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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第6章 大転移-竜魔編

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 野営地が騒がしくなった。遠くの方で「迎え撃て」や「竜国軍だ」などと聞こえてくる。
 味方が夜襲を仕掛けてきたのだろう。

 この月のない夜に、よくここにたどり着けたと思う。
「それだけ必死なのかもしれないけど」

 火事を恐れて野営地全体が暗い。
 これは襲撃側に有利に働きそうだ。

 剣戟の音がここまで届くが、魔国兵は僕への敵意を解くことはない。
 より一層厳しい目で、僕の周辺を囲っている。

「この暗さなら……」

 手のひらに隠した投げナイフを手首のスナップで投擲する。
 思った通り、黒く塗ったナイフを視認できなかったらしい。

 三度投げて、三度とも敵の喉元に吸い込まれた。
 投げ技は父さんに仕込まれ、何十万回と繰り返した技だ。
 面と向かって斬り合う以外ならば、どうとでもなる。

「……だけど、僕の目的は君らじゃないんだ」

 魔国軍は竜をどうにかしない限り、最終的な勝利を得られない。
 どんなに優勢だろうとも、竜の大量投入で、簡単に戦局をひっくり返されるからだ。

「だったら僕は、それを狙おう」

 敵が竜と竜操者のどちらを狙うか分からないが、魔道使いを使ってくることは明白だ。
 ただでさえ少ない同胞を減らされたくない。というよりも……。

「こんな玉砕覚悟の突撃で竜を死なせて欲しくないんだ」

 僕ら竜操者は、月魔獣の脅威から人々を守るためにいる。
 もちろん戦争から人々を守る事も大事だが、死に場所を求めにきたような奴らにどうにかされてほしくはない。

 剣戟の音はするものの、竜国兵がこちらに近づいてくる気配はない。
 まだ遠くで戦っているのか、魔国軍が善戦しているのか。

 僕は大木の陰に隠れて、そのまま闇に潜った。
 僕に『闇渡り』をさせてくれるらしい。まだ僕の詳しい情報は入ってないとみえる。

 闇に潜ったまま移動し、人のいない場所でもとに戻る。
「あれが魔道使いだな」

『闇刀』で魔道使いたちを倒していく。

 すぐに敵兵に見つかる。見つかったらまた闇に潜る。
 どこかで出現し、同じ事を繰り返す。

 かがり火の数がこれだけ減れば、移動できる範囲はかなり広がる。
「ついでに夜襲の様子を見ておこうか」

 激しく戦闘音がしている方へ向かう。
 あちこちで戦いの音が聞こえていることから、やってきた竜国軍の数が多いことがうかがえる。

 もし夜襲が魔国軍に読まれていたら襲撃が失敗したはずだ。
 この大規模な夜襲。もし失敗した場合、どうするつもりだったのだろうか。

 まあ、軍のことはよく分からないから考えても仕方ない。
 問題は魔国の出方だけど……。

「魔国軍の守りが堅硬だな。奇襲を受けたわりに、動揺していない」
 どこでも崩れず頑張っている。
 そのため、野営地の奥深くに竜国兵が入れずにいる。

 野営地はいま、かがり火が少ない。僕が壊して回ったからだ。
 火事を恐れて、魔国兵も消して回っていた。

 そのため、野営地全体が薄暗い。
 このことで襲撃した側が有利となっている。

 どのくらいの数がやってきたのか、魔国側はいまだ把握できていないだろう。
 何しろ、敵味方の判別もつかないくらい暗い場所も多い。

 野営地の後方にいる魔国兵に至っては、どこに竜国兵が現れたのかすら分かっていないに違いない。

「それなのに善戦しているって……魔国王がいるからか?」

 この暗い野営地では、数の少ない竜国側が味方の連携が得られずに孤立してしまうことがある。
 ただでさえ数の少ない竜国兵が孤立すれば、容易に狩られてしまう。

「……少し手伝うか」
 軍のことは軍に任せようと思ったが、手伝った方が僕の目的にも合致する。

 視線を走らせて、指示を出している士官を発見してはs、ナイフで処理していく。
 かがり火の数が絶対的に少ない現状、声を張り上げなければ部下に命令が伝えられない。

 ゆえに野営地のあちこちで命令を下す士官が存在している。
 それを僕が的確に処理していく。

 そのうちに数カ所から火の手があがった。
 竜国兵のだれかが天幕に火を付けたのだ。

 これで魔国兵は消火にかかりきりになる……その隙をついて脱出するつもりだろう。
 襲撃戦は最終局面に来たようだ。

「……普通なら敵の足を無くさせるため、馬を狙うんだけど」

 馬を殺さなくても、足を傷つけるだけでいい。それで追っ手の心配がなくなる。
 魔国軍も、その辺は分かっているようで、馬は野営地の奥深くにまとめているようだ。

 そのため、あちこちの天幕に火を付けて、兵の注意を逸らしたように思える。
 おそらく、竜国兵の撤退は近い。

 火の粉が舞い降りる中、赤々と照らし出される野営地内で、僕は目に付く士官を全員処理した。

「魔国王の考えを台無しにするには、兵の戦う意志をなくさせればいい」

 恐怖にかられたり、無力感に襲われたりすればいい。
 女王陛下はそれを、魔国王の死で表現しようとした。

 それは正解。魔国王が死ねば、ここにいる兵たちは目的を失い、みな失意の中で自国に帰ろうとする。

 だが、魔国王の側近や、士官たちは王の真意を知っている。
 この場合、王の遺志を継いで戦闘継続をするかもしれない。

 女王陛下はそこまで読んでいなかったかもしれない。
 ただ、王が死ねば軍は瓦解すると考えていたのかも。

「王を暗殺する前に兵の心を折るか」

 心を折るのは難しいがやれる。
 仲間が死に、士官も死ぬ。頼みの綱の魔道使いも死ねばどうだろう。
 戦争を継続する意志が激減するに違いない。

「……お誂え向きにやってきたな」

 今までとは違う連中が現れた。
 燃えさかる天幕、必死に消火している兵たちには目もくれず、僕だけを見ている。

 大地が炎に照らされて揺らめく中、灰色のローブを着た者たちは、僕に殺気を向けた。
 すぐに分かった彼らは対人もできる魔道使いだ。


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