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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第6章 大転移-竜魔編

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 時おり強風が吹くが、それでかがり火の台が倒れたのは不審に思ったのだろう。
 兵士が周辺をくまなく捜索しはじめた。

 天幕はかなり頑丈に結わいつけてあったようで、燃えている部分を外そうと試みたものの、結局は水をかけて消し止めた。

 その間、天幕から出てきた者たちは周辺を守られてゆっくりと移動していく。
 予定外の騒動に準備ができていなかったらしく、小声で打ち合わせをはじめた。
 どこへ落ちつくか相談しているようだった。

「周辺に不審な者はいますか?」
「これだけ多いと分からないわ」

 そんな会話が僕の耳に飛び込んできた。

「……見つけた」

 僕はそっと呟いた。

 この声を聞くのは三回目だ。
 一回目は西の都で。
 二回目はさっき天幕の中から。

 集団の最後尾を歩く女性が、闇に溶けた僕を感知した魔道使いだ。間違いない。

 みな魔国王を守るため神経を尖らせている。
 だから僕は、あの魔道使いを簡単に狙うことができる。

 暗がりに姿を現し、移動する連中を視界におさめる。そしてタイミングを計る。
 魔道『闇刀』は、闇がつながってさえいれば問題なく発動する。

 野営地全体が明るいわけではない。暗がりはどこにでも存在している。
 だからチャンスを待つだけでいい。

 そうしてやってきたチャンスに僕は魔道を発動させた。

「……ぐはっ!」

 僕の小刀が、魔道使いの背中に音もなく突き刺さった。
 狙い違わず、心臓をひと突きだ。

「ん? おい、フローリア!」

 振り返った男は護衛だろう。
 胸から小刀を生やした魔道使いを支える。
 背中側を覗き込むが、もちろんだれもいない。

 僕は小刀をゆっくり引き抜くと、闇に溶けた。

「しっかりしろ、フローリア!」
 異変に気づいて周囲がざわめく。

 その間に僕は先回り(・・・)する。
 侵入がバレたが、僕を感知できる魔道使いが消えたのは大きい。

「賊がいるぞ! 近くだ! 探せ!」
 そんな声が聞こえてくるが、その間に僕は、一等立派な天幕に入った。

「えーっと、この中がいいかな」

 倉庫用の天幕に魔国王がいたが、王がいるべき立派な天幕は倉庫として使っていた。
 襲撃を警戒して入れ替えたわけだ。

 シーツがかぶせてある木箱の中に僕は潜り込む。
 このまま闇に潜っていれば、見つかることはないだろう。

 ほどなくして天幕の外から声が聞こえてきた。

「確かめてきます」

 ざぁっと感知魔道が地表を舐めたのが分かった。
 あれでは荷物の中にいても気づかれただろう。

 幸い、影に潜った僕を見つけることはできなかったようだ。
 ガタガタと荷物を確認したり、光が照射されたりしたが、木箱の中の影に隠れた僕には意味のないものだった。

「だれもいません。大丈夫のようです」

 そんな声が聞こえて、人が入ってきた。
 人数は二十人くらい。さっきより増えているのは護衛を増やしたからだろう。

「結界を張って参ります」
「感知結界の内側に物理結界を頼む」

「!? ……分かりました」

 やや戸惑ったような声が聞こえた。

 物理結界か。なかなか凶悪なものを張るな。
 だが、あれはそう簡単に張れるものではない。

 どうやら魔国の結界魔道は、竜国が考えているよりかなり進んでいるらしい。
 竜国に知られないよう、注意していたのだろう。

「結界を張り終えました」

 かなり時間が経ってから、そんな声が聞こえた。
「御苦労。だがこれで報告に来た者も入れなくなるな」
「一晩のみですし、だれかが外へ出向けばいいでしょう」

「……して、フローリアが狙われたのは?」

「前回、西の都に来た黒の者でしょう」
「竜国の〈影〉か」

「はい。フローリアは明らかに魔道を使って倒されています。あの魔道を使う者の名は『インビジブル・ナイフ』。二年前にスルーとダブルの兄を倒した者です」

 会話が進んでいるが……だれだ、インビジブル・ナイフって?
 僕のことか? だけど、いつそんな名前がついた?

 スルーとダブルの名には聞き覚えがある。
 竜国首都に潜入していた魔道使いたちだ。

 たしか、今回と同じ『闇刀』で倒したけど、なんでそのことを知られているんだ?
 それにいま、ダブルの兄って言っていたよな。ダブルは兄弟でダブルなのか?

 だとすると弟の方が生き残って、僕の魔道を伝えた可能性があるか。
 でもどこで見ていたんだろう。あのとき周辺に気配はなかったはずだけど。

「インビジブル・ナイフか。その名は報告にあった。竜国の若き魔道使いか」
 魔国王も知っているらしい。そんな有名になっているとは思わなかった。

「フローリアの『意識感知』は反応しなかったのか?」

 フローリアというのは、死んだ魔道使いだよな。『意識感知』か。つまり、僕の意識を読み取った? 一定範囲にいる人の意識を読み取るとか……そんな高度な魔道を使うのかな。

「あれは人の意識がどこにどれだけあるかを見るにすぎん。先の火事騒ぎでは、兵が入り乱れておった。特定の意識であれば遠くにいても探せるが、あの場では役に立たなかったであろう」

「ではそのことを知って小火騒ぎを?」
「そうかしれん。頭の回る者のようであるし、もしかするとこの天幕の中にいるやもしれん」
 ギクッ。

「先ほど複数種類の結界で感知しましたが、何の反応もありませんでした。また物理結界を越えてくることは不可能かと思います」

「ならば安心じゃ。地中も範囲に入っておるじゃろ?」
「もちろんです」

 げっ、これ、地中まで物理結界の範囲に入っているのか。
 そういえば、竜の学院に張ってある結界もそうらしいしな。

 最初から中にいなかったら、僕は入れなかったわけか。
 危ない、危ない。

「何にせよ、竜国の暗殺者が狙ってきていることが分かった。用心に越したことはない。気を引き締めよ」
「はっ」

「もし私が死んだら、手はず通りに頼む」
「かしこまりました」

「決して私のあとを追うではないぞ。生きてなすべき事をなすのだ」

「分かっております。ですから陛下もそんなことを仰らないでくださいませ」
「うむ。……ではさきの続きといこうか」

 闇に溶けた僕はその会話を静かに聞いていた。


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