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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第6章 大転移-竜魔編

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 リトワーン卿の言葉を聞いて、僕はすぐに理解した。
「僕の言葉が信用できない……もしくは正確ではないかもしれないからですか?」

 リトワーン卿が兵を出さない理由は、いくつも思い浮かぶ。
 僕が嘘を付いていると思ったわけではなかろうが、偽の情報を掴まされたか、この町が敵に監視されていて、利用するためにわざと流した情報など。

「そういう理由ももちろんある。だけど、別の理由もね、あるんだ」
「別の理由ですか?」

「月魔獣のせいで、町の防衛戦力が激減しているのさ。だから兵の運用は慎重にならざるを得ない」
 ウルスの町は、衛星都市と付近の村を合わせると、かなりの数になる。
 月魔獣の大量降下によって、戦力が町や村に散っている。

「それでも魔国が攻めてきたら、町の防衛には向かいますよね」
「もちろんだ。それ以前に飛竜による偵察を出すつもりだよ」

 竜国と魔国の国境付近は、林が多い。
 人の行き来は街道を使う。よって本来は、そこを監視しているだけで事は足りた。

「盆地の林の中に拠点を置いていました。進軍も林を突っ切ってくるかもしれません」

 ソウレルの町もまた、周辺は林に囲まれている。
 月魔獣が簡単にやってこれないように、わざと自然を残しているのだ。

「軍を指揮するのはエーラーン・ハイドン将軍か。彼は一流の指揮官で、一筋縄でいかない御仁だよ」

 リトワーン卿はニヒルに笑った。
 両者は何度となく矛を交えてきた好敵手どうしであるらしい。
 僕には分からないが、すでに策の読みあいが始まっているのかもしれない。

「お伝えできることは以上です。僕はこのあと王都に戻らねばなりませんので」
 言うべき事は言った。あとは帰るだけだ。

「情報提供を感謝するよ」
 リトワーン卿は立ち上がり、握手を求めてきた。

「……そういえば、キミの騎竜だけど」
 とリトワーン卿は、何かを思い出したように言った。

「部下のから報告によると、酷い怪我を負ったようだけど、飛行は大丈夫なのかい?」
「ゆっくり飛んで帰ります」

「そうか……ちなみにどこであのような怪我を負ったのかな? もしこの町の近くに脅威があるのならば、対処しなければならないからね」

「シャラザードが怪我を負ったのは首都です……魔国の」
 そう告げたとき、リトワーン卿の眉がピクリと動いた。

 もっとも、シャラザードが怪我をした戦いでは、僕は同乗していなかったのだけど、それは話していない。

 こうして僕は、ウルスの町を離れて、王都を目指した。

               ○

 レオンが退出したあと、リトワーンは机上に広げた地図をしばらく凝視していた。
「……分からないか」

 副官がお茶を持って部屋に入ってきたのにも気づかず、じっと注視している。
「どうなさいました?」

 さすがにここまで集中するのはおかしい。そう思った副官がおずおずと話しかけると、リトワーンはようやく顔をあげた。

「……ちょっと考えごとをね」
 地図に置かれた石の小片を見て、副官が首を傾げる。
「戦争ですか?」

 白石と黒石が置かれているが、通常これらは自軍と敵軍に見立てている。
 地図の上にそれがあるということは、戦争中か、これから戦争が始まるかだ。

「戦争……かな。さっきの青年が話を持ってきてね」
「救国の英雄……ですよね」

「そうだね。彼がいうには、ハイドン将軍がソウレルの町に攻め上ってくるらしい」

「!? でしたらすぐに防護体勢を調えなければなりませんね」

「うん。だけど老将軍のことだ。それがブラフの可能性もあるし、攻めるのは本当でも、場所が違うかもしれない。そもそも通常の状態ですら、城塞都市を攻め落とすのは難しいんだ」

「そうですね。それがどうしてこんな時期に……」

 大転移がはじまり、ウルスの町の防衛力が下がっている。単純に戦争に回す兵がいないのだ。
 だがそれは魔国も同じで、他国に攻め入る余裕などないはずなのだ。

「それに兵の構成もおかしい。陣に魔道使いがいないのも変だし、民間人を抱え込んでいたりする。そして攻めるのはソウレルの町って……将軍が何を考えているのかが分からないね」

「自棄になったとかでは……」
「それはないだろうね」
「でしたら、どこかで、もしくは何かで勝算があると判断したのだと思いますけど」

「そう。そう判断するしかないのだけど、私ならこれは自殺と変わらない。つまり実行しない作戦だ」
 敵は林の中を進み、見つからずに進軍するつもりだろう。

 たしかにいま、国境線を警戒する余裕はないし、移動を夜のみに限定すれば、かなり近いところまで見つからずに進むことができる。

 だがそれだけで町が落ちるはずがない。そして、それを知らない将軍ではないとリトワーンは考えている。

 そこまで判断がいくからこそ、レオンの話を聞いて、違和感が拭えなかったといえる。

「それでね、もうひとつ気になることがあるんだ」
「なんでしょうか?」

「今回の作戦って、だれがゴーサインをだしたのかなと」
「……あっ」

 リトワーンが気にしているのはそこ。
 これがハイドン将軍の独断ならば「血迷った」可能性も僅かながら存在する。
 だがもし、これが魔国王の指示だったら?

「将軍は忠義の志だ。独断専行するような人物ではないし、勝算のない戦いをするほど考え無しでもない。私はね、もし将軍が動いたのならば、そこに魔国王の指示があったと思うのさ。ではその指示ってなんだろう?」

 リトワーンが考えていたのはそこであり、その答えが出ていないからこそ、先ほどからじっと地図を見ていたのである。

「魔国王が何を狙っているかですか?」
「そう、もしかするとこれは、この町周辺ではなく、もっと大きな流れの中の一場面ではないかと考えているんだ」

 リトワーンが答えを出せないのは、もっと大きな視野。つまり国家的な思惑について考えを巡らせていないからだと判断した。

「それで防衛はどうされるのですか?」

「戦力ダウンになってしまうけど、飛竜の編隊を使って敵影だけでも発見しようと思う。そこから先は……場当たり的だけど、敵の動きをみてから考えるかな。総力戦を仕掛けてきたのか、様子見なのか、玉砕なのか……それとも」

 メリットのない戦いを仕掛ける魔国軍に対して、リトワーンは対応できる幅を増やせるよう、頭を巡らすのであった。


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