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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第1章 魔国蠢動編

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 この大陸には、竜国りゅうこく魔国まこく商国しょうこく技国ぎこくという、四つの国がある。

 竜を使役する者たちがいるのが竜国。

 僕は生まれた時から竜国で暮らしているが、父はもともと魔国の人間だったらしい。
 父がいまの僕と同じくらいの年齢の頃、竜国に来たとか。

 この国を治めているのは、サヴァーヌ女王。
 正式な名前は、サヴァーヌ・ルクストラ。

 正当なるルクストラ王家の嫡流ちゃくりゅうで、竜を使役する竜操者りゅうそうしゃでもある。
 使役する竜の名前は、『白姫しろひめ』。
 国民のだれもがその名を知っている。

 白姫は細身で真っ白な竜らしいが、僕は見たことがない。
 いつもは城内にある白姫専用の竜舎りゅうしゃにいて、首都の民はときどき大空を飛ぶ白姫の姿が拝めるという。

 竜の運動不足解消らしく、何をするでもなく、王都周辺をぐるっと飛翔するのだとか。
 そんな空の散歩にも、護衛に二百騎の飛竜が付き従うというのだから、壮観だろう。

 二百騎の飛竜って、町ひとつ落とせる規模だよな。

 サヴァーヌ女王には、〈影〉と呼ばれる裏方専門の集団がいる。
 名前から分かる通り、その存在は一般に知られていない。

〈影〉は、情報収集、噂の拡散、証拠の入手、暗殺すら実行する。
 歴史は裏で作られるというやつだ。

 その〈影〉の中でも、戦闘を得意とするのが〈右手〉。
 一度王都の〈右手〉とやりあったけど、死を覚悟した。

 と言いつつ、その〈右手〉に僕も所属している。
 ソールの町専属の〈右手〉だ。

 王都でやりあった〈右手〉たちとは、遺恨はないと思う。
 お互い、不幸な行き違いが理由だったし。

 だけど、もう二度と御免だと思えるくらいには、手強かった。

 ちなみにクリスタン義兄さんは、移動・伝達を得意とする〈右足〉に所属している。
 僕に指令を届けるのも〈右足〉の役目だ。

 女王陛下からの指令を普通の手紙で送ったらマズイからね。
 成功や失敗の報告なんかもそう。すべて〈右足〉が町から町へと運んでいく。

 だから僕ら〈右手〉からの報告は、すべて〈右足〉に任せればいい。
 こんな楽なことはない。

 他にも長期の潜入任務に付いている〈影〉もいる。〈右耳〉だ。
 長いのになると現地に何十年も潜入しっぱなしらしい。

 ほとんどの場合、他国に行っている。
 義兄さんは何度か会ったことがあるらしい。
 僕は一度も会うことはないだろう。

「彼らはね、むくわれることのない、そして終わらない任務に付いているんだよ」
 そんなことを言っていた。

〈右耳〉は噂を集めて、噂を流す。
〈影〉というより、市井に溶けこむただの人なんだと思っている。

 このように〈影〉には、得手不得手はあるものの、みな女王陛下のために、進んで裏の仕事を引き受けている。

 そして、つい先程もパン屋の息子が、ひとつの指令を全うしたばかりである。
 僕のことだけどね。いや……まだ、報告書が残っていたか。



「……だぁあああ、めんどい!」

 空がしらみ始めても、いまだ報告書はできあがってない。

「なんだ、寝てなかったのか」
 父さんが顔を出した。

 ハルイ・フェナードという。『ふっくらフェナード』の主人にして、僕の父親。
 いまは引退したが、『死神』と呼ばれる女王陛下の元暗殺者だったりする。

 父さんは僕の先任で、このソールの町の元〈右手〉。

 三年前に引退して、跡目を僕に譲ってからは、のんべんだらりと暮らしている。
 活き活きとパンを焼くその生き様は、僕の理想である。

「あれ? 父さん、もう起きたの?」
「もうって……仕込みの時間だぞ」

「マジ? ……まだ半分も書けてないってのにっ!」

「お前は身体より先に、頭を鍛えるべきだったな。脳筋はツライぞ」
「そう教育されてきたので、もう遅いよ」

「……まあいい、急ぎだろ。仕込みは僕がやっておくから、お前はそっちを先に仕上げとけ」
「ええー!? そっちがいいよ」

「今回がこの町で最後の指令だろ。報告書くらい完璧に仕上げてみろ」
「……はい」

「その代わり、朝飯を食ったら焼きを手伝わせてやる。おまえは火の番な」
「それまでに終わらせておく……たぶん」

「書き損じても、自棄やけを起こすんじゃないぞ」
 父さんは笑いながら仕込みに向かった。

 父さんには脳筋と言われたが、そんなことはないと思う……思いたい。

 一応弁解しておくと、女王陛下から指令が来ることは、年に数回。
 他の〈影〉のヘルプもそのくらいある。

 一年は十二の月があるので、ひと月おきに〈影〉の活動がある感じか。

 僕が引き継いでからだと、これまであまり込み入った指令はなかったので、報告書も簡単に済んでしまった。

 今回みたいな十日間にも渡る任務の場合、何を書いて、どれを書かないで済ますのか判断がつかない。
 潜入は得意なんだけどな……やはり脳筋か?

 いや、それだけソールの町が平和である証拠なのだ。

「父さんが平和にしたんだもんな」

 表も裏の世界も、『ソールの町の大粛清』はいまだ記憶に新しい。
 父の名は出なくても、裏で何が起こったのか、知る者は多いだろう。

 多数の人が死に、それに数倍する人間が捕まった。
 この町が平和を享受きょうじゅできるのも、ある意味父さんのおかげとも言える。

 そんな父さんは、今日もパンを焼く。


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