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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第6章 大転移-竜魔編

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 昨日忍び込んだ丸太小屋に再び向かう。
「おっと……中に気配があるな」

 闇に潜ったままそっと中に入り、そのまま二階部分の屋根裏にあがった。
 すでに会議が始まっているらしいので、聞き耳をたてる。

「まだ聞いていない者もいたかもしれんので、もう一度伝える。昼間、全ての斥候部隊が戻ってきた」

「おおっ!」
「ではついに決行ですか」
「うむ」

 この話が出るまで魔国の情勢についてなど、関係のない話が続いていた。
 ここからが本題のようだ。

 声からすると、話しているのは昨日の老人、エーラーン・ハイドン将軍だろう。

 昨日の倍……おそらく関係する士官全員が集められたのだろう。
 次々に担当している者からの報告があがる。

「天候はこのまま続きそうです。兵の体力も決行に問題ありません」
「そうか。準備に漏れはないか?」

「大丈夫です」
「うむ、よろしい。次は……」

 様々な確認事項が続いている。どうやら本当に出発のときは近いらしい。

「それで目的地はどこに決まったのでしょうか」
 若い声が聞こえてきた。

「明日発表する予定であるので、いまだここだけに留めてほしい。斥候部隊の報告から総合的に判断して、目的地をソウレルの町に決めた」

「ソウレルの町ですか……距離はここから少しありますね」

「そうじゃが、この付近ではあそこが一番攻めやすい。城門にとりつきやすいという意味でだが」
「分かりました。明日まで胸に秘しておきます」

 ソウレルの町に攻め込むのか。

「あそこは陰月の路に近いのが気にかかりますね。道中襲われると、計画が大幅に狂うことになります」

「うむ、たしかにその懸念はある。よってルートを慎重に選ばねばならない。そして事前にいくら調べても、その通りにはいけんものだ。斥候を多く放つことになるだろう」

「はい。問題ありません」
「うむ」

 その後も細々とした確認をしているようで、僕が聞いても分かる話と分からない話が出てきた。

「第二隊と第三隊はいつ頃出発させますか?」
「連絡員はすでに向かわせてある。合流地点の変更はないゆえ、そこで落ち合えるはずだ」

 ……ん? ここの陣にいるのが全員ではないのか?
 たしかに一都市を攻めるには少ないとは思った。

 民間人を入れても数千人。
 攻めるにはなにかの搦め手でも必要だろうと思っていたのだけど、他にも隠れている部隊がいるようだ。

「……これ、竜国側は把握しているのかな」
 ただでさえ大転移で竜操者が出払ってしまっているし、隣国の情勢が気に掛かるとはいえ、優先順位を落としているかもしれない。

「兵には明日の朝、伝達するように。その後出発する。いいな」
「「ハッ!!」」

「よし、解散する」
 会議は終わった。みな出ていって、丸太小屋は完全に無人になった。

 僕は屋根裏に留まり、考える。
 ……これ、王都に戻って報告していたら間に合わないな。

 国外での任務であるため、女王陛下からいくつかの権限は与えられている。

 ただし、交戦権は持たされていない。
 シャラザードでこの陣を強襲とかはできない。
 闇に紛れて次々と暗殺も……やはり止められている。

「まあ、それはさすがにしないけど」

 明日の朝出発と言っていたし、僕ができるのはウルスの町に知らせて、対策してもらうことくらいか。
 報告をしなかったばかりに、数百、数千人の命が失われる可能性もある。ここは適当に済ませるわけにもいかない。

「問題はどこで切り上げるかだけど」
 シャラザードの巨体は日中だとかなり目立つ。

 明日まで情報を集めてから夜に移動……では間に合わないかもしれない。
「仕方ない。いまから戻るか」

 ギリギリまで粘って情報を集めたい気持ちもあるが、時間を考えるとそれは難しそうだ。
 僕は闇に溶けたまま、陣地を抜け出した。



 闇の中をしばらく進み、森を抜けた。
「えっと、別れる前にシャラザードと約束していたから……」

 目のいいシャラザードは、遠くからでもいろいろ視認できる。
 姿を見られないように隠れていろと伝えていたので、このあたりにはいないだろう。
 僕はこの周辺で、一番高い場所に向かった。

「……ここでいいかな」
 岩山の頂上に着いた。
 ここで火を焚けば、揺らめく炎をシャラザードが見つけてくれる。

 煙がのぼると誰かに気づかれることもあるので、完全に乾燥しきった枯れ枝を使う。
 煙が出なければ下から見えないし、問題ないだろう。

 大きな炎を燃やして待つことしばし。

「……おっ、来たな」

 空の彼方からシャラザードの巨体が近づいてきた。
 だが少しおかしい。

「……ん?」

 エイダノとカイダのふたつの月が出ているため、よく目を凝らせばシャラザードの身体は僕でも視認できる。

 だけど違和感がある。というのも飛び方が少し変なのだ。
「まあいいか」

 僕は焚き火の炎を消す作業に入った。
 シャラザードは上空を数度旋回したあとすぐそばに着地した。

「……シャラザード、おまえっ!」

 間近で見ておどろいた。

『主よ、早かったな』
「早かったなじゃねーよ。なんだよ、それっ!」

『な、なんのことだ? わ、我にはさっぱり分からんな』
 シャラザードは横を向いて、僕と目を合わせようとしない。

 いや、しないというよりできないのだ。
 なにしろ、シャラザードには片眼が潰れていた。

 身体が黒色なので気づきにくいが、身体のあちこちから血が流れて固まっている。
 翼も一部が裂けている。

 それだけではない。
「おまえ、身体に穴が開いているじゃないか! どうしたんだよ」
『イメチェン?』

「そんなイメチェンあるかっ!」

『少し涼しくなるかと思ってな』
「嘘つくな! ……というか、後ろ足に持っているそれ、月晶石だろ。おまえ、月魔獣と戦っていたのか?」

 それは見たこともない大きさだった。
 大型種よりももっと大きいものが二つ。

 シャラザードはこれをどこで手に入れたのだろう。
 いやそもそも……。

「おまえまさか……魔国の首都へ行ったのか?」

 後ろ足で掴んでいる二つの月晶石は、ほぼ同じ大きさ。
 そんなものがそこらへんの月魔獣が持っているはずがない。

 そしてこの傷痕。
 シャラザードをこんなにまで痛めつけるような存在といえば思いつくのはひとつ。

『なあに次は倒す』
「やっぱり行ったんじゃねーかっ!」

 あろうことか、支配種と戦いやがった。


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