挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第6章 大転移-竜魔編

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

475/657

474

 僕が丸太小屋の二階に隠れていると、下が騒がしくなった。
 ここが会議室とあたりをつけていたが、どうやら正解だったようだ。

「第三と第七の斥候部隊が今朝方、帰還しました」
「それで状況はどうじゃ? そうじゃな、第三斥候部隊の話から聞くとしよう」

 最初に聞こえたのは若い声。
 対して、もうひとりはかなり高齢のようだ。

「報告します。ダルーの町はかなり警戒されているようです。城門は常時閉ざされて、中に入るのも一苦労でした。頻繁に竜の出入りがあり、周囲を巡回する兵の数も通常より多く見られているとのことです」

「ふむ……戦力を集中させているのは町から陰月の路が近いからであろうな。もうひとつはどうじゃ?」

「ソウレルの町は比較的動きが少なく、竜の出入りもあまりありません。ただし、城門はこちらも閉ざされたままです」

「そうか。兵の動きはどうじゃ?」
「さほど活発ではありません。城外での演習を見ますと、練度は高いように見受けられます」

「なるほど……ダルトン、第二斥候隊はまだ戻らんか?」
「距離的にはもう帰還してもよい頃ですが、向かった先がウルスの町ですから、有益な情報が得られず、いまだ竜国領にいるのかもしれません」

「そうかもしれんな。あそこが作戦の肝となろう。早めに情報がほしいところじゃが」

 話に出た町は、みなウルスの町とその衛星都市の名前だ。
 この急戦派たちの会話からすると、竜国に侵攻するつもりらしいけど、ここの戦力だけで落とせるほど都市は甘くない。
 彼らはそんなことも分からないのか。

