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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第6章 大転移-竜魔編

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 今回の潜入だが、事前に分かっていることは少ない。
 情報提供者が魔国の者だったり、逃げてきた者からの話だからだ。

 そもそもふたつに別れた理由が急戦派と穏健派という主義主張の違いらしい。
 ようは内部分裂だ。一方の言い分を全てうのみに出来ない。

「シャラザード、僕は潜入するから、絶対に見つからないようにしてくれよ」
『任せておくのだ。ぐふふ……』

「おい、本当に分かっているのか?」
『もちろんだとも。我を信じろ』
「………………」

 多少不安が残るが、シャラザードを連れて行くわけにもいかないので、置いていくしかない。

「じゃ、帰りの手はずはいいな」
『うむ。そちらも問題ない』
「本当に?」

『くどい。我を信じろと言ったであろう』
 やたらと自信満々に言うところがなんとも怪しい。
「……まあ、いいか」
 これだけ念を押せば、さすがに姿を見られるようなことはしないだろう。

 すでに魔国領に入って大分経つ。
 情報では町や村ではなく、林に囲まれた盆地に急戦派がいるらしい。

「なるほど。あそこか」
 上空から見て分かった。
 山で周囲全部を囲まれた土地の中心部。あれでは入るのも出ていくのも大変そうだ。

 盆地の中心部分だけは平地になっている。
 そこに簡易的な丸太小屋がいくつかみえる。他は天幕ばかりだ。しかもかなり密集している。

「じゃ、行ってくるよ」
 僕はシャラザードの背から飛び下りた。

 シャラザードの真っ黒な巨体は、今回も闇夜に溶け込んでいる。
 上空を飛んでいるシャラザードを目視できる者はいないだろう。

 僕は落下途中で『闇纏やみまとい』を発動し、周囲の闇と一体化する。
 そのまま静かに地上へ降り立った。

「……さてと」
 上空を見上げたが、シャラザードはもう遠くに行ってしまったようだ。

 ここから潜入になるが、注意するのは、魔道結界と技国式の罠などである。

 確認したところ、周辺に感知魔道が仕掛けられている様子はない。
 ここから天幕が並んでいる中心部までまだ距離がある。
 見つからずに行かねばならない。
 魔道結界と見張りに注意しながら、僕は闇に溶けた。



「いたか?」
「いや、いない。そっちはどうだ?」

 ただいま絶賛逃走と追跡が繰り広げられている。
 僕ではない。

 逃げているのは魔国の民間人。おそらく急戦派と行動を共にしていた人たちだろう。
 追っているのは魔国の兵士。それも数が多い。

「いたぞ! こっちだ!」
「よし、追え!」

 僕が知る限り、逃げているのは三人だけ。いずれも若い男性だ。
 理由は分からないが、夜中に逃げ出したところをみると、昼間は何らかの統制が取られていて、自由に逃げ出せないのだろう。

「ひとり捕まったか」
 足の遅い者が兵士に取り押さえられた。暴れているのは、少しでも多くの兵を自分のところに釘付けにする意図だろうか。

 その男は四人の兵士に手足を押さえられ、縄で縛られていく。
「残りは二人だけど」
 もちろん僕は介入しない。逃走を手助けしたり、匿うことはない。

 味方にすれば情報を得ることができるが、潜入する前からそんなリスクは負えない。
「今のうちに忍び込むか」

 あれだけ多くの兵士が出入りしているのだから、感知結界もないだろう。

 案の定、結界が張られている気配はなく、僕は悠々と天幕のある陣の中へ入ることができた。
「とりあえず周辺の様子を探るかな」

 何をするにも周辺の状況を把握しておかなければならない。
 侵入するときに分かったが、周囲全体が木製の柵で固めてある。

 木は周辺からいくらでも採れるし、魔国では木の柵で月魔獣の侵入を遅らせたりするため、みなこの手の防護柵作りに精通していると聞いたことがある。

「……でもこの柵は人の出入りを制限するためのものだよな」

 縦と横にがっちりと木が組んであり、人が抜ける隙間がない。
 よほど逃がしたくないのだろう。

 最初に周囲を巡ったが、どこにも出入りできるような隙がなかった。というか、出入り口は一カ所だけ。
 そこも兵が常時見張っていて、簡単に抜けられない。

「なんかあれだな。陣を見ると……余裕がないというか、何をそんなに恐れているんだかと思ってしまうんだけど」
 その防備の固めっぷりは、異常なほどだ。

 これだけ物理的に頑丈な柵を作ったのには、理由がありそうだ。
 重要施設と思しき丸太小屋にすら、結界を張ってある感じがしなかった。
 つまり、魔道使いが少ないか、結界を張れる魔道使いがいないことがうかがえる。

