの時の醜聞を引っ張り出して、ここぞと貶める姿が目に浮かぶわ」

 なるほど。一度やらかしてしまうと、世間の目は冷たいわけか。
 こうなってくると、ロザーナがなにをやらかしたのか、興味が湧いた。

「バランは知っているようだけど、何があったんだ?」
「聞きたいの?」

「そうですね。ぜひ」

「別に隠すことでもないし、隠せるとも思ってないからいいけど。……十二月の顔合わせ会のときに、私が狙っていた人がいてね。もうずっとその人一筋で、アタックし続けていたのよ」
 ロザーナは遠い目をして語り出した。

「いい雰囲気になったこともあったし、竜操者になったら、私の町に来てくれてもいいって言ってくれたわ。だけどね、あの日あの人は、別の女と親しげにしていたのよ。それはもう、仲睦まじく……私はどうなったの? あの時の約束は? 気がついたら、その女に詰め寄っていたわ。そしたらその女も女で、一歩も引かないじゃない。言い合いがエスカレートして、そのうち取っ組み合いになったのよ」

 ちょっと待て!
 取っ組み合い?
 何やったんだ、このひと。

「髪を引っ張られたことが最初かしら。それでやり返したら、またやり返されて。今度は髪だけじゃなく、爪で引っ掻いて、制服のリボンを毟って、頬をひっぱたいたところで取り押さえられたのだけど、収まりがつかないでしょ? 近くにあったコップやら皿やらを投げあって、だれかの額に皿が当たって血が出たわね。今度は大勢で取り押さえられて別室に連れていかれたんだけど、そのときはもうひどい有様だったって言われたわ」

 会場は大混乱。
 けが人が多数でてしまったことで、会は中止。

 それだけでも大騒動であるのに、ロザーナは控室でも大暴れしたらしい。

 よほど悔しかったのか、控室で血の涙を流したと噂が広がり、『血涙魔女けつるいまじょ』というありがたくもないふたつ名を頂戴したとか。

 ちなみに魔女というのは、実際に魔道を使えるわけではなく、人とは違う考え方、行動をした人につける蔑称である。

「私も若かったのね」
 フッと疲れた表情を見せるロザーナだが、事を起こしてからまだ半年である。

「それで私は学校長に呼び出されたわけ……」

 ロザーナの話は続く。

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