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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第6章 大転移-竜魔編

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 情報を得るためにも、民間人と接触したい。
 ただし、僕の顔や姿は見られたくない。というか、竜国の関係者だと思われるのはよくない気がする。

 かといって会話が成立しないことには、情報を引き出せない。
 相手に信用されつつこちらの情報を与えない。

 そんな都合のよい方法があるか考えたのだ。
 最初は、闇に潜ったまま話しかけようかと思ったが、さすがにそれは怪しすぎる。
 というわけで……。

「……ここはどこだ?」

 考えに考え抜いた方法がコレ。
 闇の中から人形を取り出し、その真下から声を出した。

「あ、あんたは魔道使いか?」
「そうだ……ふむ、ここは暗くてよく見えないな」

「ああ、灯りをもらえなかったんだ」
「ん? いまどこにいるのだ」

「ここは魔国軍の前線基地だ。といっても木の柵があるだけの簡易陣地だがな」
「前線基地……するとおまえは軍人か?」

「オレは……いや、オレたちはただの民間人だ」
「複数いるのか。暗くて見えないが、何か事情がありそうだな」

「実は捕まっている……そのまえに聞きたい。あんたは何者だ? 魔道使いだってのは分かるんだが」
「わたしはシャドウ。かりそめの人形を使って外の世界を見聞きする、ただの魔道使いだ」

 僕が考えたのは、事情を知らずに来てしまったけど、ここはどこ? あなたはだれ? 作戦だ。

 これならば最低限の話だけ作っておけば、あとは勝手に想像してくれる。

「するとシャドウは、ここにいないのか?」
「ああ、わたしの身体は遠く離れたところにある。……もっとも足を動かせないからこそかたしろをここまで飛ばせたわけであるが……それよりも先ほどの話だ。ただの民間人がどうして軍の陣地に? そしてなぜ捕まっている?」

 魔道とは願望の発露。
 こう言っておけば、あまり本体について詮索してこないはず。

「捕まったというのは逃げ出したからだが、もともとオレたちは連れてこられたんだ」
 そして語られた内容は、僕が思ってもみないものだった。

 魔国にある多くの町が、大転移の影響を受ける。
 竜国と違って、魔国は町にやってきた月魔獣だけを相手にしている。

 ゆえに月魔獣の行動範囲にある町には魔道使いが配備され、日々防衛に努めている。
 そう、通常ならばいまも魔道使いが防衛に寄与しているはずだったのだ。

 だが、いま魔道使いの絶対数が足らないらしい。

「……他国への侵攻作戦の影響か」

「そうだ。一人、また一人と魔道使いたちが町から連れ出されていった。その後大転移がおきたから、防衛する者がいなくなってしまった」

 不安に怯えて暮らしていると、兵がやってきて、集中して防衛するから町を捨てて来いと言ったという。
 話は分かる。五十の町を守るより、半分の二十五の町を守る方が戦力を集中させやすい。

 ほぼ強制だったため、家財一式を担いで軍についていったらしい。

 つまり僕が天幕で見つけたあの物資。
 あれは手に持てるだけを選別して、彼らが抱えてここまでやってきたものらしい。

「そういえば先ほどここは陣地と言ったな。町には入らんのか?」

「町に収容できる数には限界があったんだ。それで不公平にならないように各町の出身者を均等に選んで、町を出ていくことになったんだ」

 なるほど。いろいろと説明はついた。
 もちろんこの話だけで判断するのは危険だが、ここに月魔獣用の鉄柵がないのは、町でも使うからだろう。

 そしてわざわざ苦労して民間人の物資を運び込んだ理由も分かった。
 さすがに故郷を捨てさせた上で、手荷物まで捨ててしまったら反発は必至だ。

「それでおまえたちはここで何をしているのだ?」
「日中は陣地の強化だ……オレたちは捕まったので、それには参加していないが」

「先ほども捕まったと言っていたな。ここから逃げたのか?」
「ああ……あいつらは何かおかしい。何か重大なものを隠しているんだ。何なのか分からないが、それを町に戻って知らせようとしたが、脱出の途中で見つかって連れ戻された」

「あいつらとは、兵のことか? それが何かを隠しているというのか?」

「兵たちというより、その上層部だな。彼らは別の目的で動いている。一緒に暮らせばなんとなく分かるんだ。兵たちもおかしいと思っているのは大勢いた。だけど一般兵は上官には逆らえない。おかしいと思っても従うしかないんだ」

「もう少し具体的に教えてくれれば、アドバイスできるかもしれんぞ。そのおかしいというのは、何だ?」

「ひとつひとつは小さなことだ。たとえば、わざと町から持ち出す食糧を少なくしたり、他の町に寄らず、それどころか避けて移動したり……他にも上層部同士が仲違いして分裂した。だけど思い返してみると、あれも最初から分かってやっていたんじゃないかって思う」

「ほう。どうしてだ?」
「兵も民間人も綺麗に別れていたからだ。まるで最初から出て行くことが決められていたみたいに……俺たちを振り分ける段階で、そう配分したんじゃないかとオレは考えた」

 その他、陣地の中でのふるまいや、ときおり兵がもらすこれからの予定などから違和感を感じたらしい。

「それでおまえたちが希望すれば、いま話した内容を町に伝える事も可能だぞ」
「シャドウはどの町に住んでいるんだ?」

「それは話すことはできないな」
「そうか……ちょっと待ってくれ」

 男たちは相談して、ひとつの結論を出した。

「話はまとまった。この現状を訴えて、何とかしてもらおうと考えたが、これがオレたちの考えた通りならば無駄だろう。上官同士で話がついているような気がする。それに伝わったところでもう、町に帰れるわけではないしな。少しでもよくなればと思って行動したが、オレたちはこのままついていくしか道がなさそうだ。やめておくよ」

「そうか……他に何か頼みがあれば聞くぞ。出来る範囲だが」

「陛下の……陛下がいまどうしているか知っていたならば教えてくれ。こんなオレたちでもやはり、魔国の民なんだ。陛下の安否が気になる」

 えーっと、この前リンダに会ったときに少しだけ教えてもらったな。

「陛下は商国の西の都を占領し、いまは魔国領へ戻っておられる。どの町に滞在しているかまでは分からない」

「ありがとう、十分だ」
「そうか。ではさらばだ」

 僕は木彫りの人形を闇の中に落とし、その場を離れた。
 途中天幕に寄って、人形を元の場所に戻す。

 およそのことは分かったけど、将官の思惑までは分からなかった。

 それと魔道使いがここにいない理由。
 みんな都市に置いてきたわけか。なんて無謀な。

 あとは将官たちの情報だけど……さてどうやって調べるか。

 できればこの民間人たち。
 なんとか助けることができないだろうか。
 上官の思惑に振り回されている気がする。

 持てるだけの家財道具を持って、町を離れてこんなところで半分監視されながら暮らしているなんて。

 それを含めて、この行動理由を知りたいな。

 僕は闇に溶けたまま、昨日の小屋に向かった。


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