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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第6章 大転移-竜魔編

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 実戦訓練と言う名のごうも……げふんげふん。
 多少厳しい特訓がはじまって、はや十日。

 クレイド隊の面々は、見違えるように逞しくなった。
 ただし、目は死んでいる。

「今日から隊を二つに分けます」
「「はいっ!」」
 いい返事だ。

「バフワン隊長以下三名を第一部隊とします。名前を呼びますから、前に出てください」

 隊をふたつに分けた理由は単純明快。
 特訓の仕上げとして、『窮地に陥った場合の戦い方』を伝授するためだ。

 もうひとつの隊は、副隊長のカイフェ・ドーリン操者が指揮する。
 この二部隊は別々の敵と戦い、僕は両方を監視する立場となる。

 これはシャラザードが提案してきたことで、万一のとき、いかに生存確率を高めるか、その嗅覚を身体に叩き込む訓練らしい。

『最初はみな無駄に散っていったのだ』
 そう話すときのシャラザードは、感情を表に出さないようしている感じだ。

 シャラザードがまだ天頂に輝くカイダの月にいた頃。
 人類の未来を託された竜操者たちは、月魔獣との戦いに決して引くことがなかった。
 数を減らされ、勝ち目がなくなってもまだ、戦いを止めなかったという。

 逃げることは人類に対する裏切りではない。戦力を温存する必要があるのだ。
 死地に赴く竜操者たちに、そう説いたという。

 それ以降、『撤退の決断をする』ようになり、かえって戦線を維持しやすくなったらしい。

「でもその決断をいつするかが重要だよね」
『うむ。何度か経験すれば感覚が掴めるであろう』

 いまシャラザードが課している訓練は激しいものだが、それには理由がある。
 隊として一丸となって活動するためには、個々の竜操者が好き勝手動いては意味が無い。
 だが、たとえば恐怖にかられたらどうだろうか。怖じ気づき、足が止まったら。
 そうならないためにも、引かずに踏ん張ることをまず叩き込むのだ。

 そうして作り上げた隊は決して引かず、仲間を見捨てず敵に向かっていった。
 この中に臆病者はいない。そう思えるようになった。

「よし、今日はこの二つの部隊で狩るぞ!」
「「はいっ!」」
 だからこその、撤退を視野に入れた戦いを教える必要がある。

「出発だ!」
「「はいっ!」」

 僕は彼らを煽ったわけだが、ただでさえ少ないクレイド隊。
 それをふたつに分けたのだから、勝てるわけがない。

 今日はギリギリの所を見極めて、僕が撤退命令を出す。
 今日以降の戦いはギリギリまで戦っての撤退。これを繰り返して、どこで引くべきか、身体に覚え込ませる予定だ。



 四十体と三十体の群れを見つけた。
 最近、人手不足で巡回が完璧にできていない。
 激戦地帯であるから仕方ないが、こうも多いと他の隊は大丈夫かと心配になってくる。
 いや、今はそんなことを考えているヒマはない。

「いけぇ-!」
 号令とともに二部隊が飛び出した。

 多い方をバフワン隊に任せ、少ない方をカイフェ隊にあてた。

「シャラザード、どうなると思う?」
『半分も減らせばよいであろうな』

 月魔獣は竜相手でも怯まず向かっていく。
 数で勝っているときは囲ってくる。

 囲まれてしまうと全方位から攻撃が来るので、そうさせないための位置取りが重要になってくる。

「特訓の成果が現れているね」
 竜操者たちが編隊を組むのは、こういった多数との戦いで、はぐれないためでもある。
 一対一で戦い、足止めされた場合、すぐに左右に月魔獣がやってきて、逃げ場を失ってしまう。

 バフワン隊もカイフェ隊も一糸乱れぬ編隊行動によって、はぐれずにうまく回避している。
 ただし、月魔獣の数が多い。そのため止めを刺す余裕がなく、なかなか数を減らせずにいる。

 戦いは精神を消耗させる。集中力だって、そうそう長く続かない。
 長引けば長引くほど、竜操者が疲れてくる。

「そろそろかな」
 動きに精彩を欠くようになってきた。月魔獣はまだ半分以上残っている。
『もう少しだな』

 彼らは、教えを忠実に守っている。
 いまはシャラザードが強制的に操っているわけではない。

 毎日十戦以上することによって、彼らはその動きに慣れた(・・・)のである。
 かなりの進歩といえる。

「夜明け前に出て、夜中に帰ってくることもあったしな……」

 たびたびではないが、他の隊が大怪我を負って帰ってきたときなど、巡回を途中で切り上げてしまった場所のフォローにまわった。

 そのせいで、実は休みが取れてなかったりする。
 通常、竜操者は巡回に出た翌日は休みとなる。

 一回の出撃で、ほぼ一日移動しっぱなしになるし、ときに日をまたぐこともある。
 体力面や安全を考慮して、翌日に完全オフを入れるのは習慣になっていた。

 だがいまは、五日ごとのローテーションになっていた。
 四日働いて一日休むシステムなのだ。

 そして僕らクレイド隊は、他の隊のフォローをしているため、十日間ずっと働き詰めであり、まったく休みを取っていなかった。

「……ん?」
 彼らの様子がおかしい。崩れるかと思ったところで踏みとどまり、さらに前へ出ていく。
 崩れる直前で撤退の指示を出そうと思ったが、当てが外れた。
 もし竜操者たちが動けない状態でも、シャラザードがいれば強制的に撤退させられる。

 そう思って彼らに撤退の説明はしていない。ただ半分の戦力で戦えとしか伝えていないのだ。

『持ち直したな』

 僕は頷いた。これで撤退を指揮するタイミングを失ったことになる。
 次の機会を待っているうちに時間が進み……。

「倒しちゃった?」
 趨勢は決まった。彼らの勝利だ。
 あとは注意深く気を抜かずに戦えば、遠からず月魔獣は全滅する。
 そして……。

「やったぞぉ-!」
「オレたちが勝利したぞ」
「倒したんだ!」

 雄叫びを上げる彼らに、僕はなんともいえない笑顔を向けた。
 なんと彼らは、半分の戦力で月魔獣を倒しきったのである。

「おめでとう……すごかったよ」

「ありがとうございます。レオン操者」
「我々もやればできることが分かりました」

「う、うん。そうだね。よくやったね」
 肩を抱きあって喜ぶ彼らに、僕はそれ以上かける声を持たなかった。



 撤退戦の特訓を諦めて、その日は月魔獣狩りに終始した。
 敵には事欠かないし、明日以降でもいいだろうと思ったのだ。

 タイニンの町に戻ってきた僕を出迎えたのは、見知った人物だった。

「よぉ、頑張っているみたいだな」

「なんで義兄さんがここに!?」

 なぜかクリスタン義兄さんがそこにいた。
 というか、実家の雑貨屋はいいのだろうか。


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