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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第6章 大転移-竜魔編

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 僕が隠れているのは、シーツに覆われた荷物の中だ。
 この天幕は広い。野営地の中で一番広くて豪華ではなかろうか。

 昔ソールの町にやってきた、サーカス団の天幕くらいある。
 多くの荷物が押し込まれているが、それでもまだ三分の一ほど空いている。

 天幕の中にいるのは護衛を含めた二十名ほど。

 これから僕は、戦いを始める。
 孤軍奮闘だ。援軍はない。だから使えるものはなんでも使う。

 それとどうやってここから出るかだ。
 物理結界を壊したら、すぐにバレてしまう。

 フローリアという魔道使いは処理したが、魔国王の周りにはまだまだ勘の鋭い者がいるはず。

 闇から出たらすぐにバレてしまうだろう。
 かといって、魔道の重複使用はできない。『闇渡り』で隠れている間は、他の魔道がは使えないのだ。

 単に魔道が使えないだけだし、これならどうだ?

 腕だけ出して、積んであったわらに火打ち石で火を付ける。
 カチッと小さな音は会話している彼らの耳には届かなかったようだ。

 うっすらと煙があがったかなと思ったとき、会話がとまった。

「どうしたのだ?」
「いま一瞬だけ気配が……気のせいかもしれませんが」

「この結界の中でか? 先ほど何度も確認したであろう」
「そうですな。神経質になったのかもしれません」

 火を付けたあと、すぐに闇に潜ったが、そんな気配まで感づくのか。
 手だけでよかった。首から上を出したら一発だな。

 火が出てきた。
 同時に煙もあがりはじめたが、まだシーツにくるまれているので、外には漏れていない。

 パチパチと爆ぜる音がし始めると、彼らが異変に気づいたようだ。

「……見てきます」

 護衛だろう。聞かない声だ。
 気配がやってきて、木箱を開けたり、樽をもちあげたりしている。ここまではまだ遠い。

 奥までやってきて、シーツをはがした。
 すると、いままで燻っていた火が、勢いよく燃え上がる。

「うおっ!? なんで火が?」

 移動中の重量を軽くするため、何でもかんでも乾燥させて持ってきてあるから、何でもよく燃える。
 護衛の声に驚いて何人かがやってきた。

 すぐに火事に気づき、鎮火させようとする。
 だがここに水はない。

「おい、外から水をもらってこい」
「は、はいっ」

 若い護衛が慌てて出て行くが、物理結界に激しく頭をぶつけてひっくり返った。

「これでは外に出られません!」

「結界を解除……いや、どうすればいいでしょう、陛下?」

「消火は無理そうだな。結界を解除せよ」

 闇の中にいた僕にも、何かが消えたのが分かった。
 思ったより優秀な結界魔道の使い手のようだ。

 兵士が慌ただしく入ってくる中、僕は天幕を離れた。

 話を総合すると、魔国王の考えを理解しているのは上官のみ。
 士官たちが賛同していると言っていたが、一般の兵士には知らされていない。

 それでどうやって士気を保っているのか気になるが、カリスマに優れた将軍がいるのかもしれない。もしくは純粋に魔国王への信頼ゆえか。

「まあ、僕には関係ないけどね」
 もう天幕から出ることが出来る。

 危険な連中がいるところから離れて、陣地の端まで行く。

 かがり火が多く照らされていて、行動範囲がかなり制限される。だけど、それはもう大丈夫。なぜならば……。

「おっ、おい。どうしたんだこれは!?」

 フック付きの紐で次々とかがり火を倒して回る。
 そんなことをしても火は消えないが、地上にばらまかれた燃えさかる薪に、兵士たちの視線が集中する。

 いくつかは鎮火したし、天幕の近くに転がったものは鎮火させられた。
 二度も火事を起こされたせいか、火の散らばりに神経質になっているようだ。

 かがり火を十も転がすと、周囲がかなり暗くなった。
 これで姿を現せる。

 右往左往する兵士たちに、僕は『闇刀』を次々に発動させていく。

 突然かがり火が倒れたと思ったら、人が次々死んでいくのである。
 兵士たちはさぞかし驚いたことだろう。

「まだまだこんなもんじゃないよ」

 さらにかがり火を倒す。
 目に付いたものをもっと倒す。

 混乱と暗闇が野営地全体に広がった。

「ああ……彼らは見えてないのか」

 闇が増えた中を見通せる者は多くない。僕の姿を見つけられないのだ。
 敵の姿を求めて左右に目を走らせている。

 暗がりから暗がりへと移動する僕の姿を見る者はいない。
「……ここでいい」

 大木の上に飛び上がり、太い幹に身体を預ける。
 魔道『闇刀』で、目に付いた兵の喉を次々と斬り裂いていく。

 混乱がさらに広がった。
 剣を手にしたものの、どこにいるか分からない敵に隠れるように移動している。

「おかしいな。魔国軍は弱兵じゃないはずだけど」

 そう思ったが、すぐに気づいた。
 敵が見えないから怖いのだ。

 目の前にある脅威ならば、打ち破れよう。
 だが、どこにいるかも分からない。だれがやったかも分からない。

 そんな中で、ただ喉を斬り裂かれた同僚が次々とできあがる。それが怖いのだ。

 だがそれも、僕ひとりがもたらしたもの。
 死者の数は爆発的の多い訳ではない。

 ゆえに混乱は次第におさまる。

 三十人を斬ったところで落ち着きを取り戻し、四十人を超えると僕の姿を探し始めた。
 五十人を超えて……いや、数えるのがばからしくなってきたころ、誰かが僕の姿を発見した。

「あそこだ。木の上にいるぞ!」
 最初に叫んだ者の喉を斬り裂く。

 それでも次々に叫びは伝播していく。
「黒衣だ。黒衣の侵入者だ」
「だれか上がれ」

「いや無理だ。それよりも槍で突け」
「槍では届かない。矢を放て!」
「狙いを外すなよ」

 兵が慌ただしく動き、多くが弓矢を取りに天幕へ走った。
 その間にも、次々と彼らを斬る。

 僕の『闇刀』を避けた者は、これまでいない。
 それはつまり、振るった数だけ死が訪れたことになる。

「そろそろかな。そろそろだよな」

 矢が飛来してくる。
 狙いは正確だが、近づくのが怖いのか、遠くから射ってくる。
 そんな矢はちっとも怖くない。

 当たりそうなものだけ指弾ではじき、小刀で受ける。

「まだかな」

 飛んでくる矢の数が増えてきた。
 じりじりと待っていると、毛色の違う集団がやってきた。
 魔道使い兵である。

「ようやくか」

 僕は大木から飛び下りた。


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