「盆地に陣を敷いたのは月魔獣対策だろうな。逃走防止も兼ねているだろうけど」
 町だと規模が大きすぎて、目が届かない。さらに出入りする人が出てくると逃げられる可能性がある。

 この盆地はたしかに不便だが、ここに籠もるつもりでいるならば、別段不便さは関係ない。

 それどころか、月魔獣がやってくるには山を登り、さらに下りる必要がある。加えて、木が密集した林を抜けなければならず、天然の要塞のようになっている。
 ここは不便さに目を瞑れば、とても守りやすい土地なのだ。

「……こっちに来い!」
 縄で縛られた三人の男が連れてこられた。

 三人とも顔を大きく腫らしている。後ろ手に縛られているので、痛々しい腫れた顔がよくみえた。

 結局、全員が捕まったようだ。
 兵士は男たちを杭に縛り付けて、一人だけ見張りに残してどこかへ行ってしまった。

 居残った兵は油断なく見ている。
「……ふむ。彼らとコンタクトをとってみたいけど、見張られているから無理そうだな」

 ここで何が行われているのか。
 どうして逃げようと思ったのか興味があるが、この状態で話を聞きにいくわけにもいかない。

「軍人と民間人が一緒に行動しているのも変だし……いろいろ気になるんだよな」

 今回の指令は情報を探ること。それについての具体的な指示はなかった。
 つまり探れるだけ探ってこいと言われたことになる。

 ささいな情報でも持ち帰れば、向こうが勝手に意味を考えてくれる。

 情報が重要か重要でないかを判断する必要がないのは気楽だ。
 見たもの、調べたもの、聞いた内容をすべて持ち帰ればいい。

「そうと決まれば、重要施設っぽいところへ行くか」

 丸太小屋は全部で五つ。
 ひとつずつ中を見てまわったら、士官の会議室に使われているのが一つで、あとは食材の備蓄や貴金属類を仕舞ってある倉庫のようだ。

 ここの隊長ですら天幕で暮らしているのか。
 天幕といっても、大きいのは十人以上寝泊まりできる本格的なものだ。

 寝具を入れれば普通の家で暮らすのと大差ない。

「いまは巡回の兵以外はみんな寝ているし……僕は会議室を使わせてもらうかな」

 本当は寝静まっている間に資料を漁りたかったが、そういったものはどこにも置いてなかった。

 人が寝ている天幕の中にあるのだろうが、潜入初日からそんな危険はおかせない。
 とりあえず明日、日中の行動を見つつ方針を立てることにしよう。

 一番大きい丸太小屋は会議室に使われるらしく、テーブルと椅子が並べられている。
 そこの屋根裏部分に食糧が備蓄されていた。僕はそこで夜を明かした。
 もちろん闇に潜ったままである。



 翌朝、外が騒がしくなった。
 丸太の隙間から外を見ると、兵も民間人も起き出してきて、何人かの民間人と兵士が柵の外へ出て行った。

 斧を持ってソリで出て行ったので、伐採しにいったのだろう。
 民間人が木を切って、兵士がその護衛……逃走防止の監視あたりか。

 昨日脱走した人がどうなったか気になったが、この丸太小屋からは見えなかった。

「それにしても、朝は活気があるな。一体どのくらいの人がいるんだろう」
 遠くからカツーン、カツーンと木を切る音が聞こえてきた。

 また、カンカンと鉄を叩く音も聞こえる。
 金属を叩いていることから、鎧でも修理しているように思われる。

「……ん? だれか小屋に入ってきた」
 下の会議室から人の靴音がする。

 じっと耳を澄ませていると、五、六人が集まったようだ。
 いまから何かが始まるらしい。

「第三と第七の斥候部隊が今朝方、帰還しました」
 そんな声が聞こえてきた。


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