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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第6章 大転移-竜魔編

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 魔国軍の野営地から戻った翌朝。

 僕はいま竜操者専用の宿舎にいる。
 ここは他の町の宿舎に比べても大きく、多くの竜操者が宿泊できるようになっている。

 国外に赴く国の重鎮を運ぶことが多いため、常に複数の飛竜が常駐している。
 ただし今は戦時中。飛竜のそれに準じた偵察任務についている。

 竜操者がひとり宿舎に戻ってきた。
「お疲れ様です。巡回ですか」

 戻ってきたのは、ソールの町に長くいる竜操者のひとりだ。僕も何度か会ったことがある。
「ええ。たった今交代してきたところです」

「大変ですね。周辺に敵影はありましたか?」

「注意して飛びましたが、今のところはないです。私たち竜操者は住民の安全を担っている手前、骨を惜しむことはできませんね。昼からも巡回が入っていますので、しばらく休ませてもらいます」

「そうですか。ゆっくり休んでください」

 竜操者は軽く会釈して部屋に入っていった。
 飛竜による空からの巡回は日が昇る前から全方位に向けて行われている。

 これだけ厳重ならば、余程のことがない限り奇襲されることもない……はずだが、巡回中の飛竜を落とされることもある。

 できれば自分の目でも見てまわりたいが、身体に穴の開いたシャラザードの傷を治す方を優先したいし、悩ましいところである。

「やはり、各町につながる門は閉められないのかな」

 ソールの町が七大都市のひとつになれた理由。
 それはここが商国と技国への玄関口であり、他の町の中継地点となっているからだ。
 いまも少数ながら、町に人の流入や流出がある。

 国境付近など、なだらかな場所は存在せず、街道以外を進もうとすれば、荷物を抱えた人などは立ち往生してしまう。難所ばかりの中をようやく街道を通してあるのだ。

 そこを利用する人たちを締め出すわけにはいかない。
 だから門を閉められないのだろう。

 他にも、ソールの町の衛星都市も関係していると思う。

 他の衛星都市をつなぐ街道がソールの町に集中しているため、門を閉ざして出入りを規制すると、他の町や村が困ってしまう。

「その分、ここを占領されると困るわけだけど」

 守備兵が防衛に力を入れているが、物事に完璧はない。
 何かの歯車が狂って、全体が影響されることもあり得る。

「一度僕も飛んでおこうかな」

 今回の戦争では、技国の力を借りないつもりらしい。

 友好国であり、軍事同盟を結んでいるのになぜ? と思ったが、女王陛下は泥沼の戦争になるのを防ぎたかったようだ。

 竜国が技国と大っぴらに組むと、魔国も商国と手を組み、大陸を二分する大戦争が起きてしまう。
 そうなった場合、引き際を見極めないと、被害が予想つかないものになる可能性がある。

