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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第6章 大転移-竜魔編

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 戦場で敵に突撃するとき、勢いを付けることはよくある。だが……。

「陣形を作らずにだと!?」
 街道からやってきた形そのままで魔国軍の突撃は始まった。

 報告を受けて、イリエル将軍はすばやく頭を働かせた。

 敵と当たる前に軍を停止させて、相手の陣形を確認し、もっとも効率のよい陣を敷く。
 その上で突撃するか、防御するか選択した方がよい。それが定跡だ。

 魔国軍は行軍速度を落とさないまま、いやそれどころか、加速させて突っ込んできた。

「ここまでの街道は狭くて長い。途中で陣形を変える場所はなかったはずだ。ということは、街道に入る前に準備を終えていたことになるか」

 ここでイリエル将軍はふたつの可能性を考えた。
 ひとつは、こちらの作戦が漏れていること。

 どこに陣を敷いて、どこに兵を配置しているか筒抜けだった場合、事前に準備できる。

 だが、将軍はそれを否定した。
 竜によって地上と上空から監視していたのだ。それをかいくぐって、竜国軍の意図を正確に見抜けるはずがないと考えた。

 とすればもうひとつの可能性。

「あらかじめ作戦を決めていた? だが何のために?」
 決め打ちの戦法は、初心者指揮官くらいしか使わない。

 戦術は相手との読みあいであり、臨機応変に変えていくことが必要である。
 わざわざ戦法を先に決めて戦う意味はほとんどない。

 たしかに何も考えずに突撃すれば、突破力は高まるし、失敗も少ない。
 だが戦場での柔軟性に欠ける。
 前面に柵を置いていたらどうするつもりだったのか。

「敵の突撃を吸収したら、しばし持ちこたえよ。中央は現場の判断で切り込みを作れ」

 一旦は受け止めて相手の突破力を削ぐ。
 その上で少し引いて、相手を調子づかせてみる。
 それだけで、敵の考えが大凡分かってくる。

「報告します。敵は少しずつ前に出てきております」

 いま両軍の兵がぶつかり合っている状態だ。
 そこから前に出てきたということは、こちらが作った隙に乗ってきたことを意味する。

「陣を左右に広げよ。ゆっくりとだ」
 ならば、こちらがお膳立てをすれば、敵はおのずと乗ってくる。
 前へ、前へ、出ようとする。

 大軍の動きを制御するのは難しい。とくに勢いが付いてからは特に。
 望む、望まないにかかわらず、中央を突破されってしまうだろう。

 これは面で突撃を受け止めた竜国軍と、戦力を集中させて突撃した魔国軍ならば必然の流れ。

「報告します。敵、中央突破してきました。我軍の兵は左右に分断された模様です」
「よし、作戦通りだ。敵を全部通してやれ。その上で、左右から磨り潰せ」

 中央突破を果たした魔国軍を待っているのは、丸太で組んだ突撃防止柵の列だ。
 竜国軍は、盾を併用することによって、被害を少なくしつつ、敵の行動を制限できる。

 進んでも行き止まり、戻ろうとしても自軍が邪魔をして撤退は不可能。
 左右の丸太をどうにかできればいいが、それは竜国軍が許さない。

 イリエル将軍は必中の策が当たったことを確信した。



「報告します。魔国軍、勢いが止まりません」

 中央突破を許したあとは、イリエル将軍は、包囲殲滅戦を指示した。
 将軍にとって、今回のそれは必勝の策でもあった。

 だがやってきた伝令の話は、将軍の予想を越えるものだった。

「我軍は柵に寄って戦っているのではなかったのか?」
「その通りです。ですが、敵の士気が落ちないのです」

 槍と矢の二重攻撃で、多くの魔国兵が倒れる。
 それでも戦意を失わずに、反撃しているというのだ。

「減った兵が補充されるだと?」

 袋小路に魔国軍を閉じ込めた。
 あとは磨り潰すだけの予定だったが、魔国兵が倒れた場所に、新たに魔国兵が入り込むのだという。

 逃げずに、果敢に攻め立てているらしい。
 ゆえに、竜国は優勢に見えて、その実同じ規模で反撃を受けている。

「完全包囲するには数が足らないか」
 作戦が突撃防止柵頼みであったゆえに、竜国軍の包囲陣の厚みがそれほどない。

 もっと密な包囲であれば、時間もかからずすり潰せたが、そこまで兵が多くない。
「やむを得ない。予備兵を含めて、全軍を投入させる」

 いま竜国軍は街道の左右に完全に別れてしまっている。
 全軍で攻勢をかけないと、こちら側の士気が維持できなくなってしまう。

「しかし……犠牲を恐れないのか。魔国軍は」

 竜国兵が倒れる以上に魔国兵の死体が積み重なる。
 それでも反撃の勢いが衰えることはなかった。

               ○

 ソールの町へひっきりなしに飛竜が戻ってくる。
 もちろん、報告を終えた飛竜は再び飛び立っていく。
 戦場を空から俯瞰して、その様子を伝えるためだ。

 両軍が激突したのは昼前。
 そろそろ時刻は夕方にさしかかろうとしている。

「どうやら魔国軍が押しているらしい」
 噂が流れ始めた。

 これは最初聞いた話と違う。
 当初、魔国の先陣を竜国軍がうまく押さえつけ、威力を削いでから包囲に成功したという話が伝わってきた。

 だが最新の情報だと、竜国軍は押されっぱなしで、魔国軍優勢に変わっていた。

「このまま夜戦するわけにもいかないだろうし、今日は引き分けたかな」

 伝え聞く話だけでは分からないことも多いが、どちらかが崩れた話は聞かない。
 戦力は拮抗していたのだと思う。

 今日は月のない夜。山の中では戦いを継続できるはずはない。
 同士討ちを厭わなければ可能かもしれないが、そんな選択をする者が上に立っているわけはない。

 今頃は、どちらともなく撤退している頃だろう。

「よし、シャラザード。僕らは、今日決着をつけるぞ」
 戦場の様子は完全に分かっていないが、混乱している今こそ好機だと思えた。

『我は構わんぞ』

 夜を待って、再び飛び立った。


現在、「前略母さん、魔界は今日も世紀末ヒャッハーです」も1日2回投稿中です。
こちらも読んでいただけると嬉しいです。
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