挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第6章 大転移-竜魔編

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

491/655

490

 魔国軍が罠にはまったとき、多くの竜国兵が安堵した。これで勝てると。

 丸太で組んだ突撃防止柵は頑強であり、ちょっとやそっとでは破壊できない。
 たとえ一部が壊されたとして、竜国兵の守りを抜けることは不可能である。

 包囲が完成している以上、持久戦になれば勝利は確実である。
 みな、そう思っていた。

 だが、事実は少しだけ違っていた。

「コイツら、反撃してくるぞ。気をつけろ」
「押さえ込め!」

 竜国兵の声が飛ぶ。

 今回の作戦で使用した突撃防止柵は、丸太を斜め違いに組んだものである。
 丸太の隙間から矢を放ち、槍を突き入れることはできるものの、人が通り抜けるにはやや狭い。

 十分距離を取って、安全なところから攻撃を加えたつもりだったが、魔国兵は犠牲をものともせず、反撃してきた。

「隙間を開けるな。入り込まれるぞ」

 戦いは消耗戦となっている。
 魔国兵が倒れても、そこには新たな兵が入り込む。
 逆に竜国兵が倒れた場所はそのままとなっている箇所が出始めた。

 包囲している側が押され始めたのである。なぜならば……。
「兵数の差が出たか」

 イリエル将軍の用意した兵は、魔国兵に劣ることはない。
 数では上回っているといえる。

 だが、魔国軍全体を包囲している手前、どうしても包囲の薄い箇所が出てしまう。
 もちろん通常ならばそれでも問題ない。

 なにしろ、策で魔国軍を圧倒しているのだから。
 誤算は、敵が死兵となって反撃してきたことである。

「隙間を作るな!」
 各所で聞こえる竜国兵の声。
 温存していた最後の兵も投入し終え、遊ばせている兵は皆無である。あとは現場がなんとかするしかない。

「しかし、どうして敵の士気が落ちない?」

 そこが不思議である。罠にはめた時点で、敵に勝利はないはず。
 どこからそんな力が湧いてくるのか。

 包囲している竜国側の方が大人しいくらいなのだ。

 倒れてもその屍を乗り越えてくる魔国兵に、各隊の隊長たちも苦戦している。
「……これは早めに引いた方がいいな」

 半日に及ぶ戦いで、十分以上の戦果を得ている。
 これ以上粘って、戦線が崩壊したら目も当てられない。

 そう考えたイリエル将軍は、ゆっくりと包囲を解くよう命じた。時間切れである。
 そのまま街道を後退させ、あらかじめ決めておいた高台まで撤退することにした。

 両軍が入り乱れた箇所で多少の混乱があったが、竜国軍は秩序を保ったまま後退できた。

 陣を作り、敵への備えが完了してはじめて、多くの兵が安堵した表情を浮かべた。
 彼らもまた、死兵となってやってきた魔国兵に畏怖を抱いていたのである。

「各隊長は被害報告をすぐに持ってくるように」

 次の作戦を立てるにあたって、軍の被害がどの程度だったかは、早急に把握する必要があった。
 被害甚大な隊があれば解散させるか、再編させる必要もある。

 戦果と被害の確認させると……。

「二割の損失か」

 がっくりとイリエル将軍はうなだれた。
 死傷者が全体の二割もあることに、今更ながら驚きを禁じ得なかった。

 死者および、明日以降の戦いに参加できない者が二割も出た。

 一方魔国軍は、三割強の被害が出たであろうと。

 これはかなりの戦果である。三割強の敵を屠ったのであれば誇っていい。
 だが、陣内は重苦しい雰囲気に包まれていた。

「……戦いの様子はどうだった?」
 そう問いかけたのは隊長のリブロス。
 彼は今日の戦いで、左翼を受け持っていた。

「反撃が苛烈というのもあるが、消耗戦になっても士気が折れないんだ。あれを見ていると、こっちが不安になってくる」
 同じく右翼を担当したゴエスが頭を振った。嫌な記憶を振り払いたいようだ。

 現場にいた隊長たちでさえ、そう思うのである。
 全体の指揮を執っていたイリエル将軍にとっても、悪夢のような半日であった。

「諸君、なぜ魔国軍の士気があれほど高いのか、その理由はいくつか思いつ。だが、問題はそこではない」
 イリエル将軍は、集まった各隊の隊長を順に見て続けた。

「明日以降も同じような状況が続くかどうかだ。それについてはどう思うかね」

「今日、半日戦って士気が少しも落ちなかったことを考えれば、明日以降も同じでしょう」
 デレスが言った。他の隊長も頷く。

「……なるほど。私も同意見だ。というわけで夜襲を決行する」
「今夜ですか?」

「そうだ。明日、準備万端でまた決戦となったら、こちらの被害が馬鹿に出来ない」
「ですが、あと数日は月が出ません。闇夜ですよ」

「敵陣は夜襲を警戒して、かがり火を多く焚いている。道中は……一本道を外れないよう、ゆっくりと進むことにしよう。それでなんとかなるのではないかね」

「たしかにそうですけど……」
「明日、同じ策は使えない。平地でぶつかったら、こちらが押し負ける可能性がある。かと言って、他の地方軍を持ってこさせるわけにはいかない」

「ないとは思いますが、別働隊を警戒する必要があるでしょうね」
「その通りだ。王都からの援軍も間に合わない。我々だけで対処するならば、夜戦も辞さないつもりだ」

 隊長たちもしぶしぶながらに頷いた。
 月のない夜の夜戦は厳しいが、明日、何の策のないままぶつかるのも避けたかった。

「では作戦概要にはいる」

 イリエル将軍は軍を二つにわけ、およそ軍の半分で夜襲をかけることを提案した。

「闇夜で馬は使いものにならない。置いていく」
「分かりました。途中に敵が罠を仕掛けていたらどうします?」

「街道をずっと見晴らせてある。動きがあれば分かる。問題は撤退時だが、襲撃後、目印となるよう、帰り道に火を灯しておく。それを目指せばいい」

 月のない夜、山間部はどこからも灯りが入ってこないため、真っ暗闇になる。
 目の前で鼻を抓まれても分からないほどの闇夜だ。

「では頼むぞ。成功を祈っている」

 これの目的は、戦争継続が不可能となるような打撃を与えること。

 兵士の中から選抜された者が闇夜の中、敵野営地目指して進んだ。


この後はずっとレオンくん視点に戻ります
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