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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第6章 大転移-竜魔編

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 僕は次々と天幕を調べた。

 これまで僕は、〈影〉として多くの建物に潜入してきた。
 そこで証拠となるものを探したり、隠しているものを見つけ出してきた。

 その経験から「ここが怪しい」とか「これは違う」というものを感覚的に見分けてきた。
 なにしろ、一度や二度の潜入で全てを漁ることはできないのだから。

「うーん、おかしいな」
 いくつかの天幕を調べたが、やはりおかしい。

 これまでの経験からすると、あるものがなくて、ないものがある。
 この違和感は見逃さない方がいいと、僕の勘が告げている。

 違和感の一つ目は、アレがないことだ。
「やはりおかしい。月魔獣対策がなにもなされていない」

 陰月の路からやや離れているとはいえ、陣に何も持ち込んでいないのは変だ。
 隊商が月魔獣と出会った場合、荷物を捨てて一目散に逃げる。

 そのため、複数の馬を用意している。
 月魔獣から走って逃げ切れるものではないのだから、そのような準備は妥当であろう。

 では軍隊はどうかというと、大勢で囲んで倒すか、月魔獣の足止めをする事が多い。
 魔国の場合、軍が足止めをして魔道使いが倒す。
 もしくは町の防壁を使って持久戦で倒す。

 それらに必要なのは鉄柵などだ。

「なぜそれらがひとつもないんだ?」

 僕が感じた違和感の正体。彼らは月魔獣対策を一切していない。
 魔道使いがいないのもそのせいだろうか。

 鉄製の柵は月魔獣の足止めにはかなり有効だが、移動時にかさばる、
 重量も相当なものだが、それで命が助かるのならば、持ちこまない道理はない。

「馬はそれなりにいるけど、全員が乗って逃げられるほどじゃない」

 結局考えたけど、対策をしない理由は分からなかった。
 絶対に月魔獣と遭遇しないと(あまりに無謀な判断だが)考えたのかもしれない。

「だけどこれじゃあ、何かあっても陰月の路近くへは絶対に逃げられないよな」

 この準備不足。ウルスの町に何度も攻め上がったハイドン将軍とは思えない杜撰さだ。

 そして僕が違和感を抱いた二つ目。

「……なんだってこんなものがあるんだ?」
 おかしい。絶対におかしい。将軍は何を考えているんだろうか。

 僕は天幕を抜け出して昨日入らなかった丸太小屋に行ってみた。
 備蓄された食糧はいいとして、まだ他にあったよな。

 倉庫として使われている小屋に入って、物色する。
「……やっぱりだ。月魔獣対策の一切合切がなくて、なんでこんなものがあるんだ!?」

 それは民間人のものと思われる私物であった。
 家財道具一式とは言わないが、どう考えても戦争をするには必要のないもの。
 わざわざここの陣に持ち込む必要がないもの。

 まったくもって意味が分からなかった。

「これは作戦変更だな。多少見つかる危険があるけど、民間人と接触しよう。そうしないと、何も分からない」

 この陣には、あるものがなく、ないものがある。
 あまりに異質なこの状況に対する合理的な説明を僕は欲していた。

               ○

 たき火を囲んで話している男たちがいる。
 毎日の事なのか、男たちの顔にはリラックスした雰囲気がみてとれた。

「くっそー、痛てえ。身体中が痛いぜ」
「オレもだ。全身筋肉痛だぞ。まったく」

「普段から外で働いていた連中はまだ余裕あるようだけど、おれは事務職だったんだ。なのに、毎日木を切らされて……」
「なあ、おまえはどこの出身だ?」

「ケイファードだ。天蓋山脈の麓から連れてこられたけど、仲間たちはみんなアッチについて行ってしまった。そっちは?」

「オレはクルフォンスから来た。向こうに行った連中だって幸せかどうか分からねえぜ」
「そうなのか?」

「逃げる場所っていやぁ、北の方角しかねえ。……ってことは、月魔獣がバンバン出るところを突っ切ることになる。どれだけ生き残れるんだか」

「そうか。知り合いの多くがあっちなんだよな……無事かなぁ」

「ここの兵も最近は殺気だっているしな。明日は我が身かもしれねえぜ。なにしろ、昨日脱走した連中の顔を見たか?」

「ああ。ずいぶんと腫らしていたな」
「拘束は解かれたようだけど、さっき小屋のひとつに入れられたらしい。反抗するとオレたちも同じ目に遭うだろうぜ。大人しくしているのが一番だ」

「そうだな。イテテテ……身体を動かすと激痛が走る。明日は大丈夫かな」
「おい、今日は早く寝た方が良いぜ」

「情報交換できるのはこの時間帯しかないんだが……明日に響きそうだな、そうするよ」

「……オレも寝るかな。おまえたちはどうする?」
「ああ……」
「そうだな」

 そんな言葉が引き金になったのか、たき火を囲んでいた男たちがゆっくりと立ち上がった。

 その様子を闇の中でじっと見ていたレオンは、音も立てずにその場を離れた。

               ○

 民間人と接触しようと思って様子を窺っていたら、いい話が聞けた。
 僕が潜入しにきたときに捕まった男たちが小屋に押し込められているらしい。

 彼らが味方してくれるか分からないが、接触する価値はあるだろう。

 闇に潜ったまま小屋の中にはいる。
 何もない部屋の中には、毛布一枚だけ与えられ、蹲ったままの男が三人いた。

 僕は姿を見せたくないので、このまま話かける。

「……オイ」
 小声で一人の耳元で囁く。男はピクリと動き、頭をあげた。

「いま俺を呼んだか?」
「あっ?」
「なに言ってんだ?」
「……い、いや、違うのならいい」

「……オイ」
 男はガバッと起き上がった。

「だれかが俺に話しかけている」
「おいおい……」
「頭でも打ったか?」

「いや違うんだって。話しかけられたんだよ」
「…………」
「信じてねえな。本当だって」

 頃合いを見計らって、僕は木彫りの人形を床に出現させた。
 天幕の中にある私物を漁っているときに見つけたものだ。

 床に突然現れたそれを男三人が凝視する。

 あれは魔国でよく売られているお土産用のひとつ。
 だれしも一度は見たことあるだろう。

 僕はその真下から声を出す。

「ここはどこだ?」

「……ま、魔道使いか?」
 僕の問いかけに、そういう答えが返ってきた。

 さあて、演技をして情報を引き出そうか。


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