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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第1章 魔国蠢動編

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「手紙を頂戴とお願いしたつもりだったのだけど」

 石造りが立派な高級レストランの個室。
 いま、僕の目の前で迫力のある笑みを浮かべているのは、王立学校の一年生リンダ・ルッケナ。

 僕の幼なじみだ。幼なじみだよな。
 こんな怖い笑顔、初めて見るけど。

 リンダとは、ひょんなことから入学式の日に、屋上のテラスで再会した。
 そのとき、僕からリンダへ手紙を出すように頼まれていた。

 キレイさっぱり忘れていたわけだが。

 僕が王立学校のリンダ宛に手紙を出す。
 学校経由でリンダの元に手紙が届けば、リンダが返事を書けるシステムになっている。

 リンダが書いた返事は、学校がちゃんと僕宛に届けてくれる。
 学校を通さずに手紙を出しても門前払いを食らうと、あの時リンダはわざわざ伝えてくれた。

 業を煮やしたリンダが、僕宛に花を注文した。あれなら返信のいらないただの届け物だから、リンダからでも送れる。

「いやー、突然花が届いて驚いたよ」

 持ってきたのはもちろんシルルお姉さん。
 しかも渡すときに、「なんかすごく怒ってたわよ、なにをしたの?」と小声で囁いてくれた。

 メッセージカードには名前のみ。これは規則でそうなっている。
 リンダの名前を見て、僕の顔は青くなったと思う。

 しばらくプリプリと怒っていたリンダは、このままじゃラチが明かないと悟ったのか、用件を切り出した。

「来月の顔合わせ会だけど、私、選考からもれちゃったのよ」
「顔合わせ会?」

 なんだそれは。

「知らないの?」
「忙しかったから……」

「呆れた。まあ、その方が私にとってもいいのだけど」

 リンダの説明によると、一年間に五回、王立学校と竜の学院の生徒による顔合わせ会が行われるらしい。
 多いよな、五回って。

 しかも竜の学院側の出席者は一回生のみ。ということは、二十七名か。
 二回生は訓練が忙しいので、年間五回とはいえ、厳しいのだろう。

「それで選考にもれたっていうのは?」

「私たち一年から三年生まで、毎回希望者の中からたった三百名だけが選抜されるの。三学年で千五百人もいるのよ。希望者は多いわ。今回、その抽選のくじに外れちゃったわけ」

 たった三百人というが、僕たち一回生の十倍以上だ。
 もしかして茶話会と同じような感じだろうか。やだな。

 僕の気持ちが顔に出たのか、リンダはニンマリと笑ってから、僕に身体を寄せてきた。
「というわけで、顔合わせ会に出ない……のは無理だけど、最初の挨拶だけ済ませたら、抜けてほしいのよ」

 パトロンを決めるのに入学式の茶話会や、今回の顔合わせ会のように、入学間もないころから顔と名前を売っておいた方が何かと有利なため、参加率というか、競争率が高くなるのだそうな。

 それに漏れたリンダは、僕に他の生徒と近づかないでくれと言いたいらしい。
 リンダってこんな性格だったか? ちょっと関係をかいしょ……睨まないでくれる?

 僕だって狩りの獲物には、なりたくない。
 でもリンダの積極性は、このまえ以上だよな。

「なんか不思議そうな顔ね」
「そう見える?」

「まあね。私はもともとパトロンに立候補するつもりはなかったわけだし」
 そう、あのときテラスで会ったのはそういう意味だったはずだ。
 接待係にも茶話会の準備にも出ていなかった。

「けど、パパがね。すごく乗り気なのよ」

 何にとは聞かない。
 すでに一回生全員の名前と出身地は、広く知れ渡っている。

 広める気がなくても、こういうのは広まるものだ。

 リンダの父親が僕のことを覚えている可能性は高い。
 というか、間違いなく覚えている。

 名前と出身地が同じならば、すぐに人をやって調べさせたはずだ。
 実家に直接聞きにいったかもしれない。

 どちらにしろ、確証を得たことは間違いない。

「私も、レオンくんのパトロンならいいなって思うし。というか、パパがもう、目を血走らせて聞いてくるのよ。どこまでいったって……まったくバカなんだから」

 横を向いてつぶやくように話しはじめた。

「急にわたしの口座に入金額を増やしてきて、これで美味しいものでも食べに行きなさいとか、何が好みなんだ。プレゼントはマメに贈った方がいいだとか。……そもそも、指定の業者以外、受け付けてないでしょうに」

 憤懣ふんまんやるかたないようで、リンダはしばらく愚痴を言い続けた。
 でもあれだよ。行き過ぎた供応きょうおうは禁止されているからね。

「それで僕に顔合わせ会に参加しないようにって?」

「それは私の判断。たぶんこの一回目の顔合わせ会の情報は、参加した人たちからいろいろ伝わると思うのよね。だれそれとだれそれが親しげに話をしたとか」

「そこまでなんだ」

「学院生は普段から外に出てくることがないでしょ。いろいろ注目されているのよ」
「なるほど」

 入寮のさい、昼食は外で好きに食べていいと言われたが、それを信じて制服のまま門から出ていった一回生たちは、いろんな思いを抱いて戻ってきた。

 制服がヨレヨレになっている者もいたし、二度と門の外へ出なくなった者もいた。
 何人かが犠牲となって一回生も学び、みな外へ出るときは私服を着るようになった。

 尊い犠牲に感謝だ。ありがとう。

 そのうち、クラスメイトたちだって王都の中心部へ行くこともある。
 早めに分かって良かったと思うが、その前に外への関心をなくした者もいる。

「まあいいよ。僕はそういう会には出る気もないし」
「そう。良かったわ。どんどん注文して。ここは私のおごりだから」

「ああ、十分頂いているよ」
 途端に機嫌がよくなったリンダに、僕は苦笑を禁じ得なかった。

 顔合わせ会が五回……そんなのをカリキュラムに入れてくるあたり、竜国の本気度が伝わってくる。

 他国に持って行かれたくないのだろう。

「それにしても五回……」

 マジで静かに暮らしたいのだけど……泣いていいだろうか。


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