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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第1章 魔国蠢動編

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 六月に入ってすぐ、顔合わせ会の当日を迎えた。

 同室のアークは妙に気合いが入っている。
 何度鏡の前でポーズを取ればいいのだろうか。

「なぜそんなに気合いを入れるんだ?」
「おれは地方竜隊入りを賛成してくれるパトロンを見つけたいんだ」

 パトロンは、自分の住んでいる町に竜操者を呼びたがる傾向がある。
 これは当然の考えかもしれない。

 アークは地元の軍に所属したいわけで、たがいの希望が真逆になる。
 なるべく多くの人と知り合いになって、いい条件のパトロンを見つけたらしい。

「そうすると、パトロン候補もずいぶんと絞られるんじゃないか?」
 アークの出身地であるヒューラーの町に、無条件で来てくれる相手。
 簡単に見つかるのだろうか。

「だからこそ、こういう機会を逃さないようにしなきゃ」
 なんとも前向きなやつである。

「僕は購買に寄るから先に行ってくれ」
「分かった。会場で会おう」

 上機嫌でアークが出ていった。
「……やれやれだな」

 アークは明確な目標があって竜操者を目指しているのがよく分かる。
 後ろ向きな僕とはえらい違いだ。

 今日の顔合わせ会は、三百人が抽選で選ばれたとリンダは言っていた。
 その中で何人がパトロンになり得るのか分からない。アークは大変そうだ。

 着替えを済ませ、階下に降りる。

 出かける前に、購買部に顔を出した。

「おはよう、義兄さん」
「レオンか。いいのか? 今日は顔合わせ会だろ? もうみんな、ぞろぞろと出ていったけど」

「早く行ってもやることはないからね。開始に間に合えばいいさ」
「相変わらずやる気がないな。パトロン探しが嫌なのか?」

 パン屋のやる気なら、すごくあるんだけどね。

「そんなことないと思うけど」
 面倒だと思っているが、いちおう否定しておく。
 ならば僕の代わりにと、探してこられても困る。

「まあ、イザとなったら女王陛下が見繕ってくれるから安心だろう。……そういえば、ひとつ連絡することがあった」

「うん? なに?」
「女王陛下からおまえにだ。魔国の〈右耳〉からタレ込みがあってな、ここの生徒を襲撃する計画があるらしい」

 女王陛下の〈右耳〉は一種独特な組織で、僕を含めてほとんどの〈影〉たちは、だれが〈右耳〉なのか知らない。
 なにしろ、完全に潜入しているので、定期連絡もないのだ。

 魔国の〈右耳〉だと、何代も前から魔国に住み、そこで一生を終える人たちだったりする。
 一度も竜国に足を踏み入れないで生涯を終える者も多い。

 彼らは市井に溶け込み、日々情報を集めるが、それだけだ。
 いつか必要になるかもしれない。
 ただそれだけを考えて、彼らは活動している。

「〈右耳〉からの情報なんて、珍しいね」
「そうだな。裏は取れていないが、偶然手に入ったのだろう。襲撃の計画が密かに進んでいるんだとさ」

「まだ実行されてないのか」
「らしい。ただ、狙いは学院の生徒であると。というわけで、おまえの耳に入れておけと昨晩言われた」

「ありがと。でもそれだけの情報じゃ、警戒のしようもないね」
「そうだな。頭の片隅に入れておくだけでいいと思う。女王陛下も急ぎではないと念を押していたし」

「分かった。ありがとう。……じゃ、僕はそろそろ行くよ」
「おう、行ってこい。それでもみくちゃにされて帰ってこい」

 笑って送り出す義兄さんに手を振ると、僕は寮を出ていった。



 顔合わせ会の会場は入学式と同じ講堂だった。
 数百人を収容する建物は、そんなにないからだろう。

 中に入ると、すでに人であふれていた。
 僕に注目して寄ってこようとする女生徒たちがいたが、彼女らが僕のもとにたどり着く前に、講堂の奥から音楽が流れ始めた。

「ちょうど始まったようだな」

 時間調整してきて正解だった。
 僕たち一回生は壇上に並ぶらしい。見世物だな、これは。

 リンダから生徒は三百人が参加すると聞いていたが、ちょうどそのくらい集まっている。
 立候補したけど、当日になってやっぱり止めたと思う人はいないのだろうか。

 退屈な司会と、無味乾燥な自己紹介を終えた僕たちは、いくつかあるテーブルに振り分けられた。

 テーブルの数は全部で八つ。
 僕ら一回生は、各テーブルに三人か四人ずつ振り分けられた。

「はじめまして、わたし……」
 先にテーブルについた生徒たちの挨拶大会ははじまる。

 あらためて見ると、男はハンサムで女は美女揃いだ。
 地味な僕としては気後れしてしまう。
 というか、パン焼きてえ。

「それ、すごいですね」
 だれかが僕の竜紋を見た。左手の甲にあるので、すぐ目に留まってしまう。

「目立ってしょうがないんですよ」

 町中を歩くときは、革の手袋で隠さねばならない。
 女王陛下の〈右手〉として活動するときに見られるとかなり厄介なので、最近はいつでも隠す習慣をつけている。

「そんなことないですわ。とても目立って、カッコイイです」

 そう褒められると悪い気はしないが、僕の近くにイケメンくんたちがいるので、カッコイイのは彼らの方だろう。

 僕が褒められるのは、僕自身がカッコイイからでなく、竜紋があるからだ。
 まあ、竜紋を褒めるあたり、この女生徒も分かっているんだろうな。

 なんて自虐的な思考をしていると、鐘がなって、テーブルにいた生徒たちの入れ替えがはじまった。
 練習でもしたかのように揃った動きだ。

「まじか。これ、ずっとやるのか?」
 さっさとトンズラしようと思っていただけに、この展開は予想外だ。

 すでにパトロンが決まっているクラスメイトもいたはずだが、彼らはどうしているのだろうか。

 見回すと、何人かの姿がない。つまり、退席していいわけだ。
 僕は入れ替えの混雑に紛れて、そっとテーブルを離れた。

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