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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第6章 大転移-竜魔編

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 夜の帳がおりたあと、僕はシャラザードのいる竜舎へ向かった。

「出かけるぞ」
『うむ』

 すでに僕は黒装束に身を包んでいる。そして小声で話しかけたので、シャラザードはすぐに察してくれた。

 そっと飛び乗ると、シャラザードは音を立てずに飛翔した。
 空に舞い上がった僕とシャラザードの黒い身体は、夜の闇に紛れて一切目立たなくなった。

「このまま西に向かって飛んでくれ」
『あい分かった』

 僕が受けた指令――魔国王の暗殺。

 これは目の前まで行って「お命頂戴」とやるわけにはいかない。
 王を守る兵や魔道使いが十重二十重に存在している。
 ますそれをかいくぐる手段を考えなければならない。

「必要なのは情報だけど、戦場に出た後だと追加で得るのは厳しいな」

 一応、ソールの町の〈影〉から僕に接触があった。
 僕も何度か会ったことがある〈右足〉だ。

 渡されたのは、ホーリスの町での情報だという。
 どうやって閉鎖された町の情報を得たのか聞いてみたら、秘密だと言われてしまった。

 ただ、黒矢を使ったとだけ、教えてもらえた。
 漆黒に塗った矢を城壁の中から外へ向かって放ったのだろう。

 町が占領されたときに備えて、どの場所から射るか予め決めてあったと思える。
 夜のうちに済ませれば、見つかることもないし、良い手段だと思った。

「分かったことは少ないけど、あとは現地で確認だな」

 僕が貰った情報。
 まず魔国王について。

 魔国王は軍とともに町を出ていた。それは間違いないという。
 そして魔国軍の編成だが、月魔獣用の装備そのまま持ってきているらしい。

 一般兵に加えて重装兵、騎兵、魔道兵がいる。
 また輜重の中に攻城兵器があることも分かった。

 かなり重装備だ。
 このことから魔国王が本気でソールの町を落としにきていることになる。

「さて、下はどんな感じかな」

 少し飛ぶと、眼下に今日出発した竜国軍が見えてきた。
 高台で野営をしている。

 かがり火を多く炊き、夜襲に備えているように見える。
 綺麗な円形の陣だ。

 さらに進むと、魔国軍が見えた。

「意外と近いな」
 明日には両軍がぶつかる距離にまで近づいている。

「魔国軍は……半円の陣か」

 ソールの町がある側だけ円を描くように陣を構築してある。
 反対側はスパッと切ったように何もない。
 後ろからの襲撃はないと判断して、戦力を前面に集中させた形だ。

「……といいつつ、後方は多くの斥候を放っているんだろうな」

 地の利は竜国にある。
 魔国軍は敢えて夜襲を誘っているのかもしれない。

 さて、魔国の野営地から離れたところに下りたいが、どこがいいだろうか。
 通常ならば魔国軍の後方、つまり西側から潜入するのだが、嫌な予感がする。

 面倒でも、警戒の強い東側からいくことにしよう。

「シャラザード。このまま飛び下りるから、おまえはそうだな……あの山を越えたところにいてくれ」
『ふむ。かなり距離があるが』

「それ以上近いと敵の斥候に見つかると思う。帰りは僕がそこまで行くから迎えに来なくてもいい。というか、見つかると面倒なので、来ないでくれよな」

『あい分かった、主よ。我はそこで休んでおるわ』

「日が昇る前には必ず戻ってくる」
『うむ』

「……では行ってくる」
 僕はシャラザードの背からゆっくりと落下した。

               ○

 一方、竜国軍の野営地。

「イリエル将軍、周辺の索敵がすべて終了しました。問題ありません」

「よし、デレス隊はそのまま索敵を継続。リブロス隊とゴエス隊は突撃防止柵の作成に取りかかるのだ」
「はっ!」

 野営地が慌ただしく動き出す。
 ソールの町にスパイが入り込んでいるかもしれないため、イリエル将軍はいままで具体的な行動を起こさずにいた。

 町から十分離れたこの野営地で、ようやく作戦行動を取ることができるようになった。
 もちろん周辺に敵がいないことは、たったいまデレス隊が確認してきてくれた。

「明日の決戦はここにする」

 イリエル将軍が示した場所は、何の変哲も無い街道の上。
