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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第6章 大転移-竜魔編

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 シャラザードを先頭にクレイド隊は進む。
 目的は、月魔獣の殲滅。

 そしてシャラザードが指揮して戦うクレイド隊の初陣でもある。
 というのも……。



 バフワン操者から今後の編隊運用について相談を受けた。
 聞けばソウラン操者も、隊のリーダーとして活躍しているという。

 一概には言えないが、強力な個体を中心に据えた方が、隊全体としての締まりが良い。

「そういうことでしたら、少しシャラザードと相談してみます」
「は、はあ……シャラザードと相談……ですか?」
 どうも意味が分からなかったらしい。

 クレイド隊は、僕を入れて八名。
 大規模運用に失敗して戦力は半減中だ。

 他のメンバーが復帰するにはまだ日にちがかかる。
 全員が復帰するには、最大で数ヶ月はかかるだろうと。

「……復帰するまでの間に、別のメンバーが怪我しそうだな」

 戦力が足らなくなると、ひとりの負担が増大する。
 かといって、簡単にメンバーを増やすわけにはいかないようだ。

「今あるメンバーで乗り切るには、全体の底上げが必要だけど、問題は他にもあるしな」

 大転移前は、かなり竜操者に余裕があって、休みをとりながら回していたのだが、今はギリギリ。
 全体で二割程度が怪我で戦線離脱していることを合わせると、若干竜操者不足になっている。

「つくづく、回天が祟られるなぁ」

 竜国のどこに月魔獣が降下するか分からなくなったことで、竜操者を『各町へ薄く配置』せざるを得なかった。

 このことで、大小の怪我を負った竜がそれなりの数出てしまったのだ。

 加えて、大転移後に連続運用をしたことで、疲労が溜まり、怪我での離脱が無視できないくらい増えてきてしまった。

 無事な隊は、他の人手が足らない隊のフォローにまわることが暗黙の了解となっている。
 つまり、現状いつまでたっても楽にならないシステムなのだ。

「そういうわけで、竜操者の地力をあげて怪我を減らしたいんだよ」
 月魔獣についてはシャラザード頼みだ。

『そういうことならば、我が教えてもよい。だが、竜を操る者が成長しない限り、大きな効果は望めんぞ』
「そうなんだよね……」

 実はこれ。以前からシャラザードに言われていたことだ。
 シャラザードが竜を操れば、劇的な動きで月魔獣と戦うことができる。

 その間、竜操者がただ乗せられているだけではあまり意味が無い。
 シャラザードの支配から離れれば元に戻ってしまう。

 特訓をして分かったことだが、意識した者とそうでない者では、その後の成長に差が出てきている。
 意識して特訓に臨めば竜との親和性が高まり、それが明暗を分けたらしい。

「ということは竜操者の意識改革からしないと駄目かな」
『うむ……お主もな』
「僕も?」

『我との親和性はもちろん高い。だが、まだまだだ。我をもっとうまくつかうには、互いに分かり合えなければならん』

「分かり合うって……いつもお前は暴走しているだろ」
『我が強くなればまた主も強くなる。そして、主が成長すれば我も成長する』

 聞けば、以前のシャラザードとその乗り手は互いに以心伝心となるほど魂が近づいたのだとか。
 ただし、毎日死ぬくらいの戦いを一年くらい続けた結果らしいけど。

 ターヴェリの時は別として、シャラザードが死ぬような目に遭う戦いなんて、僕は経験したことがない。
 それを毎日、しかも一年も続けたら僕の精神はどうなってしまうのか。

「逆にそういう経験をシャラザードたちはしたってことだよな」

 人類の希望として月魔獣と戦い、最後には散っていった世界。
 月魔獣に対する憎しみを魂の底にまで刻みつけたシャラザードが言う、希望無き戦いとはいったいどれほどのものだったのか。

 それは僕にはいまだ想像できない世界の話だった。

「僕にもできるかな」
 シャラザードの魂と近くなれるのか。

『うむ。たまにであるが、その萌芽は感じる。これまでの戦いからすれば、称賛されるべき速度で成長しておる』
 だけど「それで足りるのか」とシャラザードは呟いた。



 結局、シャラザードとの話し合って、いくつかのことを決めた。

 シャラザードがクレイド隊を率いて月魔獣と戦う。
 最初のうちはシャラザードがメンバーを操ることで、新しい戦い方を学ばせる。

 これは僕も賛成だ。竜国にはもちろん月魔獣と戦うノウハウがあるが、それはあくまで、『安全マージン』をかなり取った場合の戦い方である。

 成長を犠牲にしてでも、安全を優先する方法は正しい。ただし、大転移のまっただ中でも同じ方策は通用しない。

 安全マージンを取りたくても、状況がそれを許さない。怪我の割合が増えているのはそういうことだ。
 数がギリギリならば、ギリギリの戦い方がある。クレイド隊にはそれを身につけてもらう。

 ……と思って、シャラザードの言う『基本』に立ち戻って、月魔獣戦をはじめてみた。

『体力がないな』
「そうだけどね……あれ以上は酷じゃないかな」

 竜にはまだまだ秘められたポテンシャルがある。
 竜たちはそれを別段隠していたわけではない。竜操者がそれを引き出せていないのだ。
 それはなぜか?

「死ぬ!」
「だ、駄目!!」

 乗っている方が耐えられないからである。
 いや、耐えられる。耐えられるが、敢えてそこまで潜在能力を引き出そうとはしない。
 するわけがない。人の身体は脆いのだ。

「あまりやると、胃の内容物が空を舞うよ」
『身体で覚えんことには意味が無い。それに、未熟なまま戦い、死んだら元も子もないであろう』
「まあ、そうだけどね」

 月魔獣を複数体で囲んで、チマチマ攻撃して倒す従来のやり方をすっぱり諦めて、竜の持つ力を最大限に生かして肉弾戦を挑む。
 それは竜操者にとって辛い選択だろう。

 ぶつかった衝撃ひとつで、竜操者の身体ががんがん揺れる。
 身体が固定されているため、首がぐらんぐらんしているが、大丈夫だろうか。

「あれで本当に強くなれるの?」
『あの状態で指示が出せるようにならねばしょうがないであろう。みな通る道だ』

 戦略の前にまず体力、持久力をつける。もちろん竜操者がだ。
 ただ乗っているだけでは駄目なのだ。

 ともに苦労し、倒す喜びを共有し、信頼を深めていくことで、魂がより近くなる。

『それまでガンガン行くぞぉー』
 竜たちの速度があがった。竜にはまだ余力があったようだ。人は……?

「……あっ、キラキラ」
 月魔獣の腕や足の破片とはまったく別のものが宙に舞った。
 南無。

『よし、では我らもやるとしよう。ちょうどよい集団が近づいておるしな』
「……えっ?」

 嬉々としたシャラザードの声。見れば、こちらにやってくる五十体を越える月魔獣の集団。
『あれは我らだけで叩くぞ』

「えっ? ええっ?」
 シャラザードが急加速した。


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