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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第6章 大転移-竜魔編

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 魔国軍の野営地。

 警戒はかなり強いものだった。
 兵による巡回だけかと思ったが、すでに複数の魔道結界が設置され、そのことごとくが隠蔽されていた。

「たった一晩だけなのに厳重だな」

 複数の魔道結界を張るだけでも、それなりに面倒なはず。
 干渉し合わないよう調整しつつ重ね合わせるのはかなり大変な作業だったろう。

「それだけ侵入者を警戒しているんだろうな」

 僕の場合、闇に溶けたまま進めばよい。
 だが、通常の潜入者だと、近寄るのすら難しそうだ。

 野営地の中は多くの兵が行き交っている。
 すでに食事を終えたらしく、それぞれがかがり火の近くで武器の手入れや、装備の確認に余念がない。

 こうして実際に見ると分かるが、魔国軍は、一般兵の士気がかなり高い。
 無駄話に興じている者がいないし、天幕に入って休んでいる者もいない。

「外に出ているのは、夜襲を警戒しているのかな」

 夜はまだこれから。
 寝るには早い時間だが、通常ならば明日に備えて鎧を脱ぐ人も出てくる。
 だが、だれもそんな様子はない。

 少し興味が出てきたが、士気が高い理由を調べる時間はない。
 戦争は兵士に任せて、僕は僕のやるべきことを優先しよう。

 野営地でひときわ目立つのが、物見櫓ものみやぐらである。
 木を組み合わせて縛っただけの簡易的なものだが、それが二基作られていた。

「……少し使わせてもらうか」

 闇に溶けたまま、物見櫓の屋根まで上る。
 闇から姿を現すと見つかりそうなので、そのままの状態で野営地内に目を向けた。

 かがり火のおかげで、遠くまで見通せる。

「ん? あれは投石機と槍の射出機か。月魔獣対策というより対竜用の兵器だな」

 野営地の外からでは分からなかったが、対竜用の兵器がすでに準備されていた。
 いつでも発射できそうだ。それに数も揃っている。

 あれでは飛竜で奇襲しても、離脱するまでに半数は打ち落とされそうだ。

「うちの軍はそんなことしないよな」

 竜操者たちだけで野営地に突っ込ませるような作戦を立てないと思う。
 もし実行されたら、被害を受けるのは竜国側こっちになりそうだ。

 ざっと試算すると、地方竜隊で南部に派遣されているのは二百騎程度。
 今回、戦場に投入されたのはその四分の一くらいと予想している。

「戦場に五十騎が集まっているとして、半数も失ったら回復できない痛手かな」

 年間で三十騎前後しか実戦投入できないことから考えて、ここでそれだけの竜を失うと、各方面の防備が薄くなってしまう。

 良くも悪くも我が国は竜頼みなので、あまりこういった戦争で竜も竜操者も消耗してほしくない。

「中央部にいるのは魔道部隊だよな。あれの運用如何で、竜国の消耗率が跳ね上がることになりそうだけど、どのくらいいるのかな」

 魔国が竜を欲するように、竜国は魔道使いを欲する。互いにないものねだりだ。

 身元が確かで裏切ることのない魔道使いを、竜国はかなり優遇して取り込んでいる。

 それでも魔道使いの数は魔国に遠く及ばないし、強力な魔道使いはもっと少ない。
 竜国には、このような戦争にかり出せるほどいないのが現状だ。

 そういうわけで、戦いの最中に魔道が炸裂した場合、魔国からのものになると考えられる。
 つまり、その時の死傷者は竜国兵だ。

 どのような魔道を使われるか分からないが、範囲攻撃ができるタイプだと集団戦ではかなりやっかいだ。
 以前、『黒霧ブラックミスト』と呼ばれた魔国十三階梯と戦ったが、ああいった魔道を初見で躱すのは難しい。

「できれば僕が数を減らしてあげたいところだけど、ここで動くと警戒されるからな」

 歯がゆいが、大仕事の前にやるべきことではない。
 意識を切り替えて、他の部分に目を向けた。

「……ん?」
 野営地の中央付近からやや後方側に、不自然な一角を発見した。

 大きな天幕だが、もの自体は立派ではない。
 どちらかといえば、古びている。

「物資を入れておく天幕のように見えるけど……」
 目立つかと聞かれれば、そんなことはないと思う。
 どこにでもある普通の天幕だ。ちがうのは他より少し大きいことと……。

「なぜあの天幕の周りだけ、だれもいない? それに何も置いてないんだ?」
 僕が気にしたのはそこだ。

 近くを歩いている兵もあそこには近寄らない。不自然にそこだけ避けていくのだ。

 潜入経験が長いと、そういう変なところに目が行ってしまう。
 そのまま天幕を注視してると、中からひとり出てきた。

 立派な軍服に身を包んだ男だ。天幕の中に一礼すると、さっと歩いていった。
 男が歩くと、近くにいた兵が次々に頭をさげる。それを見るだけでも、彼が高い階級であることが分かる。

「もしかして……魔国王はあそこにいるとか?」

 実は他に立派な天幕がひとつあって、王はそこにいるのだと考えていた。
 だが、なにも一番立派な天幕にいるとは限らないではないか。

 だとすると見えてくるものもある。
 あの不自然な空き空間。

「魔道結界かな」

 暗殺者用にかなり凶悪な結界が張ってあるのかもしれない。もしくは……。

「感知結界だっけか。僕が見つかったやつ」

 以前、意図せず魔国王の部屋に入ってしまったとき、闇に潜った状態でも見つかってしっまった。

 いまだ見つかった理由は分からないが、あの部屋には闇の中に隠れていようがいまいが、関係なく発見できる人物がいた。

 だが、後で思い返してみると、僕が部屋に入った瞬間見つかっている。
 その後は、かなり距離が離れていても感知された。

 あれは僕を姿形ではない「何か」で判別していた。
 あの不自然な空間は、そこに入った者がいたらすぐに分かるようになっているのかもしれない。

「だとするとやっかいだな」

 中に入った瞬間、声を挙げられてしまう。
 見つかったら最後、強い光を照射され、姿を強制的に現されてしまうだろう。前回と同じだ。
 また大慌てで逃げ出すのは嫌だ。

 しばらく天幕を注視していたら、中からまた高級そうな軍服をまとった者と、魔道使いらしき者が出ていった。
 少ししてから天幕に戻っている。

 その間、他の者はだれも不自然に開いた空間に足を踏み入れようとはしなかった。
 ほぼ確信がもてたが、確証はない。

「今日は戻るか」

 天幕の中を調べたいところだが、ちょっとあの警戒をかいくぐるイメージが湧かない。
 今日は様子見でもあったので、戻ることにする。

 僕はそっと野営地を抜け出し、シャラザードが待つ山の頂上まで急いだ。

「一応ここも木々が密集しているし、人が上がってくることはないと思ったけど、どうだった?」

 そうシャラザードに聞いたら、人の気配は一度も感じなかったらしい。よかった。

「よし、町に戻ろう」
『あい分かった』

 僕らはソールの町に戻った。


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