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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第6章 大転移-竜魔編

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 女王陛下から僕に下された指令は、「魔国王の暗殺」。
 これはかつてない規模の難易度である。正直、自信がない。

 だが、女王陛下はこう告げた。

 ――魔国王を暗殺して、この竜魔戦争に終止符を打ちなさい

 その言葉に、僕は深く頷いたのだった。
 兵や魔道使い、そして竜操者を消耗し、どちらかがこの戦に勝ったとして、だれが喜ぶのだろう。

 ただ月魔獣に対抗できる戦力を減らすだけではないか。
 そう思ってしまう。

「できる限りのバックアップをします」
「ありがとうございます。必ずや成功させてみせます」

 この未曾有の危機に、最小の被害で終わりにしたい。
 女王陛下の気持ちは僕もよく分かる。だから引き受けたのだ。



 さて、竜国に侵攻してきた魔国軍の動向だが。
 ホーリスの町を落とした以外は、いまだよく分かっていない。

 指令を受けたとはいえ、追加の情報が出るまで僕の出番はない。
 早く詳しい情報を知りたいところだ。

 いまはホーリスの町にいる〈影〉や、町を脱出した者からの話を集めることが先決だという。
 情報を吟味して、そこの魔国王がいればよし、いなければ魔国領内のどこかにいることになる。
 それを探して魔国へ潜入する必要がでてくる。

 できれば、他にも重要な情報がある。それを全て得たい。
 たとえば魔国王がどこにいるのかとか、王の周囲を守る者たちの顔ぶれとか、使える魔道はどんなだとかだ。
 そういったことを調べるため、多くの〈影〉が派遣された。

 その間僕は、ただ待っているだけでなく、王宮に滞在することになった。
 情報を得たらすぐに動けるようにだが、万一のことを考えて、女王陛下の周辺を守るためでもある。

 一年前の王宮襲撃事件は、まだ記憶に新しい。
 魔国十三階梯がふたりもやってきて、王宮内で多くの兵が死んだ。

 前回の襲撃が様子見であった可能性もある。
 いまは王城も王宮も、多くの人が出入りしている。
 会議も連日行われ、それにともない、下働きの者も連日朝から晩まで通い詰めである。

 人が入り乱れ、警備の集中力が切れた頃に暗殺者がやってくる可能性もある。
 そう言われて僕も女王陛下の護衛に加わったのだが……。

「海上の哨戒はもう少し頻度を密にした方がいいわね。その分、街道に監視の目が届かなくなるから、各町の〈影〉に注意するよう伝えてちょうだい」

 日中は女王陛下のまわりには多くの目があり、ついている護衛も多い。
 僕は夜専門だ。女王陛下が寝静まるまでの間、周辺を守っている。

 そこで分かったのだが、女王の仕事は忙しい。
 日中あれだけ多くの人と会い、書類を決裁し、難しい決断を次々と行っていたにもかかわらず、夜は夜でさまざまな報告がやってくる。

 それらすべてに的確な指示を出し、処理していく。
 今までも僕が会いに行くといつも起きていたが、これだけ多くの仕事を抱えているならば、それも頷ける。

 これほど忙しいのならば、王女殿下では到底つとまらないと思えたりする。
 真面目すぎて融通が利かないといわれている王子殿下の方が粛々と政務をこなしそうだ。
 本当に女王陛下はいつ休んでいるのか不思議だ。

「……以上かしら」
「はい。本日は以上でございます」

 僕が女王陛下の護衛について四日目。
 予定が早く終了した。

 今日こそ早く寝るのかなと思ったら、女王陛下はお茶のおかわりを要求し、部屋の隅で闇に溶けている僕の方に顔を向けた。

「ねえレオン。少し話しましょうか」
「……はっ」
 僕は闇から姿を現した。

「魔国軍はホーリスの町から動かないみたいね」
 先ほどの報告の話だ。

「あそこは城壁もしっかりしていて、拠点として使うには適した町だと思います。まずは足場を固めるつもりでしょう」

「そうよね。普段ならばそれが正解なのだけど」
 王都に報告が行った時点で、ホーリスの町は落とされていた。

 あとで分かったことだが、魔国軍は街道を使わず少数で町中に侵入していた。
 監視がおかしいと感じたころには、多くの魔国兵が町中にいたのだ。

 城壁にたどり着いた魔国軍にホーリスの町は城門を閉ざし、援軍を待つための持久戦に入った。
 だが中から呼応されたことで、大して抗うこともできず城門が開け放たれてしまい、陥落したらしい。

