挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第6章 大転移-竜魔編

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

495/660

494

 僕は怒っているようだ。
 魔国王の選択を聞いて、「ああ、そういうことか」と納得する自分がいる。

 というのも、人を殺す訓練を積んだ兵士たち。
 殺す側に立つのだから、殺される側になる覚悟はできているはず。

 もちろん僕だってそうだ。
 いつ敵に敗れて、屍を晒すか分からない。

 実際に食糧が足らなくなった場合、だれがそれを手にするか。
 王族、貴族、領主は当然だろう。

 他には、どんなに食糧が高騰しても購入できる商人……とくに大きな商いをしている商人たちは金に物を言わせて買いあされる。飢えることはない。

 彼らは市場にあってもなくても食糧を買い占めて、際限なく値段をつり上げようとすると思う。

 反対にどのような人たちが食糧を得られなくなるのか。
 それは社会的な弱者。

 人に雇われている者……なかでも高齢者、貧乏人、要領の悪い者などが食糧を手にすることができなくなる。彼らは簡単に淘汰されてしまう。
 一部の者が餓死し、翌年少しはマシになるだろうか。

 僕はそうは思わない。
 ずっと考えていたことだけど、最低限の食糧で賄える人数だけ世界から人が減るというのは幻想だ。

 きっと翌年も買い占めがおこる。
 商人だけでない。
 権力を持った者たちが買い占める。

 他国の食糧までどんな手段をもってしても買いだめするだろう。
 翌年不作だったら? そんな不安もある。だから買いあさる。

 もう十分過ぎるほど食糧を持っていてもだ。
 根本のところは「みんなが欲しがるからもっと欲しがる」のだと思う。
 持っているだけで価値があるなら、手放したくなくなる。

 みな理由をつけて確保に走るだろう。
 すると翌年も飢える。

 食糧を抱え込んだ者たちは、「ほれ見たことか」と更に買いだめに走る。
 悪循環だ。

 結局、食糧を供給可能な人数にまで減ったとしても、心得ない者たちがいるおかげで、弱者が淘汰されつづけると思う。

 社会的弱者が淘汰されても飢えたら?
 飢えは一般市民にまで広がったらどうなるだろうか。

 耐える? 耐えるはずがない。
 彼らは団結し、奪うだろう。

 ――商会を襲い、倉を襲う。

 兵が現れれば戦うだろう。生存競争だ。
 それが世界中で起こる。
 地獄絵図だ。

 そうならないようにするために、何が必要か。

 最初から食糧不足がおこらなければいい。

 そのためには、供給量を増やすか、人を減らすか。
 父さんは言っていた。魔国王は名君だと。

 魔国王は、冷静に計算したのだろう。何度も何度も。
 その上で、食糧の増産では餓死者を減らせないと気づいたのだと思う。

 僕だって、それほど他国に詳しいわけではない。
 けれど分かることもある。

「岩だらけ、砂だらけの場所で作物なんて育ちやしない」

 あんな場所を開墾なんて、やるだけ無駄だ。
 もちろん、「やってみなければ分からない」なんて言い出す人は出るだろう。

 それに乗せられて「やってみたけど、無理でした」となって、貴重な時間と働き手を無駄にできない。
 どの国も、岩だらけの荒れ地を穀倉地帯に変えようと動き出していないのは、当たり前の話だ。

 だから魔国王は選択したと思う。
 強い者が独占し、弱い者が餓死する世の中が数年後にやってくる。
 早ければ来年? 再来年?

 それを回避するために行動を起こしたに違いない。

 なるほどと思う。
 先も言ったように、殺す覚悟がある者は、殺される覚悟をしているものだ。
 世界中の兵士は、みなその覚悟がある。

 だけど、それは果たして許されることなのだろうか。
 結局人を選別していることには変わりない。

「……ああ、だから女王陛下は魔国王の暗殺を求めたのか」

 僕が見ても竜国の動きは変だった。
 やる気がないと感じることもあった。

 領土が欲しくない、面倒事を背負い込みたくないのだろうと勝手に解釈していたが、どちらかといえば、被害を少なくするよう、徹底的に戦いを避けていたフシがあった。
 魔国の思惑に乗りたくなかったんだな。

「今回動いたのは、魔国の本気を見たからだ。その本気っていうのは……」

 竜国の兵を減らすこと。同時に魔国の兵もだろう。
 だから女王陛下は戦争をする気になった。

 同時に、僕に暗殺の指令を出した。この元凶を殺して元を絶つ。
 つまりはそういうことだったのだ。

「盤面がごちゃごちゃしていたので、本質が見えてなかったけど、中身はかなりシンプルだったんだな」

 魔国が挑発して竜国が逃げていた。
 おかしな図式だったが、その実、互いに考えていたのは、兵の命。
 互いに考えていたのは、将来の事。

 それがかみ合っていなかったのだ。

「さて、僕はどうしようかな」

 少なくとも魔国は、士官レベルでこの話を知っていたらしい。
 そして賛同も得ていると。

 士官は自分たちが捨て石となって、次代を生かすつもりか。兵を巻き込んで。
 当然それには魔国王も入っているはずだ。

 士官が進めと言えば、兵は進む。
 この陣地にいる兵はみな竜国兵をひとりでも多く殺すためにここにいるのだ。

「ああ……そんなに死にたいのならば、殺してあげる」

 そのつもりでここまで来たのならば悔いはないはずだ。
 弱者を救いたいのは分かる。

 だけど、人を数でしか見ていないのは如何なものか。
 何人生き残って、何人死んだからまだ食糧が足らない……そんな風に考えるのだろう。

 ああ、嫌だ嫌だ。
 だったらそのもくろみごと、壊してしまいたい。
 滅茶苦茶にしてやる。



「さあ、戦争をはじめよう。僕と」


+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