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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第6章 大転移-竜魔編

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 王都の空は昼頃から曇り始め、夕方になる頃にはポツポツと地面をぬらしはじめた。

 一騎の飛竜が、王城に駆け込んできた。
 ウルスの町から放たれた伝令である。

 待ちに待った続報。寡兵で攻め入った魔国軍がどうなったのか、城の文官、武官のだれもが結果を知りたがった。

 ――ソウレルの町が落ちました

 使者の言葉に、多くの者が耳を疑った。


 ことの起こりはこう。
 ソウレルの町近郊に姿を現した魔国軍は、城壁を囲むように布陣した。
 といっても全面包囲はできない。

 もとより竜国の方が兵が多い。町には竜もいる。
 領主は籠城せずとも、一戦すれば蹴散らせると考えていた。

「そなたの采配に任す」

 領主は最も信頼できる武官を将軍に任命し、敵影発見の報をウルスの町に送った。

 将軍は必ずや期待に応えてくれるだろう。そう思っていたのだが。
 だが、戦端を開くのを躊躇ためらわせる事態が起きていた。

 人質の存在である。

 魔国軍が村々を襲い、村人を根こそぎ攫っていったのは周知の事実である。
 その意図はなにか。

 当然考えられる事態として、それはあった。

「村民を盾に取っていますがいかが致しましょう」
 城壁の上から見下ろすと、魔国軍の中にほぼ均等に村人がいるのが見て取れた。

 ここで攻撃を開始したら、人質の命はない。
 そもそも魔国軍はそのために先に村を襲っている。

「敵の目的は?」
「開門を要求しています」

「……そのような手で町を手に入れたとしても、統治できんだろうが」
「追い詰められていますので、なりふり構っていられないのでしょう」

 守備側としてはほぼ正確に魔国軍の心情を理解し得ていたが、だからといって状況がよくなるわけでもない。

 魔国軍は開門を要求しており、叶えられなければ人質を一人ずつ殺していくという態度をみせている。

 人質は生きてこそ価値があり、殺してしまえば意味は無いわけだが、魔国軍がそこまで追い詰められているならば、やりかねないと思われた。

 時間はない。決断しなければ、彼らは見せしめに人質を殺すだろう。
 城壁の上には多くの兵がいる。

 兵に確認させたところ、人質の多くは見知った者だという。
 彼らは正真正銘、竜国の民である。

 何の回答も出さず、人質をただ殺させるのはよくない。
 将軍は決断した。

「――攻めよ」

 たとえ人質を取られたとはいえ、城を明け渡すことはできない。
 将軍は領主に知らせず、すべての責任は自分が取るからと、守備兵に攻めさせた。

「できるだけ早く敵を殲滅させ、ひとりでも多くの村人を助けよ」
 それができる限りの命令であった。

 守備隊は一気呵成に攻めかかり、予想が外れた魔国軍は対応が遅れた。
 結果、半分近くの人質の命が失われたものの、多くの魔国兵を倒し、彼らを撃退した。

「救った者たちを村ごとに分け、顔を確認させてから入れよ」

 敵が紛れ込んでいないことを確認させつつ、人質を収容する。

 降りしきる雨の中、恐怖と寒さに打ち震える村人たちには、暖かいスープが振る舞われた。

 その翌朝、町は魔国軍に占領されたのである。



「どういうことだ? もう少し詳しく説明せい」
「はっ、雨は明け方まで激しく振り続け、夜明け前のもっとも暗い時間帯に、突如門が開かれたのです。そこから魔国軍がなだれ込み、あとは統制のとれないまま領主館が占領されました」

 伝令の言葉を聞いて、全員が首を傾げた。なぜそんなことになったと。

「人質の中に魔国兵が紛れ込んでいたのかね?」
「いえ」

「ではどうして中から城門が開かれる事態になったのだ」

 門は堅く閉ざされ、十名を越える兵がそれを守っていたという。
 城壁の上には数十名の兵が巡回し、町中でも安心させるため多くの兵が見回りをしていた。

 そんな状態で、何がおきたのか。

「人質が……人質たちが門を開けました」
 収容された人質は千名を越える。

「バ、バカな」
「どうしてそんな」

 彼らは竜国の村人であり、魔国軍に組みする義理も義務もない。
 ではなぜ協力したのか。

「もしかして……人質を取られていたのか?」
 思い当たるのはそれしかない。

「はい。友人、家族、恋人……多くの者が人質を取られ、やむを得ず行動を起こしたようです」

「なんと非道な」
「人質を使って城門を開けさせようとしただけでなく、その人質に人質をとってまで行動していたというのか」

「それだけではありません。昼間の戦闘もまた魔国の民間人が人質を取られて兵の振りをしていただけなのです」
「……!?」

 昼間の戦闘で蹴散らした魔国兵たち。
 彼らは魔国の民間人だというのだ。

 彼らもまた親しい者を人質にとられ、やむなく従ったらしい。
 いま思えば、反撃があまりにお粗末だったと。

「結局、魔国兵の損耗はゼロに等しく、城門を開け放たれたあとは一気に領主の館を占拠されました」


「殲滅したという魔国兵たちですら、家族を人質に取られ、兵の振りをしていただけなのか}
「…………」

 つまり人質をとられ、嫌々ながら従わざるを得なかった者たちしか、あの場にいなかったのである。

「全員が被害者か」
「なんと悪辣な」

 そう言ったところで遅い。
 作戦勝ちというよりも、よくぞそこまで悪辣な手を思いつくといったところである。

 リトワーンは報告を聞いて、各町に対して「何があっても決して城門を開けないよう」伝令を出した。

 同時に詳しい経緯をまとめ、すぐさま王都に伝令を飛ばせたのだという。

「女王陛下にお伝えせねば」
「だが、ホーリスの町だけでなく、ソウレルの町まで落ちたとなれば……」
「この大変な時期に」

 魔国のなりふり構わない侵攻によって、予想外の被害である。
 とくに人質をとって門を開けさせようとするなど、住民感情を考えれば採れない手段である。

「奴らは占領後の統治をどう考えているのか」
「いや、今はそんな話をしているヒマはない。二都市が落とされたと住民が知れば、動揺が広がる」
「だが隠しておけるはずはない」
「ただちに奪回せねば」

 なりふり構っていられないのは竜国も同じである。

「今の対応では手ぬるい」

 城の文官も武官も声を揃えてそう言い出した。


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