「他の町では監視を厳しくしたから同じことはおきないと思うけど、次は何をするのか気になるわね」

 町をひとつ占拠しただけで満足するはずがない。
 そこから王都に向けて進軍するか、周辺のかなめであるソールの町を落とすか。
 考えられる作戦としてはこの二つが有力である。

「我が国が再奪還するのは難しいでしょうか」
「町を破壊するつもりで臨めばできるわね」

 魔国軍が町中にいれば、町中が戦場になってしまう。
 軍を町から出し、どこぞの平野で決戦したとして、町に撤退されてしまえば同じである。

 魔国軍が町をほぼ無傷で手に入れた以上、竜国側が町を破壊して奪還するのは良くない。

「次の作戦目標が分かればいいのだけどね」
 今日の報告ではそれがなかった。

 いまは魔国本国から、商人が物資を町に運び入れている途中である。

 商人を襲った場合、物資がホーリスの町に届かなくなる。
 それでは住民が被害を被り、非戦闘員を襲ったことで竜国の立場が相対的に悪くなることも考えられる。

 商人たちは正式に依頼を受けて荷を運んでいるため、戦争に荷担しているというよりは、商売のため、もしくは住民の生活を向上させるために活動していると言っていい。

 魔国だけでなく、商国や技国の商人も交じっていることから、簡単に排除を決めるわけにもいかない。

 そしてまごまごしていると、周囲からホーリスの町は魔国領として認識されてしまう。
 そうなれば、そこを拠点として別の町を占拠することも可能になってくる。
 さぞかし頭の痛いことだろう。

「北の侵攻はどうなりました?」
「まだ一報が入っただけね。ソウレルの町に直接向かわず、周辺の村を襲ったようよ」

 これも摩訶不思議なことであるが、部隊をいくつかに分けて、周辺の村々を襲ったようだ。
 そして村にいる人を攫ったと報告があった。

 周辺の村にも警戒命令は出ていたが、村民は避難していなかった。
 月明かりのない夜中に移動し、みな寝静まった村に襲撃をかけたことが分かっている。

 村が襲われたことで、「認識が甘かったのでは?」と言う者も出たが、これまで村が標的にされたことはなく、全ての村人を避難させる場所もない。

 せめてもの幸いは、魔国軍の奇襲だったことと、村人が素直に従ったことで被害が少なかったことだろうか。

「たしかに村へも斥候を出していました。まさかそのためだったとは……」

 各町だけでなく、村々へも斥候部隊を出していた。
 そのことはリトワーン卿や女王陛下にも報告してあった。

 ただ、目標がソウレルの町と聞いていたので、僕も村のことは重要視していなかった。
 まさか、最初に狙ってくるとは思わなかったのだ。

「北方の侵攻については報告が遅れているわね。それでもリトワーンがなんとかするでしょう」

 南方はすでにホーリスの町が落とされており、北方は逆に村が狙われた。
 大きな戦略のひとつとして今回の襲撃がある場合、理由が分からない以上、動きの違いについては十分注意しておいた方がいい。

「魔国王の居場所はいまだ分かりませんか?」

 そして僕がここにいる理由。
 魔国王の居場所がまだ特定できていないのだ。

「ホーリスの町には王旗が翻っているのは確認されているわ。けど、それだけで王がいるかは分からないでしょう?」

「はい。王旗ならば、王族が使用可能ですし」

 王族のだれかが出陣すれば王旗が使われる。
 ホーリスの町に王族のだれかがいるのは確実であるが、魔国王かまでは分からない。

〈影〉からの報告がないのは、そこまでたどり着けていないからだろう。
 追加の報告が待ち遠しい。


拙作をお読みいただき、ありがとうございます。
連載開始以来1日も休まず投稿していたら、いつの間にか482話になりました。
6月16日にちょうど500話を迎えるようです。応援ありがとうございます。
また、書籍版は6月23日発売です。
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