 現在、魔国単独で戦いを挑んできていることもあり、ここの局地戦だけで終わらせて、以後関わりを持ちたくない雰囲気が女王陛下から伝わってきた。

「でも反対に、魔国は巻き込む気満々なのよね。だから大元を絶ちたいのだけど」
 そう言っていた。大元とは……まあ、あれだ。

 そして魔国は巻き込む気満々という言葉。

 僕がその意味を理解できたのは、もう少し後になってからだった。
 この時点ではまだ、魔国王の意図も女王陛下の言葉の意味も、正確に分かっていなかった。


 慌ただしく、一騎の飛竜が竜の広場に下りてきた。
 竜務員が駆け寄る。

 竜操者はまだ二十代に見える若い人だった。
 竜を竜務員に預けて、本人はそのまま領主の館に向かう。

 何ごとか起こったのだと、分かった。

 少しして、噂が僕のもとまでやってきた。

 ここを出発した竜国軍が、ついに魔国軍とぶつかったのだという。

               ○

 朝早く目が覚めたイリエル将軍は、部下の持ってきた濡れタオルで顔をぬぐうと、魔国軍がいるであろう街道の先を睨んだ。

 昨晩遅く、リブロス隊、ゴエス隊から準備を終えたと報告があった。
 思ったより、準備は早く調った。

「デレスをここに」

 イリエル将軍は部下に指示を出すと、兵の様子を眺めつつゆっくりと会議用の天幕に移動する。

「デレス、参りました」
「おはよう。早速だが、昨晩の様子を知りたい」

「はい。我が隊が野営地の周りに敷いた警戒網に、三名の敵影が確認されました。いずれも我が隊の者に見つかると、すぐに撤退しております」

「追跡は?」
「しておりません。陽動の可能性もありましたので」

「うむ、ごくろう。それで敵はここまで来れたと思うかね」

「いえ、ここの厚い警戒網をかいくぐったとは思えません。たどり着けた敵は皆無だと思います」
 自信満々に言うデレスに、イリエル将軍は満足げに頷いた。

 竜国と魔国では索敵能力が違う。
 上空から飛竜が睨みを効かせ、走竜が周辺を走り回るだけで、敵の斥候は撤退せざるを得ない。

 間違っても威力偵察など不可能と考えるだろう。
 ゆえに少数……たとえば単独などでそっと近づくくらいしか、ここを探る方法はない。

「隠密での潜入を警戒しておいて正解だったな。少し早いが、我が軍はこれより進軍を開始する。デレス隊は先行して、敵影の排除に努めよ」

「かしこまりました」

 昨日の作戦を実行するならば、まず戦地となる場所に着かねばならない。
 朝食は遅れるが、先に陣を敷いた方が対応しやすいとイリエル将軍は考えた。

 デレスが天幕を出ていったあと、部下を呼び寄せて、命令を伝える。
「全軍に通達。これより順次移動を開始する。早急に陣を引き払う用意をせよ」

 部下が走り去ったあとで、将軍は天幕を出て空を仰いだ。
 雲ひとつ無い空が広がっている。

「今日中に決着が付けばよいが」

 昨日、空から偵察した竜操者の報告によると、魔国軍は戦力を集中させたらしく、今回かなりの兵が動員されたらしい。

 竜国はいまだ地方軍のみで相対している。
 王都から軍が派遣されたらしいが、いまだソールの町に到着していない。

「間に合っても都市の防衛に使った方が良いだろうな」

 命令系統が違うと、かえって足を引っ張ることにもなりかねない。
 そんなことを考えていると、先遣隊の準備が整ったと報告がきた。

「よし、第一陣を出発させよ」

 決戦に向けて、竜国軍が動き出した。



 早朝から動き始めたのが功を奏したようで、魔国軍より早く目的の場所へ到着できた。

「周辺の索敵を強化し、しかるのち柵の設営に入る」

 飛竜からの報告では、敵の到着にはまだ時間がある。
 そのためゆっくりと準備を進めても、十分間に合いそうだった。

「魔国軍の様子はどうだ? 変わったところは?」
「山間の道にはいる手前で停止しているようです」

「進軍を停止? こちらの意図に気づかれたかな」

「斥候を放っている所でしょう。山間道の入口から先は視界が悪くなりますし、警戒しているだと思われます」

「と言っても、他に道はない。ここを進むしか手がないと思うが」
「はい。罠を警戒しているのだと思われます」

「おそらくそうだろうな。……よし、こちらの斥候は引き揚げさせろ。飛竜が空から監視していれば十分だ」

 斥候どうしがぶつかれば、そこで戦いが始まってしまう。
 すでに互いの場所は把握しているであろうし、両陣営の距離は近い。無駄な犠牲は出したくなかった。

 それにこれだけ両軍が近いと、放った斥候が戻ってくる間にも戦局は変わっていく。
 残りは飛竜に任せて、兵たちには陣容を整えることを集中させた。

 ほどなくして街道の先から埃が舞いあがり、金属を響かせる重苦しい音が聞こえてきた。

「来るぞ。全軍、手はず通りだ」

 竜国軍は、ゆるやかに曲がりくねった街道の先で待ち構えている。
 魔国軍もそれは十分承知しているだろう。

 このまま進めば、イリエル将軍の思い通りの場所でぶつかることになる。

「全軍に通達。作戦を念頭に入れつつ、自分の判断で動くように」

 狭い場所で多くの兵がぶつかることになるだろう。
 ここから必要なのは勢いであり、細かな命令変更は混乱を助長させる。

 兵にはただ、目の前の敵に集中してもらいたかった。

 魔国兵の足音が近づいてきた。

「来るぞ!」
 誰かの声が聞こえた。
 そろそろ敵が見えてくる。

 皆が固唾を呑んで見守る中、魔国兵の進軍速度があがった。

「駆け足でくるぞ!」

 それは誰の声だっただろうか。

 直後、敵のあげる「わぁーっ」という喚声に、全ての声がかき消されてしまった。


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