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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第6章 大転移-竜魔編

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「やはり、いつもより遅いな」
 僕のつぶやきにシャラザードは「ぐぅ」と鳴いた。不満そうだ。

 いま僕らは王都を出発してソールの町に向かう途中の空の上だ。

 そして、通常のルートを外れて、飛行訓練を行っている。
 というのもここ数日、シャラザードは「喰っちゃ寝」の生活を続けてきた。

 それもしょうがない。翼や身体に穴が開いているため、少しでも早く治そうと、余計な体力を使わせなかったからだ。

 今回、シャラザードに乗り込むときに確認したら、傷が塞がったところもあった。
 順調に治っている証拠だ。

 さすが竜の回復力といったところ……と喜んでばかりもいられない。
 全快にはまだ時間がかかるし、無理をさせて長引いても困る。

 だが、文官から言われた一言が効いた。

「ソールの町が戦場になる可能性もあります。巻き込まれたら、戦うか逃げるか選択してください」

 魔国軍は、ソールの町を攻め落とすと宣言した。
 我が国の軍はそれを迎え撃つ。勝てる戦いだ。
 それでも戦争に絶対はない。

 万一戦線が崩壊した場合、ソールの町が戦場になることも十分考えられた。

「……逃げることはできないよなぁ」

 あそこは僕の故郷である。住民もそれをよく知っている。
 町が戦場になって僕が撤退したと分かったら、町民はどう思うだろうか。

 町には昔からの知り合いや、お店のお客さんがいっぱいいる。だから僕は逃げるという選択をしたくない。

 では戦えばいいかといえば、物事はそう単純ではない。
 シャラザードはいま大怪我をしている。
 どのくらい動けるのか、それすらも分からないのだ。

 というわけで、ソールの町に着く前に、シャラザードが出せる速さや到達できる高度の限界を確かめることにした。本番になってできないでは困るのだ。

 結果分かったことは、本来の性能とは比べものにならないくらい落ちているということ。
 急上昇や急降下に至っては、目を覆いたくなるほど鈍い。

「これは大変だな」

 町が戦場になったとき、僕はどう戦えばいいのか。
 それと先の話になるが、シャラザードをこんな状態にした支配種をどう倒せばいいのか。それらを真面目に考えておく必要がありそうだ。

「よし、シャラザード。ソールの町に向かうぞ」
『うむ、分かった』
 一通りの行動限界を調査したあと、僕らは町に向かった。



「敵の進軍が始まったんですか」
 予定よりかなり遅れて、僕らはソールの町に着いた。

 領主館の近くにある竜の広場に降り立つ。
 シャラザードはそのまま休息に入る。
 ここでも食事と休息によって、傷を癒やすのだ。

 竜の広場にいた兵に聞いたところ、すでに魔国軍がホーリスの町を出発しており、ここへ向かって進軍中だという。

「はい。我が軍もこれから町を出るところです」
 僕に話してくれた兵は、町を守るため、ここに残るらしい。

「城壁を挟んで戦わないのは、住民のためですか?」
「そうです。なるべく一般の人たちに被害が及ばないよう、我々は出陣して戦います」

 竜の学院にいたころ、竜国軍の運用について少しだけ学んだことがある。

 僕ら竜操者が軍属になると、地方竜隊や中央竜隊に組み込まれる。
 軍属と言っても、通常は対月魔獣を想定した訓練をしつつ、陰月の路を巡回して、月魔獣を発見次第処理することになる。

 戦争になったときは竜国軍に組み込まれ、命令系統は一本化される。
 つまり竜操者も一般兵同様、軍の一翼を担うことになる。

 ここで問題になってくるのは竜の運用である。
 というのも、竜は貴重な存在。徒や疎かにできる戦力ではない。

 たとえば単身で敵に突っ込ませたり、撤退時の殿しんがりに使用し、消耗させるような使い方は禁止されている。

 軍を指揮する者たちに上記のことは徹底されているらしく、たとえ勝ち戦であろうと、決められた運用を大いに逸脱した場合、士官が処罰されることになる。

 僕が学院で学んだ当時、戦略担当教諭はこう言っていた。
「安心して上官の命令に従え」と。

 僕らは士官ではないため、それ以上運用について学ぶことはなかったが、ここぞという場面で最後の一押しをしたり、本体が戦っているときの援軍としての使われるようなことを言っていた。

「……まあ、走竜にしろ、地竜にしろ、敵を蹴散らすのは簡単だけど、戦場では竜操者が狙われるからな」

 位置が高いため、どこからでも見えて、簡単に狙われてしまう。
 鎧を着込もうとも、防御は万全ではない。

 竜で無双中に竜操者が狙われ、命を落とした例は数多くある。
 対竜用の射出弓で狙われた場合、重装鎧を着ていたとしても助からない。

 また、魔国には魔道使いがいる。
 魔道によって思いもよらない方法で狙われることもある。

 指揮官は戦いに勝つこともそうだが、竜操者を無駄死にさせないことも重要な使命なのである。

「城壁に寄らないで決戦を挑むあたり、この町の指揮官はよく分かっていると思うけど」

 町の城壁を頼みにした場合、魔道使いの大規模魔法によって城壁が破壊されることも考えられる。
 そうすると町中で戦いが繰り広げられてしまう。

 町中に立てこもって、やってきた兵を叩く方が被害が少ないように思えるが、そういった魔道による一発逆転の手があるため、その手はどうしても選択しにくい。

 ゆえに兵の被害は増えるが、不確定要素を排除するため、城壁から離れたところで戦いをするのである。
 それが決断できるならば、優秀な士官であると言えよう。

「……さて、実家に帰りたいところだけど、いまは戦時だしな」

 皆が生死をかけた戦いに赴くところだ。僕だけ帰省するのは自重した方がいい。
 それにもうすぐ夜だ。闇夜に紛れてシャラザードと出かけなければならない。

 実家に寄るのは、戦いが終わった後でもいいだろう。きっと……。


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