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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第6章 大転移-竜魔編

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 シャラザードに乗って戦場へ向かう。
 ただし、街道を大きく迂回してだ。

「できるだけ他の竜に見つかりたくない。なるべく近寄らないようにしよう」
『どうすればいいのだ?』

 いまの高度からさらに高く舞い上がると、遠くに二つの灯りが見えた。
 手前が竜国軍だろう。奥が魔国軍。

「そうだな、奥の灯りのさらに向こうへ回り込みたい。ここから迂回してくれるか?」
 飛竜が様子見をしているだろうし、見つからないためには予想外の場所から向かった方がいい」

『いいだろう。掴まっておれ』
 シャラザードが向きを変えて飛ぶ。

 かなりの距離を迂回して、魔国軍の後方に到達した。

「僕は下りる。昨日と同じで、だれにも見つかるなよ」
『うむ。問題ない』

 闇夜の中、よほど物音を立てない限り、シャラザードが見つかることはない。
 山の頂上で休むというので、僕はひとり魔国軍の天幕に向かった。

「……昨日よりソールの町に近づいているな」
 噂では昼間の戦闘では魔国軍と互角だったと。
 ただし後半はやや劣勢とあったので、損害を受ける前に撤退したのかもしれない。

 地上に降りてから魔国軍の野営地まで進む途中、戦場らしき場所を通った。
 見るからに頑丈そうな柵があったが、あれがあっても魔国軍の猛攻を押しとどめられなかったようだ。

「さて、昨日の天幕を探すが」

 時間がなかったからか、物見櫓は建っていない。
 その分、巡回する兵士の数が増えていた。

 闇に潜ったまま陣の中を移動する。
 かがり火の数は昨日よりも増えている。夜襲を警戒しているのかもしれない。

 その分、僕の移動できる範囲が狭まるが、陣は広い。
 場所さえ選べば、ある程度自由に移動できる。

「あった」
 昨日と同じだ。
 大きな天幕がぽつんとひとつだけ存在し、だれもその周辺にはいない。

 昼間に作戦を考えておいた。
 だが、まずあの天幕に魔国王がいるかを確かめなくてはならない。

「えーっと、都合のいいのが……来た」

 巡回の魔国兵がいた。三人ひと組だ。
 天幕を重要視しているのか、昨日も何組かが近くまで来ては去って行った。

 僕は、彼らから離れたところの暗がりに姿を現す。気づかれた様子はない。
 そのまま木立の陰にうずくまり、魔道『闇刀』を発動する。

 ゆっくりと歩いている兵士のひとりの後ろに刀が出現した。

「……よし、ここだ」
 兵士は所属を示すスカーフを左肩に巻いている。
 それを僕が切り裂いた。

「あっ」
 風でスカーフが舞い、ひらひらと漂いながら天幕の近くに落ちる。

 兵士が慌てて拾いに行くと、天幕の中から数人の兵士が飛び出してきた。
「あっ、すみません。風で飛んでしまって」

 巡回の兵士がスカーフを掲げる。
 護衛だろうか。剣を掲げた者たちが緊張を解いた。

 顔見知りのようで、互いに会釈している。
「お疲れさまです。私たちは第三軍のネビス班です。今日の巡回当番で回っている最中です」
 三人組の長らしき者がそう言って、スカーフを拾った同僚を連れ戻す。

「……気をつけろよ」
「はい。申し訳ありませんでした」
 男たちは天幕の中に消えていく。

 一方、頭を下げた巡回の兵士たちは、そそくさとその場を後にした。

「おい、心臓に悪いから、ああいうのはやめろよ」
「そうだよ。迷惑かけんなって」
 そんな声が聞こえてきた。

 巡回が去ったことで、天幕の周囲はもとの静けさを取り戻した。
 僕は最初から最後まで、ずっと木立の陰に隠れて様子を窺っていた。
 そして確信を得た。

「あの声……以前と同じだ」

 実は、護衛が出てくる直前、天幕の中から「誰か入ってきました」という声が漏れ聞こえた。

 それは西の都で聞いた声と同一だった。
 あのとき魔国王のそばにいた魔道使いだ。

 いまので分かったことがふたつ。

 ひとつは、魔国王の側近があそこに詰めて常時侵入者を警戒していること。
 もうひとつは、魔国兵もまた、一定範囲内に入ると警戒網に引っかかってしまうことだ。

 襲撃を警戒して偽者を置いているのでない限り、魔国王はあそこにいるだろう。
 闇に溶けたまま潜入した僕を見つけるほど優秀な魔道使いだ。

 偽者を守らせるのはもったいない。
 しかもあの警戒具合からも、本物がいると思われる。

 もう一度闇に溶けてから近づいてみる。
 じっと目を凝らすが魔道結界のたぐいは見られない。

 魔道使いが、なんらかの能力で発見するのだろう。
 結界で感知しているのではないため、僕ではかいくぐれない。

 ギリギリまで近づいて耳をそばだてたが、天幕の中の会話は聞こえてこなかった。
 情報が足らないが、西の都と同じメンバーならば、侵入を感知する魔道使いと光を出す魔道使いがいるはずだ。

 そして魔国王を守る最強の魔道使いバシリスクも。

「……いっぺんに何とかするのは無理だろうなぁ」

 三人の中で一番やっかいなのは、近づいたのを感知する魔道使いだ。
 あれがいなければ、作戦の幅が広がる。

 あの魔道使いは、ある程度歳のいった女性の声だったし、戦闘能力はそれほど高くないと思う。
「よし、排除しよう」

 天幕の周辺を調べていたら、妙にかがり火が多いことに気がついた。
 見張りを置かないのは、目立たせたくないからだろう。

 いまも上空には飛竜が飛んでいるかもしれない。
 特定を避けるため、一目で分かるようにしたくなかったのだと思う。

 目立たせたくないものの、周囲に暗がりを作るのは避けたかった。
 そんな心理が働いたゆえのかがり火の数かも知れない。

「天幕に一番近いかがり火は……魔道使いの警戒網の中だな」

 かがり火は木枠を組んだもので、胸の高さの所に鉄の入れ物を乗せてあるだけの簡易的なものだ。

 そして陣地内には、長物はいくらでもある。
 ひとつ失敬して、闇の中に隠す。長槍の柄のようだ。

 周囲に人の目がないのを確認したら、それでかがり火の上の方を押す。
 すると、バランスを崩して天幕の方に倒れた。

 燃えさかる木ぎれが勢いよく天幕にかかり、煙をあげて燃えていく。

 しばらくして中から物音が響き、何人かが出てきた。
 燃え始めた天幕を見つけて、「火事だ」と叫ぶ。

 兵たちが大慌てでやってくる。天幕の周辺は人で溢れた。
 同時に、天幕の中から十人ほどの集団が出てきた。

「火事です。こちらへ」
「すぐに消火をしますので」

 そんな声に導かれて移動する集団を僕は闇の中から見つめた。
 さすがに火事をおこした天幕の中に居続けることはしなかったようだ。

「……見つけた」

 僕はそっと呟いた。


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