「よし。では第七斥候部隊の話を聞こうか」
「報告します。向かいましたヨミナの村、イリギスの村、サジェンの村ですが、村内の状況は……」
 このあとも報告が続いた。

 斥候部隊を使って、竜国内の町や村をつぶさに調べているようだ。

 竜や人の数だけでなく、町中の動きや他の町とのつながり、備蓄の量、商人の出入りなども調査報告に入っていた。

 口ぶりからすると、過去すでに調べがついていて、この大転移でどう変わったのか、もしくは変わってないのかを確認しているようだった。

 気配を消して僕が聞き耳を立てていると、人が出入りする音がして、階下の人数が半分程度に減った。

「ダルトンよ、わしは攻めるならばこことここが良いと考える。お主はどう思う?」

「エーラーン将軍のいう通りかと。周辺状況から援軍の到着が遅れるであろうこの二カ所は、まさに今回の作戦にうってつけかと思います」

「問題は城門であろうな。竜国側は当然開いているであろうが、我が国側は閉じておるようだ。都市を迂回して竜国側から攻めるには……」

「迂回したところで城門にとりつく前に見つかる可能性が高いでしょうね。どのみち閉められれば同じです」

「であるならば、中から開けるしかないか」

 どうやら地図を広げて話しているようで、どの町を候補にあげたのか、僕には分からなかった。

 ただ、何をしたいのかは理解した。彼らを急戦派というだけのことはある。
 竜国にすぐにでも攻め込むつもりだ。

「兵たちにあのことをいつ伝えるのですか?」
 幾分、声が潜められた。

「作戦決行前夜でよかろう。今はまだ秘しておくのじゃ」
「……分かりました」

「かわりに民間人たちを少し脅しておくがよい……そうだな、何人か選んで怪我の二つ、三つも付ければよかろう」
「そうですね。すぐ手配させます」

「……他になにかあるかな」
「そういえば、備蓄が少々心許なくなってきました」

「うむ……必要量しか持って来なかったからのう。決行時には民間人に背負わせておけ。残はどのくらいじゃ?」

「通常使いで十日分と少々でしょうか。本日から減らしていけば二十日以上は持つと思いますが」

「いや、通常通りでよい。どうせそう長いことはかからんじゃろ。決行は斥候部隊が全て戻ってきたときじゃ」
「はっ、かしこまりました。怠りなく準備致します」



 その後も簡単な確認をしたあと、下の気配がなくなった。
 一部、僕が聞いても話の分からないところがあった。
 ただ、戦を仕掛ける準備をしているのだけは分かる。

 夜にいろいろ調査してみよう。
 そう考えて、僕は屋根裏の暗がりで仮眠して、じっと時を待った。

 今回の潜入任務は、通常と大きく違う。
 陣に出入りするような商人もいなければ、陣から出て行く者もいない。

 人に聞いて情報を集めようにも、気軽に接触できるような人材が皆無なのだ。
「これは困ったな」

 資料を漁ることはできるが、裏付けとなる証言は得られそうもない。
 捕まった民間人がいたが、彼らと接触した場合、秘密を保持してくれるのか甚だ心許ない。

 兵に恨みを持っている者がいるが、彼らは魔国人であり、魔国の不利益になることに非協力的であるかもしれないのだ。

「逃がしてやるから……と誘った場合どうだろう」

 確実に逃がしてくれるかどうか信用してくれるかどうかだな。乗ってこないかもしれない。
 うん、声かけは最後の手段にしよう。

 まずはいつもの捜し物といくか。

 夜のとばりがおりた中を僕は移動する。
 闇に溶けた僕に移動できない場所はない。

 ひとつひとつ天幕を見て回り、重要そうな場所に目星をつけた。
「外はまだ夕食の後片付けの最中か。就寝にはまだ早そうだな」
 それならば戻ってくるには時間がある。

 天幕に運び込まれたチェストには、何の魔道結界もかけられていない。

 ここに忍び込む者がいないと踏んだのか……いや、これだけ無防備だと魔道使いがいないのかもしれない。

 持ち込まれた資料や備品など、手当たり次第に確認する。
 すると意外なことが分かった。

「……これ、魔国第一部隊の記章じゃないか」

 魔国第一部隊は精鋭である。
 学院で習った知識だけだが、一番戦闘経験が多いのがこの部隊のはずだ。

「昼間の会話でエーラーン将軍と言っていたな。ということは、ハイドン将軍?」

 もしハイドン将軍ならば、有名人物だ。ウルスの町を守るのがリトワーン卿ならば、そこを攻めるのはハイドン将軍。両者の力量は互角と言われている。

 エーラーン・ハイドンという名前なのか。そういえばそんな名前、聞いたことがあったかもしれない。

 一応真面目に学院の授業を受けていたが、授業で出てきた人名と所属をすべて覚えているかと聞かれれば怪しい。忘れることだってあるのだ。

 しかしおかしいな。魔国の最精鋭がこんなところにいるなんて……昼間の兵の姿を思い浮かべてみた。
 胸に記章は付けてなかったと思う。つまりわざと付けない?

 意図して外したように思えるが、その理由はなんだろう。
 第一部隊所属ならば、自分の部隊を誇りに思っていいはずだ。

「……意味が分からない」
 そもそも魔国の精鋭がこんなところに隠れて何を?

 これはまだ何かある。
 僕はさらに荷物を調べる必要を感じた。


来月書籍が発売される拙作ですが、実はこだわった所があります。

――内容を密にしようぜ

ということで、空白ページをゼロにしてみました。
章扉(1章のタイトルで1ページ使用します)の位置を同じにするため、奇数ページで切れている場合、次は空ページになってしまいます。それは嫌だったので、編集にお願いして、「コラム」を入れることにしました。
コラムでは連載や書籍本文で語られなかった内容が解説されています。
たとえば、物語の冒頭でのみ語られている「ソールの町の大粛清」とか。
タイトルは『竜操者の楽屋話』で、「そのいち」から「そのよん」まであります。
細かいこだわりですが、少しでも楽しんでもらえたらと思って。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