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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第6章 大転移-竜魔編

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 僕はいま、タイニンの町にいる。
 ここはクロウセルトの町の衛星都市のひとつで、陰月の路にかなり近い町としても有名になっている。

「住民はもう全員避難したんですね」
 そう。この町に住民はいない。王都近郊にある新しくできた町に移動してしまった。
 それだけここが陰月の路に近く、住むだけで危険だといえる。

「避難計画の中でもここはかなり優先順位が高かったと聞いています」
 そう答えるのは、壮年の竜操者で名前はバフワン・クレイド。
 なぜか僕に対して敬語だったりする。

「バフワン操者はこの辺り出身なのですか?」

「いえ、私はダネイの町出身です。町の守備隊にいましたが、大転移前にここへ配属されました。それでも周辺の地理はすべて頭に入っておりますので、ご安心ください」

 このバフワン操者だが、僕の上司だ。

 クロウセルトの町に到着した僕は、すぐ前線に配属されることになった。
 一番の激戦地であるこのタイニンの町へ移動を命じられたのは、当然だと思っている。

 激戦地へ派遣されることに否はない。シャラザードだってウキウキしている。それはそれでどうかと思うが。
 問題は上司であるバフワン操者の態度。

「それではレオン操者、参りましょう」
「……はい」
 なぜか僕は、バフワン操者が率いるクレイド隊を乗っ取った形になっている。



 事の起こりはこうである。
 クレイド隊に配属された僕は、隊長のバフワン操者からヒアリングを受けた。
 入隊面接のようなものである。

 度重なる戦闘で、クレイド隊のメンバーは七名に減っていた。
 戦線離脱した仲間が復帰するまでかなりの日数がかかるらしく、欠員分の補充要員として、僕は最初から期待されていた。

「そうですか、規定人員の半分にまで減ってしまったんですね」
 ヒアリングを終え、僕はそんな感想を漏らす。

 本来は十五名で編隊を組むことになっていたが、どの隊も離脱が多く、全数を揃えることはできていない。

 とくにクレイド隊は、先日大規模な降下とかち合ってしまったことで、員数を大きく減らしていた。

「レオン操者の噂は聞いているよ。旧部隊分くらいの戦力にはなりそうだな」

 バフワン操者の言う、旧部隊というのは五名を基準とした編隊のこと。
 現在では危険過ぎるということで、五名編隊は認められていない。
 シャラザードに五名分の働きを求めているのだ。

「まだ学院を卒業したばかりです。いろいろ教えてください。よろしくお願いします」
「こっちは二十年以上やっているからな。いろいろアドバイスさせてもらうよ」

 そんな感じで友好的に迎え入れられたが、最初の巡回からもうおかしかった。

「いまタイニンの町は、四つの編隊が常駐している。それが周辺を巡回して月魔獣を狩っているんだ。休みは少ないし、戦闘回数は多い。精神をやられないようにしろよ」
「はい」

 巡回中、そんな会話をした直後に、大量降下が確認された。

 通常の降下では三十体前後が多い。
 複数のまとまった降下が確認された場合、その規模は倍々へと増えていく。

 今回発見した月魔獣の数はおよそ百体。
 それが見える範囲一面に散っていた。

「これはまずい。引き上げるぞ」

 今のクレイド隊では太刀打ちできない。
 そう思ったバフワン操者は即時撤退を決定した。

 逆に僕とシャラザードは突っ込もうとする。
 そこで隊列が乱れた。

「レオン操者、戻れ! 危険だ」
「大型種もいないし、あれくらい問題ないんじゃないですか?」
「えっ?」
「えっ?」

 互いに認識の齟齬があると気づいたが、敵は目の前にいる。決断は早いほうがいい。
 かといって味方がいる以上、前回のような属性技は使えない。

「シャラザード、手加減できるか?」
『うむ。問題ない』

「手加減できそうなので、突っ込もうかと思いますが、どうですか?」
「い、いけるのか?」
 バフワン操者の声はうわずっていた。

「あれくらいなら問題ないと思います。周囲の討ち漏らしを頼んでもいいですか?」
「……わ、分かった」

 そんなこんなで、大した時間もかからずシャラザードが嬉々として殲滅した。
 バフワン操者の様子が、この辺りからおかしくなった。

 その頃僕は、シャラザードと先の殲滅戦の反省会を開いていた。

『動きに無駄がある』
「やっぱり? 僕もそれが気になったんだ」

 バフワン操者を含めた仲間たちの動きが妙にぎこちない。
 通常ならばそれでもいいが、いまは大転移である。
 ひとつのミスが大怪我につながるのだから、見ていてとても危なっかしい。

「怪我をした竜が多いのは、その辺に問題があるのかな」
『慣れていないから、ありえそうだな』

「陰月の路でずっと活動していた人たちじゃないから、その辺の機微が分からないのかな」
 ダネイの町には月魔獣が出ない。
 バフワン操者自身、経歴は長いが月魔獣との戦闘経験が少ないことも頷ける。

 編隊を組んで戦う以上、隊長の力量が全体を左右するのは当然である。

 とくに多人数での戦闘に慣れていない場合……たとえば五人分とかそのくらいしか指揮した経験が無い場合、十数人分の竜が集まると、戦い以前に、編隊の位置取りにも苦労する。

 そういったささいな部分が重なって怪我人が増えていたとしたら、これは早めに是正した方がいい。

「もしよかったら、戦闘面はシャラザードに任せてみてはどうですか? 竜に指示が出せるので、得がたい経験になると思いますけど」
「そうだな……試してみてもいいかもしれん」

 思い当たる事があったのか、すぐに許可が出た。

 バフワン操者の許しを経て、以降はシャラザードが全体の指揮を執った。
 そしてこの地が「激戦区」と言われるだけのことがあった。

 その後、日没に帰還するまでの間だけで、四回も大規模戦闘があったのである。

 というわけで……。

「レオン操者。明日の巡回路ですが、こんな感じを予定していますが、いかがでしょうか」

 バフワン操者がなぜか敬語で話しかけてくる。
 それだけでなく、作戦内容の確認を求めてくるのだ。

 隊長の仕事を委譲されて、僕はどうしたらいいのだろうか。

 そもそも配属された早々、なんでこんなことに頭を悩ませないといけないのだろうか。


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