 ただし、両脇には木が隙間なく生えている山が存在している。人ひとりも山に登れないほど木が密集している。

 竜国軍がその出口に陣を敷く。
 魔国軍は、山と山の隙間を通っている街道から出てくることになる。

 そこで魔国軍を叩く。
 迎え撃つ陣形さえ間違わねば、戦果が期待できる場所だ。

 だが、イリエル将軍は、リブロス隊とゴエス隊に柵の作成を命じていた。
 これは何なのかといえば、魔国軍を罠にはめるためである。

 つまり有利な地形に陣を敷き、さらに罠まで張ろうというのである。

 ここは左右を木の生い茂った山に挟まれた街道。
 どこにも逃げ道がない。

 魔国軍は突撃して中央突破を図ろうとするしか手がない。

 将軍は敢えてそれを成功させるつもりだった。
 ただし中央突破した後、コの字型の深い柵が出現するのだが。

 まるでウナギの寝床のように長くて深い突撃防止柵の中を、魔国軍は嫌でも進むしかない。
 だがその先は閉じられている。まさに袋の鼠だ。

 中央を薄くして突破させやすくする反面、魔国軍をすりつぶせるように後方に多くの軍を配置する予定である。

 ただしこれは見破られてしまうと意味が無い。
 また、事前に柵を配置する必要があるため、敵の動きを見ながら作戦を変えることができない。

 ゆえに絶対に秘密が守られる今まで、一切の行動を起こしていなかった。
 これは周辺地理をよく理解し、準備をしてきた竜国軍だからこそなし得る策である。

「朝までには策を完成させるように。明日は決戦だ」

 イリエル将軍はこの作戦の成功を疑っていない。
 だが懸念事項はいくつかある。

「将軍、伝令が来ました。明日、糧秣を積んだ馬車が到着するそうです」
「そうか。朝食までには間に合うか?」

「いえ、到着するのは昼前になる予定だそうです」
「うむ。分かった」

 ソールの町を含めて、近くの町のいくつかは見張られている可能性があった。
 そこでイリエル将軍は少し遠い町から食糧を運び入れてもらうよう、お願いしておいた。

 それでもやはり到着には日数がかかる。
「昼には間に合えばなんとかなるか。敵の目をごまかすためとはいえ、厳しいな」

 将軍が懸念しているひとつめが食糧の問題。
 ソールの町から出発した馬車には、食糧の代わりに策を作る為の道具、工具や金具、釘などが積み込まれていた。

 また作成に時間のかかる木製品などはあらかじめ馬車に積んでいた。
 つまり食糧をあまり積み込めなかったのだ。

 明日いっぱいまでならば食糧があるが、明後日の分はない。
 最悪ソールの町から緊急で搬入してくれる予定になっているが、戦況しだいでは街道の移動は危険がともなう。

 それを考慮すると明日の昼頃に到着してくれるならば、良い方だろうと将軍は改めて考えることにした。

「もうひとつはソールの町の防衛設備だな」

 ソールの町は大軍で襲いかかられると簡単に落ちてしまう。
 竜が十頭近く常駐しているが、それだけで千や二千の兵を相手できるわけではない。

 竜は無敵といっていいが、竜操者が操っているため、弓矢で狙われればお終いである。

 かといって町は大きく、守備兵の数は足らない。
 城塞都市ではない普通の町であるため、攻城戦になった時点でかなり危ないのである。

 他の竜国軍および竜操者が魔国の別働隊を警戒しているため、一応は安心できるが、その目をかいくぐられてしまう可能性もわずかながら存在している。

 ソールの町が落ちると、イリエル将軍がここで戦っている意味がなくなってしまう。

「とくにホーリスの町との間は山や林が多くて、伝令兵すら自由に移動できないしな」

 情報伝達が遅れたことで手遅れになる可能性もある。
 イリエル将軍の悩みは尽きなかった。

新連載をはじめました。タイトルは……
『前略母さん、魔界は今日も世紀末ヒャッハーです』 (http://ncode.syosetu.com/n3432ea/)

異世界の人外転生ものです。
舞台は魔界で、人間は最初から最後まで出てきません。

戦乱渦巻く魔界の小国で、オーガに転生した主人公が脳内ヒャッハーな連中に呆れつつ、順応していくお話……でしょうか?

よろしければ、あらすじだけでも。そして興味もっていただけたら、本文をお読みくださいませ。お願い致します。
ストックがあるので毎日6時と18時の投稿になります。
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